ヤンゴン市中心部の 大規模複合再開発事業

三菱商事株式会社
新産業金融事業グループ 不動産事業本部
インド・ミャンマー都市開発事業部 部長代理
遠藤 希典
三菱商事株式会社
新産業金融事業グループ 不動産事業本部
同部 インド・ミャンマー都市開発事業チーム 課長
安藤 幸彦

1. ヤンゴンにおける大規模複合再開発事業の背景と意義

ミャンマーは2011年に民主化され、市場開放と外資導入が推し進められていますが、2016年4月にアウンサン・スーチー氏率いる新政権が発足して以降、米国の経済制裁の解除も進行しており、アジアにおける有望市場として急速な発展が期待されています。

ヤンゴン中央駅を通る同国の環状線は、大都市の中心部にまたがる環状線という点で、日本のJR山手線と似た要素を持つ路線であり、当社が手掛けているヤンゴン中央駅前周辺の大規模複合再開発事業「ヨマ・セントラル・プロジェクト」は、日本における東京・丸の内のようなエリアをイメージした開発事業です。このプロジェクトでは、駐車スペースの確保によりヤンゴン都市部で発生している慢性的な渋滞を緩和したいという同国政府の希望を受けて、地下5階までの基礎工事を行って駐車スペースをつくる予定であり、高層住宅も含め同国都心部のビジネスや商業の「Landmark」になるプロジェクトです。

2. 大規模複合再開発事業の概要

事業の対象となる地域はヤンゴン中央駅前のダウンタウン中心部であり、約3万9,000㎡の敷地面積は同国の都市部における開発では最大級の規模です。総床面積は約22万㎡であり、高級分譲住宅1棟(96戸、延べ床面積約4万㎡)、オフィスビル2棟(延べ床面積合計約8万5,000㎡)、サービスアパート・ホテル1棟(サービスアパート89室、ホテル280室、延べ床面積約5万㎡)を建設する予定であり、各棟共通の基壇部に延べ床面積約4万5,000㎡の商業施設が入る予定です。なお、当社は参画しておりませんが、近接する歴史的建造物である旧鉄道省の庁舎はホテルに改修されペニンシュラホテルが開業予定です。

この事業は、現地Serge Pun & AssociatesLtd.グループ(SPAグループ)のYoma StrategicHoldings Ltd.(YOMA社)とFirst MyanmarInvestment Co., Ltd.(FMI社)、当社および三菱地所株式会社、株式会社海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)がパートナーとなって出資し現地プロジェクト会社を設けて実施しているもので、アジア開発銀行(ADB)、世銀グループの国際金融公社(IFC)からは出資と融資を受けています。現地プロジェクト会社への出資割合は、SPAグループ60%、日系グループ投資会社(当社と三菱地所、JOINで組成)30%、公的金融機関(ADB、IFC)10%となっており、事業総額約6億ドルのうち、日系グループは約2億ドルをコミットしています。既に、建設工事は2017年12月に着工しており、2021年の中頃に竣工(しゅんこう)する予定です。


完成イメージ図

完成イメージ図


※ 左よりオフィス棟、オフィス棟、ホテル・サービスアパート棟、分譲住宅棟
※ 手前低層建物は本プロジェクトとは別事業の、既存建物改築によるホテル開発プロジェクト

3. 事業実施における三菱商事の役割

当社のミャンマーとの関係は約90年の歴史があります。同国は軍政の期間が長く、米国の経済制裁などが日本企業を含む外資企業の事業展開に影響を与える時期もありましたが、当社は長期にわたりビジネスを展開していました。2011年に民主化された際にも、エレベーターの販売代理店事業等を通じて関係構築していた現地SPAグループ創設者であるMr. Serge Punから本事業への参画打診を受けました。同氏が米国の経済制裁とは無縁のミスター・クリーンと呼ばれる人物であったことや、長いリレーションを通じてお互いに信頼関係が構築されていたことから、この事業が実現に至りました。SPAグループはミャンマーにおける有力なコングロマリットであり、不動産を中心に銀行、自動車、農業、観光業などを幅広く手掛けており、現在は当社の戦略的包括パートナーとなっています。

本事業における当社の役割としては、プロジェクトの実現に向け、東京・丸の内での開発実績を持つ三菱地所や国交省主管の官民ファンドであるJOINを招聘(しょうへい)して投資会社を組成し、現地事業会社に人員を派遣して、事業全体をオーガナイズしています。また、土地のリース契約の更新に際して、1998年から50年間を基本として10年間の延長が2回できる形にするなど、長期的な視点で事業の実現に向けて、当社はミャンマー政府との交渉をサポートする役割を担ってきました。

4. 現在の進捗(しんちょく)状況とミャンマー不動産市場への期待

現在の進捗状況は、古い建物を解体して新しい建物を建てるための準備が始まっているところです。このプロジェクトはミャンマーにおける東京・丸の内かいわいの街並みをイメージしたプロジェクトであると先ほど述べましたが、丸の内と多少異なる点は分譲住宅が入っていることです。分譲住宅の販売戸数は小規模ですが、SPAグループが現地のネットワークを利用して販売開始しており、2018年3月に開催した販売イベントは盛況でした。

オフィステナント候補企業へのリーシング活動についてはもう少し先になる予定です。これまでのミャンマーにおけるオフィスビルは、同国では最高ランクのビルであっても国際水準と比較すると乖離(かいり)があると感じる状況でした。この事業では、外資企業が求める水準に合致する品質のオフィスを開発することをコンセプトとしており、今後ミャンマーに進出してくる外資系企業や金融機関の要望事項にも十分耐え得る国際水準のオフィスビルを目指しています。これによって、同国のオフィスビル市場がワンランクアップすることを期待しています。


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