日本語学習支援と国際交流への思い

ABIC 留学生支援グループ
コーディネーター
坂本 英樹

「起立」「こんにちは」「よろしくお願いします」で始まる気仙沼市日本語教室は、7月12日の開講式を経て、隔週日曜日の13時から15時まで開かれています。現在の学習者は女性8人(21歳から25歳ぐらい)で7人がインドネシア、1人がベトナムから気仙沼市に来ている、水産加工関係の技能実習生です。すでに、日本には2−3年滞在しており、簡単な日本語を話したり、読んだり、書いたりすることはできますが、職場や普段の生活では日本語を使う機会があまりないので、もっと日本語を勉強したいということで、この教室に参加しています。教室のテーマは、「楽しく学ぶ日本語」です。


日本語教室の様子

学習者が日本語教室に通う動機は、「日本人が何を話しているのか理解するために、日本語の勉強をしたい」「日本の生活を多く学びたい」「日本語を勉強して、将来自分の国で日本語を教えたい」「日本語を使って仕事をしたい」などさまざまですが、「日本語を勉強したい、話したい」という強い気持ちは皆同じであり、授業中にも伝わってきます。

当面の目標は、12月に行われる、日本語がどれだけ分かっているかを判定する日本語能力試験にチャレンジして、N3、N4資格に合格することです。日本語能力試験の合格資格を持っていれば、自分の国に帰ったときに、就職面など、有利に働くとのことで、皆、一生懸命頑張っています。なんとか合格してもらうよう、今は宿題も課して、試験勉強に取り組んでもらっています。試験が終われば、3月までは、「日本をもっと知ってもらおう」をテーマに、易しい日本語での説明や、書道など日本文化の実体験、楽しいゲームなどを通じて、日本文化、日本の良さを知ってもらおうと思っています。

ABICと気仙沼市の日本語でのつながりは、2019年11月に、インドネシアからの技能実習生の受け入れ機関である気仙沼製氷冷凍業協同組合が行っている「入国後講習」の中の日本語学習で、1日だけ、ABICが授業を担当したことから始まりました。20人(全員女性)の実習生に、1日6時間、基本的な文法、医療などの言葉、仕事場での会話などを教えるとともに、ジェスチャーや伝言ゲームで日本語を使った遊びも行いました。授業が終わった後で、学習者から「とても楽しかった」との話があったと伺い、うれしかったです。ABICが2006年から続けている、日本語教師養成講座で教えてもらったことが、実際の現場で活きたと思っています。


生徒に笑顔で語り掛ける坂本氏

気仙沼市は、外国人技能実習生から選ばれる町を目指して、いろいろな施策を講じています。現在、気仙沼市の人口は約6万2千人、外国人の方は約600人居住されています。気仙沼市の地場産業は、今では外国人の従業員が重要な戦力となっており、外国人の方にいかに日本を、そして自分たちが住んで、働いている気仙沼市を分かってもらって、日本、気仙沼市を好きになってもらうかが一つのテーマになっています。気仙沼市は外国人を含めた地方創生のための施策を進めています。

その一環として、気仙沼市内の各事業所で働いている技能実習生を対象に「日本語を楽しく学ぶ」教室を開講しようということで、ABICに日本語教室の講師派遣の依頼がありました。ABICの会員のほとんどは海外に駐在し、赴任地でその国の方々と接しながら数年過ごしていた経験があります。中でも、小さいお子さんを連れて赴任した方々は、お子さんを現地の幼稚園や小学校に入れたとき、言葉の問題、現地での生活スタイルの違いに最初は戸惑い、お子さんがぐずったりしたこともあったと思いますが、1−2週間もすると、先生や地元の子供たちにも慣れてきて、幼稚園・小学校の仲間と現地語で一緒に遊んだりし始めます。戸惑っていたのはわれわれ大人たちの方で、言葉を覚えねばならない、生活習慣を覚えねばならないなど、私も英国・ロンドンに赴任して、苦労したことを覚えています。そのときに助けになったのは、一緒に会社で働く英国人のスタッフ、近所のおじさん、おばさんで、初めは片言の英語でも、辛抱強く聞いてくれて、話が分かり合えるようになっていきました。そして、英国の文化・習慣を勉強し、理解し、アフタヌーンティーなどもエンジョイできるようになりました。国際交流、多文化共生ということで、施策もいろいろありますが、私は、国際交流は身近にあるもの、そこにいる人たちとの交流から始まるものと思っています。


授業中に笑顔を見せる技能実習生

今、気仙沼で働いている技能実習生も、普段は仲間が一緒なので、日本語を使わなくても済むかもしれません。でも、日本語教室を通じて、「日本語を勉強したら、もっと日本のことがよく分かるよ」「もっと楽しくなるよ」と思わせてあげたいと思っています。気仙沼市の方々と日常生活の中で、日本語で触れ合ってほしいと思っています。

彼女らは、「日本はきれい、日本人は優しい、食べ物がおいしい、四季がある」など良い点を挙げるとともに、「豚肉の入った料理が多い」と、イスラム教徒ならではの指摘もしています。われわれも彼女らの国の文化やしきたりを理解しながら、一方で、日本語の勉強を通じて日本の良さ、日本そのものをもっと知ってもらって、日本での生活を楽しみ、帰国したら母国と日本との懸け橋になってもらえるよう、日本語を楽しく学んでもらって、皆にどんどん日本語を話してもらうような時間をつくっていくつもりです。

気仙沼市日本語教室への想い

本教室を主催している気仙沼市震災復興・企画部 地域づくり推進課 課長の千葉正幸氏よりメッセージをいただきました。

ABICの支援により、2020年7月から市内外国人を対象とした日本語教室を月2回開催しています。新型コロナの影響で開始時期は2ヵ月遅れ、8月はいったん講義を延期するなど、波乱の幕開けでした。それでも現在8人の技能実習生が日本語能力試験に向け、熱心に受講しています。受講されている技能実習生は、技能の習得のみに限らず、帰国後、「日本語で仕事がしたい」「起業したい」「また日本に来たい」といった志を持った方々です。ぜひ、日本語能力試験に合格し、母国に帰られてからも活躍していただきたいと思っております。

気仙沼市の外国人技能実習生は20歳代の女性が多く、親元を離れ言語や生活習慣、文化などの違いに戸惑いや不安等を感じながら日々を送っていることと思います。日本語教室を通じた支援や交流を充実させ、不安を解消し、気仙沼の住みよさをアピールして、外国人から選ばれるまち・来て良かったと思われるまちを目指していきたいと考えています。

今後、多くの技能実習生に日本語教室を受講いただけるようABICとの連携を深めるとともに、日本人も外国人も地域の一員として互いに理解し尊重し合える関係づくりを進めていきたいと思います。

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