帝人が展開する「ナノフロント®」およびその用途展開について

帝人株式会社ソリューション開発部
田中 昭

1.高強度ポリエステル長繊維ナノファイバー「ナノフロント®」の開発

合成繊維の技術開発において、「より細くて強い繊維」を創ることは、合繊メーカーが常に追求してきた半永続的な課題である。これまで、繊維の直径が 1µm以下の、いわゆるナノファイバーを製造する方法としては、メルトブロー法やエレクトロスピニング法などが多く報告されている。しかし、これら技術では、細繊度を優先するが故に、力学特性(強度・寸法安定性等)の不足や、商品形態が不織布や短繊維集合体に限られること、生産効率の低さなどが実用上の課題であった。

そこで、「力学特性に優れ、極めて均一な繊維径を持つ、長繊維である、高強度ポリエステル長繊維ナノファイバーの工業的製糸技術の開発とそれを利用した高機能商品の開発」を目標とした。
本開発の特徴は次の3点となる。

①ポリマー設計と
精密複合ポリマー製糸技術
口金・ポリマー・製糸技術を最適化
②構造体加工技術糸の組み合わせや織編物の最適構造開発による機能発現
③多様な商品開発特殊機能を活用した商品開発とその特性に合わせた評価方法を開発これらによって、世界初の均一径(直径700nm)のナノファイバー「ナノフロント®」および各種商品開発が可能となった。しかしながら、ナノサイズ径の繊維ゆえ、高表面積による高摩擦抵抗が生産技術面で大きな妨げとなっていた。この部分を鋭意検討し最適化(構造体の設計・生産設備設計)することで、この「ナノフロント®」を用いた各種商品の開発を成し遂げることが可能となった。

ナノフロント®


髪の毛


2.展開事例:「ナノフロント®」を利用した面ファスナ-「ファスナーノ®」の開発


ファスナーノ®

「ファスナーノ®」は、ファスナーのメス材として「ナノフロント®」のパイル状生地を開発、オス材はそれに適したポリエステルの立毛生地を開発することで実現した面ファスナーである。「ナノフロント®」をパイル状生地とすることで、その特性である高い摩擦力を最大限に活かし、オス材の立毛生地の毛先に交絡することにより、接着面に対し水平方向に引き剥がす場合には高い接着性を有し剥がれにくく、垂直方向に引き剥がす場合にはメス材・オス材が簡単に剥がれるため、わずかな力で容易に着脱することが可能である。また、引き剥がす際に発する音は、日常生活における室内での騒音量と同等である。さらに、メス材・オス材いずれの生地とも柔らかいため、肌に触れても痛みを感じることはなく、さまざまな形状のものに取り付けることが可能である。現在、これらの特性を活かすことができるさまざまな用途への応用を検討中である。

その他、摩擦力を活かした商品には、ゴルフグローブ・ランニングやサッカー用ソックス・ずれない布団カバーなどがある。

また、「ナノフロント®」の別の機能でもある光線反射を利用した遮熱日傘や、拭き取り性を利用したワイピングクロス等も展開している。

今後、これまで培ってきたナノファイバー繊維化技術、機能構造化技術を基に、さらに直径の細い繊維やポリエステル以外の機能性ポリマーによる長繊維ナノファイバーの展開を検討している。また、電子材料やライフプロテクト用途、医療材料などに向けて用途開拓するなど、顧客の用途・要求特性に応じてバリエーションの拡充を図ることで、実用化ナノファイバーの先駆的素材として、新たな価値とソリューションを提供していく。

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