「商社の担当者が語るアフリカビジネス」

伊藤忠商事株式会社 調査・情報部 海外調査・情報室長柿沼 純平
双日株式会社 海外業務部 海外デスクグループ グループリーダー角田 和雄
豊田通商株式会社 アフリカ本部 アフリカ企画部 部付・部長補塩﨑 孝博
丸紅株式会社 プラント・プロジェクト部 部長山口 茂
日本貿易会 広報・CSRグループ長(司会) 伊藤 直樹

5月9日、伊藤忠、双日、豊田通商、丸紅の4社でアフリカビジネスに関わっている皆さんにお集まりいただき、アフリカビジネスについて、その特徴、魅力、課題、TICADに向けた取り組みなど、さまざまな角度から話し合ってもらいました。そこから見えてきた、アフリカビジネスの姿は、どんなものでしょうか。
(出席者の役職や発言内容は全て座談会を開催した5月9日(木)時点の情報に基づいています)



1.アフリカビジネスとの関わり


司会:まずは皆さんのアフリカビジネスとの関わりについて、順番にお話をお聞きしたいと思います。

柿沼:伊藤忠商事の海外調査・情報室に所属し、海外市場の調査、および、各国政府機関や財界団体・二国間経済委員会などの窓口対応を通じたビジネス開発支援を行っています。特にアフリカのような先行布石市場については、情報を営業部署に提供したり、来日する要人の対応を営業部署と一緒にしたり、役員が現地出張する際のサポートもしています。

角田:双日の海外業務部で、柿沼さんと同じように、経営トップのプロトコール活動支援や、社内外と連携を取りながら営業案件開拓の支援をしています。アフリカ以外の地域も担当しているのですが、2018年来TICAD7の官民円卓会議のワーキンググループにメンバーとして参加させていただいていることもあり、アフリカの仕事の比重が高まっています。

塩﨑:豊田通商から南アフリカ共和国のダーバンに5年半駐在し、ゴールデンウイーク前に帰国したところです。駐在期間中は管理部門所属でしたが、帰国後はアフリカ本部という営業本部に所属しています。アフリカ本部は、豊田通商で初めて全営業組織のアフリカビジネスをまとめた地域軸の組織です。まだ設立から3年目の若い組織で、私は企画を担当しています。駐在期間中はアフリカで23ヵ国を回ったのですが、今後もアフリカビジネスに専念することになります。

山口:丸紅のプラント・プロジェクト部長をしています。今はアフリカビジネスばかりというわけにはいきませんが、入社直後の仕事がナイジェリアのエネルギー化学プラント関連で、7年目から4年間ナイジェリアに駐在。2012年から2018年春までは、新規ビジネス開発組織としてヨハネスブルクに設立されたサブサハラデスクに駐在していましたので、入社以来どっぷりアフリカビジネスに漬ってきました。

塩﨑:丸紅のサブサハラデスクは非常に大所帯でしたね。

山口:最大で14人体制でした。全社の営業開発組織という位置付けで、文字通りサブサハラを駆け回った6年間でした。

司会:それぞれ立場や役割は違っても、アフリカビジネスに深く関わっておられるということですね。特に豊田通商のアフリカ本部という営業組織は、商品縦割りが基本といわれる商社業界の中では、大変ユニークな取り組みだと思います。

塩﨑:そうです。しかも、アフリカ本部CEOはフランス人で、統括拠点をパリに置き、公用語は英語です。2012年に買収したCFAO(セーファーオー)というフランス最大の商社の社長が、現在は本部CEO、アフリカ極CEO、アフリカ地域統括を兼務して、文字通り当社のアフリカビジネスの総指揮官として活躍しています。2019年1月には、トヨタ自動車株式会社のアフリカ市場における営業業務が、アフリカ本部に全面移管され、トヨタ自動車からかなりの人数の社員の方々が出向して来られました。これらの動きの背景には、アフリカが大きなポテンシャルのある市場との認識があり、全社を挙げて、従来にないレベルの取り組みを行っていこうとしています。


