APUにおける「イノベーション人材」育成

立命館アジア太平洋大学 国際経営学部長 経営管理研究科長
学校法人立命館 理事
教授(経営学)
横山 研治

大分県別府市にある立命館アジア太平洋大学(APU)では、留学生が約半数というとてもグローバルな環境で人材を育成している。別府市のキャンパスにて、APUで育成しているグローバル人材の現状や、留学生の就職状況などについてお話を伺った。


1. APUについて


APU設立から今までの11年間を振り返る
APUは 2000年4月に開学し、国際学生(※1)と国内学生の比率が1対1の日英2言語教育の提供を標榜していたが、2001年からの3年間程度は、入学志願者の確保が非常に困難だった。しかし、国際学生が日本で就職しはじめた2004年の後半ごろから、国際学生の学生募集に変化が見受けられるようになった。それまでは、大学での学修を終えると国へ帰るであろうという認識から、留学生は日本の人材とは考えられていなかったが、2003年ごろから実施していた、オンキャンパス・リクルーティングなどでは国際学生の方が早く就職が決まり、国内学生よりも国際学生の就職状況が良い状況であった。そこで、日本で就職が決まった国際学生を通じ、APUを卒業すると、幹部候補生(=総合職)として、日本の企業へ就職ができるというクチコミが広がり、海外での学生募集活動が後押しされた。

国際学生がAPUで学ぶきっかけ
APUでは、アドミッションズ・オフィスと世界8ヵ国・地域の海外オフィスを合わせ50人弱のスタッフで入学関係の仕事をしている。このように世界中から学生を集めるための設備を整えているが、それだけでは学生が入学するきっかけにはならない。大学へ入学する意思決定を後押ししているものは、やはりクチコミである。大学においてクチコミは生命線であるため、今後も大学としていかにクチコミを起こさせるかを考えていく必要がある。

APUの提供する教育
日本での就職率の高さが海外の学生募集活動に影響することが判明したことで、APUは大学としての立ち位置を考え直すことになった。入学してくる国際学生の中には、海外の名門大学を辞退してまでAPUに入学する学生もいる。この状況に鑑み、APUは人材育成を行う大学であり、就学している学生に就職に必要な知識を習得させ、就職させられる大学となることで、人材育成大学として世界と競争できると実感した。


2. APU学生の就職状況について


就職活動時期について
APUの就職率は、開学以来 90%を割ったことがなく、中には大手企業の内定を複数取る学生も居る。国際学生は、日本の就職活動を通じて、言葉も上手になり、マナーや習慣なども身に付け、短期間で自分を見つめ直し、日本に対する理解も深めることができる。しかし、彼らは日本に居ながらにして常に自国を見ているため、自国主義に陥る危険性が高い。視野を広げるために短期間でも日本以外の国に留学することを勧めているが、今は留学の時期として最適な3年生後半から4年生の前半に就職活動が入ってしまうため難しいのが実情だ。現行の就職活動期間では、国内学生のみならず、国際学生にとっても留学の機会が減ってしまう危惧があると考えられる。

企業に期待すること
企業の求めている人材と国際学生の実態には、まだまだギャップがあると感じている。特に国際学生は過剰に即戦力として期待されている。国際学生は、語学力はあるものの、即戦力として働く部分では、企業のニーズとマッチしない場合もある。そこで、企業には、コミュニケーション能力を見る基準を作ってほしい。ここで言うコミュニケーション能力とは、正しい言語を操れるかどうかではなく、自分の感情をどれだけ相手に伝えられるかということである。現状、国際学生の優位性は言語であるが、同時に相手と心を通わせられるコミュニケーション能力がある点も考慮し、採用してほしい。


3. 就職後のフォロー


APUでは、校友会(※2)会合への出席率がとても良く、その校友会を中心にして、就職した国際学生の就職後のフォローを行っている。この別府という環境で共に4年間学ぶことがコミュニティー形成に役立っており、就職後も同じAPUに通った仲間同士家族のようなつながりを持つため、校友会での交流も盛んになっている。この点からも、4年間別府で学ぶことで出来上がるコミュニティーは強く、別府の良さを感じる。


4. APUの目指す姿


APUの輩出する人材
APUの本当の強みとは、必ずしも言語的に正しい語学ではないが、コミュニケーションのとれる語学ができ、多文化適応能力があり、どこでもイノベーションを起こせる人材を育成できることである。APUでは、新しいものの見方を提供できる人材をイノベーション人材と呼び、より多くのイノベーション人材を輩出する大学を目指している。


今後の課題
今後、カリキュラム内では、日英両言語教育を徹底することを目指している。非常に難しい問題だと捉えているが、現段階では、定められた単位数以外では、日本人は日本語での授業を取り、国際学生は、英語での授業を取る傾向にある。今後は、授業の中で日英の融合を起こすべく、日本人向けの英語力強化も進めている。また、英語での専門科目の履修を可能にするため、1,500−2,000程度のボキャブラリーで学べる英語の授業を作ることを考えている。また、寮や課外活動で実現している、国内学生と国際学生が一緒に何かを行うことで、他の国の文化を自分の生活の一部として、実践しながら学ぶ機会をもっと多く提供していきたい。
APUの提供する国際理解とは、些末(さまつ)な政治事情などの知識や知性で理解していることではなく、肌で相手のことを好きになり、自分の家族のように共に生活をすることである。今後も、APUでは、4年間の国際的な環境の中で身に付けた感覚を持ち、世界の現場で活躍できる人材を輩出していきたいと考えている。


(※1)国際学生とは、在留資格が「留学」である学生をいう。
(※2)APUでは卒業生を校友と呼ぶ。

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