日本が存在感を高める年に

社団法人日本貿易会 副会長
丸紅株式会社 社長
朝田 照男

本年は、日本が存在感を高める年になることを大いに期待したいと思います。

世界経済を見ますと、欧州では引き続きソブリン債務危機をめぐる不安定な状況が続きます。米国におけるバランスシート調整は容易には終了せず、引き続き低成長を余儀なくされるでしょう。一方、新興国は相対的には高い成長を遂げますが、インフレ圧力と金融緩和策のバランスをどのように取るかが課題となります。
米国・フランス・ロシア・韓国など多くの主要国では、大統領、あるいは議会選挙が実施されます。景気が思わしくない中で、政治家はともすればポピュリスト的傾向を強め、国民の痛みとなるような政策にはなかなか踏み切れません。選挙の結果次第では、政策の継続性に不透明感が出てくる恐れもあります。

各国が政治的にも経済的にも難しい局面を抱える中、日本は転換点に向けた力強い歩みを踏み出す可能性が高まっています。その一つが震災復興の推進です。補正予算が成立し、復興庁が司令塔としての役割を果たす中、いよいよ本格的な再生に向けてまい進する下地が整いました。場当たり的ではなく、全体最適を考えたグランドデザインを描き、新たな時代にふさわしい国づくり、街づくりを推進することが求められています。
また、本年、日本はTPP交渉に参加します。日本の意思表明が呼び水になりカナダ、メキシコが追随し、EU、中国・韓国も日本との経済連携に積極的な姿勢を見せています。日本の行動がグローバル化促進の触媒作用を果たしたわけです。今後、農業と経済連携との両立が重要な課題となりますが、そのためには、経営規模拡大、人材育成等を通じて農業の競争力強化を実現し、6次産業化、輸出振興等による農業の成長産業化を図ることが必要です。それとともに、日本は中長期的視点で国益を考え、将来のFTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)につながる質の高いルール作りにも主導的に関与しなければなりません。

もう一つ指摘すれば、日本が有する高度な技術力にもっと誇りを持つべきです。つまり、モノづくりに対する熱意、真摯さ、丁寧さは世界で突出したものなのです。新興国を中心に、資源・環境制約が一層意識され、高効率なインフラ設備への需要が拡大します。その中で、日本の技術を再評価する声が高まるはずですし、日本企業には、これに十分応えられる懐の深さがあるのです。
このようなビジネス機会を積極果敢に取り込み、日本が新たな道を切り開いていくための手助けをすること — これこそが、われわれ商社にとっての重要な責務であると考えます。

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