グローバル人材育成の 目指すべき姿

社団法人日本貿易会
常務理事
市村 泰男

私は2010年12月より文部科学省主催の産学連携によるグローバル人材育成推進会議の委員を務めましたが、2011年4月に「産学官によるグローバル人材の育成のための戦略(案)」として委員会が報告書をまとめ上げ、その後、文部科学省より内閣府に答申され、内閣府内に「グローバル人材育成推進会議」(座長 枝野官房長官、構成員として玄葉国家戦略担当大臣、 松本外務大臣、高木文部科学大臣、細川厚生労働大臣、海江田経済産業大臣)が組成され2011年6月22日に中間報告が提出されました。上述したグローバル人材育成の目指すべき姿に関して産学連携によるグローバル人材育成推進会議がまとめた内容について、概要を簡単ではありますが、以下の通りご報告したいと思います。


1. 現状と課題


①現状
*グローバル化が進んできている中で若者のいわゆる「内向き志向」が顕著に現れており、 日本からの留学生数が激減している。
2004年に8万3,000人いた留学生が2008年には6万6,000人に減少。また、今後海外で働きたいかとのアンケート調査でも49%の学生が働きたいとは思わないと回答(産業能率大学調査報告)。
*諸外国の高等教育の国際化が進んでいる(例:シンガポール・豪州)。一方、日本は 出遅れている。

②課題
*グローバル社会、知識基盤社会の中でたくま しく生き抜く人材の育成・支援が重要課題。
*国は速やかにグローバル人材育成のための戦略の全体像を明らかにした上で、個別施策のその効果を最大限引き出すような見直し をすることが必要。
*大学は一層グローバルな魅力ある高等教育を展開し、世界に向けて発信するとともに、日本人留学生の派遣や外国人留学生の受け入れの環境整備を進めることが必要。
*教育界、産業界、国の三者協力の下でグローバル人材の育成と支援に取り組むことが必要。


2. 基本方針


①大学の教育力を磨きつつ世界展開力を強化する。
国内外において魅力ある日本の高等教育を 日本人学生および外国人留学生に提供できるよう、大学の教育力を磨くとともに世界展開するための環境整備を図る。

②世界的な学習フィールドで日本人学生を育てる。
日本人学生が海外における留学などの海外経験を通じてその見識を高め、世界で通用する人材として成長するための環境整備を目指す。

③日本の高等教育を世界に発信する。
日本の高等教育を世界に向けて発信し、優秀な外国人留学生を確保するとともに、外国人留学生と日本人学生が互いに切磋琢磨するための国内環境の国際化を目指す。

④グローバル人材育成に合った社会環境に変革する。
産学官が協力し、社会全体でグローバル人材を育成するための環境づくりを行い、社会構造の変革を目指す。


3. 具体的方策


1)大学の役割
①国際的な通用性を確保し、魅力ある教育を提供する。
魅力ある教育の提供、ミッションの明確化や質保証の取り組みの国際標準化、効果的な教育方法の活用、教員の指導力強化、教育達成度を図る手法の確立、ファカルティ・ディベロップメントの実施。
②大学自体のグローバル化。
グローバル化に対応した体制整備、優秀な外国人教員の確保、外国語コースの設定や外国語による授業の推進、海外の大学との連携教育プログラムの研究・開発、大学の取り組み成果の可視化など。
③日本人学生の海外留学を後押し。
実用的な外国語教育の実施、交換留学制度の拡充、短期海外体験留学制度の整備、大学独自の奨学金制度の充実、留学支援のための体制整備。
④優れた外国人留学生を確保する。
魅力ある教育プログラムの設定、日本語教育プログラムの充実、大学独自の奨学金制度の充実、留学生の受け入れ支援のための体制整備。
⑤他国の大学づくりを支援する。
日本の高等教育(教育プログラム、教育手法、教員等派遣、日本への留学など)をパッケージとして提供。


2)企業の役割


①企業の採用環境を変革する。
採用活動の早期化・長期化是正、採用スケジュールの弾力化・複線化、留学等の異文化体験に対する企業評価の明確化と積極的採用、企業が必要とする人材像(語学力、専門性、キャリア等)の明確化。
②日本人学生の海外留学を支援する。
日本人学生に対する留学支援奨学金の充実、現地支援ネットワークの構築、現地法人インターンシップ機会の充実(長中短期)。
③外国人留学生の日本留学を支援する。
外国人留学生のための企業奨学金の充実、外国人留学生への宿舎提供、国内法人インターンシップ機会の充実(長中短期)、現地法人等における日本留学に関する情報提供。
④頑張る大学を支援する。
グローバル人材育成のための寄付講座の充実、正規授業等への講師派遣等により大学の取り組み支援。


3)国の役割


①高等教育外交を展開する。
高等教育外交の戦略モデルの確立、外国大学と日本の大学の連携強化。
②産学官連携の環境を整備する。
産学官連携プラットホームの構築、大学のグローバル化の取り組みの評価・検証、グローバル人材育成のための省庁間連携の推進。
③グローバル化推進事業を推進および改善する。
高等教育におけるグローバル化の拠点づくり、世界展開を図るための仕組みつくり、学生の異文化体験機会の充実、留学生に対する奨学金制度の充実、事業の効果的な実施。
④初等中等教育と高等教育の連携を推進する。
異文化体験に係る連携協力の強化、英語教員養成プログラムの充実、大学入学者選抜試験の改善。

上記の通りグローバル人材育成の目指すべき姿として報告が出来上がり、その内容を反映して内閣府のグローバル人材育成推進会議においてほぼ同様の中間報告がなされております。グローバル人材の育成は2010年6月に政府より発表された「新成長戦略」の重要課題の1つとして取り上げられておりますが、今後この中間報告に沿った形で具体化することがグローバル人材育成に非常に重要でありますので、ぜひ早期の実現を期待したいと思います。
なお、グローバル人材育成推進会議の委員は以下の通りです。
河田悌一(元関西大学学長)、伊藤元重(東大教授)、白石隆(政策研究大学院大学学長)、土居丈朗(慶大教授)、谷内正太郎(元外務事務次官)、涌井洋治(日本たばこ産業会長・元財務省事務次官)、新浪剛史(ローソン社長)、 岸本治(ソニーグローバル人材開発部門長)、 市村泰男(日本貿易会)

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