不確実性が深まる環境下での商社機能

一般社団法人日本貿易会 副会長 三菱商事株式会社 社長
小林 健

2016年は、世界の経済、政治両面で先行き不透明感がさらに高まるとみています。中国をはじめとする新興国経済の成長鈍化が継続する中、世界経済の回復は緩慢なものにとどまり、資源価格の低迷も長期化が想定され、商社にとって当面は厳しい事業環境が続きます。米国では利上げが開始され金融政策正常化を模索する一方、日本や欧州では緩和的な金融政策が維持、強化される中、国際的な資金フローの潮目は変化しつつあり、一時的な金融市場の混乱も懸念されます。さらに、中東情勢の混迷やテロの脅威の世界的な拡大など、地政学リスクは従来以上に高まっています。

日本経済は回復の途上にあり、長年の低迷から脱却し力強い成長を取り戻すために、今こそ成長戦略の実行を加速していくことが求められます。特に2015年に大筋合意したTPP は、日本の成長戦略にとって極めて重要であり、早期発効が期待されます。また、安倍政権が推進するアベノミクス第2ステージは、少子高齢化という大きな課題に正面から取り組むものであり、着実な実行が望まれます。企業はこうした成長戦略と軌を一にして、直面する課題を自ら解決し民間主導の成長を実現させることで、経済の再生に貢献することが重要だと考えます。

商社の役割は、このような不透明な事業環境を所与の条件と捉え、社員の英知を結集して将来を見通し、日本産業界のさらなる成長につながるビジネスチャンスを発掘することに尽きます。そのためには質の高い、商社ならではの情報収集が不可欠です。

商社はこれまで、長い時間をかけて国際的なネットワークと日本産業界への幅広いアクセスを構築してきました。一昔前は国内外の現地法人や支店を指してネットワークと呼んでいましたが、商社のビジネスがトレーディングから事業投資、事業経営へと変遷する中で、多種多様な事業に根差した拠点のネットワークが加わり、重層的なグローバルネットワークを構築しています。そこから得られるえりすぐりの情報、インテリジェンスが現在の商社ビジネスを支えています。

こうしたアセットを活かし、新たなビジネスを創り出すために重要なのは「人材」です。多面的な視野を持ち、果敢に変化に立ち向かえる人材を継続的に生み出すことにより、日本産業界の成長に貢献していくことが求められています。経済の先行きが不透明な時代だからこそ、商社の果たす役割はますます大きく、重要になっていると考えています。

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