2.アフリカ市場の魅力と課題、各社の取り組み


司会:アフリカ市場には大きなポテンシャルありという話が出たところで、どんなところに可能性があるのか、どんなビジネスに着目しているのか、また最後のフロンティアとしての市場攻略の課題などについて、お話を伺えますでしょうか。

柿沼:アフリカ市場は、結構何でもある市場だというところが魅力と思っています。天然資源もいろいろある上に、人口が大きい。人口は今後も増えていくので販売市場、消費市場としてのポテンシャルもある。歴史的にみても、外国企業はアフリカの資源を買うところからビジネスを始めたところが多かったのですが、だんだんと購買力が付いてきて、消費財が売れるようになり、そうすると輸送や生活などのインフラにも投資が必要というように、少しずつ折り重なるように市場の厚みが増してきている。将来はさらに多様なビジネス展開が可能な市場になっていくんじゃないかなと思います。伊藤忠でも資源投資とともに、アフリカの外貨獲得手段である農業分野に力を入れており、先進国向けにカカオ、コーヒー、ゴマを輸出中で、パイナップルもブランド化含め取り組み中です。

角田:双日も伝統的な商売は金属資源や原油等のエネルギー関連ですが、金属資源では、EV用途の拡大を受け従来の日本市場に加え、中国やインド等への供給を強化したり、アジア市場等で需要の拡大が見込まれるLNGのトレード拡大を目指すなど、時代の変化に対応した新たな商売を開発しています。先ほど話のあった農業関係では、安全性の高い農薬や、肥料など生産拡大に必要な資材であったり、生活水準の向上に対応した消費財や日用品として、食品や合成樹脂、化学品なども有望だとみています。

司会:確かに人口が大きいというのは魅力ですね。国連の統計を見ると現時点でも13億人と、中国やインドと肩を並べるくらいの人口があるのですが、今後は増加率で上回るので、2050年には25億人に達するという予想です。GDPもまだまだ伸びる余地がある。一方で、実態としては、日本企業の貿易や投資は、欧米のみならず中国や韓国の後塵(こうじん)を拝していますね。ポテンシャルと同時に難しさもあるということでしょうか。

塩﨑:その通りで、やりがいはあるんですけど、難しい市場であることは間違いありません。人口は全体では大きいのですが、国の数も五十数ヵ国あって、制度もバラバラ、政治的にも安定しない国が多く、政権交代でルールが変わることもしばしばです。これらのリスクをできるだけ避けながら、でもリスクを取らずにビジネスはできませんから、うまくバランスを取って取り組みを進めることが重要かなと思います。豊田通商の場合も、注力する国や地域には優先順位を付け、ビジネスの分野も絞りながら、インフラやヘルスケア、そして自動車関連を中心にビジネスを展開しています。特に自動車は、トヨタ自動車から移管されてきた商売を核に、どうバリューチェーンを広げていくか、それをいかに迅速にやるかに腐心しています。

山口:丸紅のビジネスも、大きな投資は赤道ギニアのLNGやガーナのFPSO(浮体式石油・ガス生産貯蔵積出設備)など資源・エネルギー系が中心です。ご指摘の通り、個々の国の経済規模がそんなに大きくないというのは、特にプラント輸出などプロジェクト規模の大きなものをやるには制約条件となります。おのずと相手は政府や関係機関になるのですが、それでも財政余力は限られていて、資金的な難しさが伴います。

柿沼:私もプラント出身ですが、プラントのような大型投資を行うときにはバンカブル(外部資金調達可能)になるかどうかがポイントになります。規模的にスポンサーの資金だけではできないものが多く、銀行がプロジェクトファイナンスを提供してくれるか、JBIC(国際協力銀行)など公的金融機関の支援をもらえることが条件となります。

