世界のルール作りと日本の役割

社団法人日本貿易会 副会長
三菱商事株式会社 社長
小林 健

今年は、米国、フランス、中国、ロシアをはじめとする多くの国で選挙や指導者交代などの政治的節目が控えており、各国の政策が保護主義的な方向に傾く恐れもあります。また、欧州債務危機もまだ収束には時間がかかるとみられるなど、世界経済の先行きは不透明と言わざるを得ません。しかし、こうした中でも、今年の日本は、東日本大震災という大きな試練を乗り越えて力強い復興を実現するとともに、中長期的に成長力を高めるための種をしっかりと蒔いて未来を拓いていかなければならないと考えます。

復興については、何よりも復興政策のスピード感を持った実行が重要です。昨年震災で寸断されたサプライチェーンは、各社の精いっぱいの努力により予想より早く復旧しました。甚大な危機であっても、日本はそれを乗り越える力を十分持っているとの証左だと思います。今後の復興を加速するためには、政府が、財源措置に加え、復興特区創設、規制緩和などを通じて、地域のイニシアチブを十分に活かし現場感を持ちながら、復興政策の実行を進めていくという姿勢が重要だと思います。

少子高齢化に直面する日本が中長期的な成長力を高めるためには、グローバル市場の成長を十分に取り込み、その利益を国民が幅広く享受する環境を整えることが大事です。産業競争力の観点からは、電力供給の安定化、経済連携協定の締結推進などが、まさに待ったなしの課題です。安定的な電力供給のためには、エネルギー政策やエネルギーミックスの在り方について本年中にも国民的な議論を進め方針を決定する必要があります。経済連携については、野田首相がTPP交渉参加を表明したことを歓迎し、日本が世界の成長センターであるアジア太平洋を含む世界の需要を取り込んでいく環境が整うことを期待したいと思います。

最後に、日本には、世界のルール作りに積極的に参画して情報発信していく役割が求められていると考えています。例えば、TPP交渉においても、関税撤廃だけではなく、知的財産権、政府調達、労働、環境などの幅広いルールが議論されます。こうした交渉には早期に参加して、具体的な意見を述べ、新しい時代の世界経済とグローバル市場にふさわしいルール作りに積極的に参画することが、日本全体の利益につながり、また、日本が世界から求められている役割を果たすことになります。商社としても、日本企業が必要とする資源・原材料などの調達確保や、海外進出への支援などの面で積極的に貢献していきたいと思います。

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