大変化への予兆を的確に捉える

社団法人日本貿易会 副会長
伊藤忠商事株式会社 社長
岡藤 正広

今年はオリンピックが7月にロンドンで開催される。「参加することに意義がある」とはいうものの、やはり日本人選手のメダル獲得数を意識してしまう。日本のメダル獲得実績は、前々回のアテネ大会において金銀銅合計37個と過去最高を記録したが、前回の北京大会では25個にとどまるなど、韓国の31個を下回る結果となった。その原因としては、他国選手のレベルアップの他、日本のお家芸である柔道の不振などが指摘されたが、このようなオリンピックにおいて苦戦する日本の姿は、新興勢力に激しく追い上げられている日本の産業界の現状と二重写しになる部分もあるように思われる。

さて、そうした日本の産業界を取り巻く今年の経済情勢に目を移すと、まず、オリンピックが開催される欧州では、いわゆるソブリン問題が一段と深刻な状況になっており、その悪影響の他地域への波及が懸念される。前回2008年の北京オリンピック直後にリーマン・ショックが起こり、それから今年で4年になるが、いまだに世界経済は混乱の火種を抱えている。為替相場も円高水準が完全に定着しており、グローバル化を進める日本企業にとっては、今年のマクロ経済環境も非常に厳しいものになるであろう。

そうした中、今年は主要国の多くで政権交代が行われる可能性が高い。1月の台湾総統選を皮切りに、大統領選が3月にロシア、5月にフランス、11月に米国、そして12月には韓国で予定されている。また、中国でも秋の共産党人事によって、国家主席と首相の後継者決定という事実上の政権交代が行われるなど、今年は政治的にも激変する予兆がある。さらには、APECや東アジア・サミットでの TPPを中心とした新たな自由貿易体制をめぐる米中の議論も、すでにアジア市場争奪戦の様相を呈しており、今後ますます激化することが確実である。アジア諸国の成長力を取り込まなければならない日本企業にとって、こうした米中の政治的駆け引きは、今後の経営方針にも大きな影響を与えることになろう。

このように、今年の政治・経済情勢は、これまで以上に波乱含みであり、先行きが極めて不透明である。しかしながら、かといって、損失を未然に防ぐために単に守りを固めるだけでは、企業の成長は望めない。企業経営は「参加する」だけでは許されず、オリンピックにおける「メダル獲得」に値するような結果が求められるのである。サッカーでいえば、カウンター攻撃のように、守勢に立たされても、隙あらば、すぐに積極的な攻めに転じる姿勢を常に維持しなければならない。

商社業界としても、資源価格の高騰という追い風を受けて最高益を更新するなど、今のところ業績は好調である。しかしながら、すでに資源価格にも一部陰りが見られるなど、こうした好況はいつまでも続かない。その意味でも、すでに見られる今後起こり得る大変化への予兆を的確に捉える感度を鍛え上げることによって、今年を新たな飛躍への確固たる礎を築く年にしていきたい。

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