司会:しかし条件は進出が進んでいる欧米企業も同じなのでは。

角田:特に欧州は旧宗主国も多く、歴史があって資源権益をしっかり押さえています。地理的にも近いので、日本企業が中国やアジアで、米国企業が中南米で生産拠点を築いたように、欧州は古くからアフリカに生産拠点を設けている点でも先行しています。

塩﨑:自動車も欧州勢はほとんど南アフリカ共和国に生産拠点を持っていて、他地域にも輸出しています。消費財についても、ユニリーバなど古くから進出している企業のブランドイメージが定着しており、強みを発揮しています。

3. TICAD7に向けた取り組みや期待

司会:アフリカ市場の重要性については、日本政府も早くから着目してTICADの開催を提唱。1993年に国連や世界銀行、国連開発計画(UNDP)と共に第1回を開催し、その後もホスト国としてTICADの継続開催を支援してきました。2019年8月末にはTICAD7が横浜で開催されますが、これに向けた取り組みや期待、課題などについて、お話を伺っていきたいと思います。官民円卓会議に参加されている角田さん、まずは今回のTICADのポイントはどんなところにあるのでしょうか。

角田:TICADは基本的にアフリカ諸国と日本政府、UNDPやAUCなど共催者の首脳による政府間会議なのですが、TICAD7では、議論の中心を官による公的援助から民間の投資やビジネスの拡大に大きくシフトし、具体的な成果を示していくべき段階にきています。そのために会議への民間、特に日本側のみならず、アフリカ側の民間企業の参加や、発言機会をもっと増やしていこうということを、官民円卓会議でも議論し、官民によるビジネス協議会の新設などを安倍首相に提言しました。個人的にも、これまでとは形を変えたTICADになればいいなと思っています。実際にアフリカでも、携帯電話の普及やデジタル革命が社会を急速に変えつつあり、随所でスタートアップ企業が活躍を始めています。日本企業はこの分野で出遅れており、もっと目を向けていくようにしないといけない。地域担当としては、2018年に社内で立ち上がったビジネスイノベーション推進室にもアフリカに目を向けてもらい、ベンチャー投資を実現していければと考えています。

塩﨑:豊田通商では、全社を挙げてTICADに取り組んでおり、出展企業でも最大級のスペースを確保。全社横断的なプロジェクト・マネジメント・オフィスを立ち上げています。確かにTICAD自体は政府間会議なのですが、そこにいかにうまく乗っかって、集まってくる人々にアピールできるかが勝負と考え、プレイベントでの講演にも積極的に登壇させていただいています。アフリカ本部発足後初のTICADですから、その存在感を発揮する絶好のチャンスです。

山口:TICADには過去何回か参加しているのですが、会社の上層部の目をアフリカに向けてもらうにはまたとない機会です。アフリカ各国の政府も期待を持って参加してくるし、JBICやNEXI(日本貿易保険)なども機能発揮が求められる。こういうモメンタムを利用して、案件形成につなげていきたい。角田さんが指摘されたスタートアップという点では、丸紅は2018年秋、タンザニアで日本人が立ち上げたWasshaという電力の量り売りサービス事業に資本参加しました。未電化地域でキオスクを通じてランタンをレンタルし、携帯電話で料金回収するというICTを活用したビジネスです。

柿沼:私もTICADには関与していますが、やはりTICADのおかげで伊藤忠社内にアフリカドライブが多少かかっていると感じます。営業部署は目先の案件に対応するので手いっぱいで、先行布石の部分が遅れがちになることもありますが、TICADの影響もあって、アフリカに目を向けるきっかけができ、現地駐在員増強にもつながっています。プロジェクトの交渉も、TICADに向けて何としても合意を実現しようというドライブが働きます。

4.アフリカビジネス推進のポイント

司会:最後に日本企業が今後アフリカビジネスを拡大していくための、課題や工夫などにつきお聞きできますか。

塩﨑:他国企業と競争するだけでなく、協力できるところでは連携してアフリカ市場を攻略すべき場合もあります。例えば、アフリカの人たちの求めるのは、日本製品ほどハイスペックではなくて、価格は安いけれど、そこそこ使えるもの。壊れても自分たちで直せばいいという感じです。自動車なども、最後の最後まで乗り尽くす。そういう世界で、日本の強みである品質がどこまで売りになるのか。一方、このレベル感はまさにインド製品にぴったり。日本企業も、日本製のみにこだわらず、アフリカのニーズに合う商品をいかに提供できるかがポイントになります。その際インド製品というのも一つの切り口として考えられるのではないでしょうか。

角田:双日では円借款を活用して、空港とか交通インフラ関連のプロジェクトを進めていきたいと考えていますが、日本企業だけでは競争力が出ない場合に、インドやトルコなどの企業と組んでいくことがビジネス上は必要となります。しかし組み方によっては、円借款が使えなくなることもある。官民円卓会議でも議論になっている円借款の供与条件の緩和も大きな課題の一つです。先ほど話題になったスタートアップとの連携強化も待ったなしの課題です。JETROが2019年2月に「アフリカ・スタートアップ100社」をまとめておられますので、興味があればどんどんコンタクトできる。特にケニア、ナイジェリア、南アフリカなどにはスタートアップが続々と登場しています。

柿沼:SDGs観点からの取り組みも重要であり、ぜひ考えたいと思います。「売り手よし、買い手よし、世間よし」で、「三方よし」と言いますが、伊藤忠もこの特集の「イチ押し案件」に掲載しているプラチナ・パラジウム鉱山開発で「三方よし」を実践しています。現地で雇用を創出し、製品は自動車の排ガス浄化に必要な触媒であり環境対策に欠かせません。住民と環境に配慮して露天掘り計画を坑内掘りに変更しました。深く掘った結果、優良鉱脈の発見に至ったという経緯もあります。こうした配慮が企業価値を上げることにもつながります。

山口:アフリカの案件は、周囲からいつまでやっているんだと言われるほど時間がかかります。もともと時間感覚が違う上に、政権が途中で変わったりして許認可がさらに遅れる。そうこうしているうちに、案件が消えてしまうこともしばしば。このビジネス環境を少しでも改善していくために、政治を安定させ、制度を近代化し、現地人材を育成する総合的な支援策をぜひとも実行してもらいたいと思います。

塩﨑:南アフリカでは黒人を優先的に雇用する義務がある上、大手企業はそれに従って高いポイントを保有していないと、調達先から外されることもある。こうした政策やローカルコンテンツなどが周辺国に広がっていく可能性がある。こういった動きをよく見極めてビジネス展開の方向性を定めていくことも重要です。

司会:皆さんからお話を伺って、素人の私にも、何となくアフリカビジネスの姿が見えてきたような気がします。TICADを契機として、各社の取り組みが一層拡大することを期待します。本日はどうもありがとうございました。

柿沼 純平 氏


伊藤忠商事株式会社
調査・情報部
海外調査・情報室長
柿沼 純平 氏

1991年入社。海外通信事業部、化学プラント部を経て、2008年リオデジャネイロ支店長、2012年伊藤忠メキシコ会社社長。2019年から現職。


角田 和雄 氏


双日株式会社
海外業務部 海外デスクグループ
グループリーダー
角田 和雄 氏

1986年入社。自動車、合成樹脂、化学品の営業を経て、2017年より海外業務部海外デスクグループ。海外駐在はインドネシア、メキシコなど。


塩﨑 孝博 氏


豊田通商株式会社
アフリカ本部 アフリカ企画部
部付・部長補
塩﨑 孝博 氏

1989年トーメン入社。オランダ、ニューヨーク駐在を経て2009年財務部。2013年から南アフリカに駐在、2019年4月帰国して現職に。


山口 茂 氏


丸紅株式会社
プラント・プロジェクト部
部長
山口 茂 氏

1991年丸紅入社、エネルギー化学プラント部配属。1998年ナイジェリア駐在、2012年サブサハラデスク(ヨハネスブルク)所長などを経て、2018年現職に。

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