新興国の世紀を進む ― 腹の据わった楽観主義

社団法人日本貿易会 副会長
双日株式会社 社長
加瀬 豊

1年を振り返り、新しい1年を思う時、マクロ評論に目をやれば、相変わらず今年も暗雲が立ち込めています。ある記事には「いよいよ日本経済は先の見えない時代に突入したという感がある。今こそ激動期だという認識が必要だ。これまでのやり方はもはや通用しない。」とありました。もっとも、これは2012年1月の記事ではなく、50年前の記事の引用とのこと。

この暗闇にどう光を見い出し、明るく前向きな思考で進んでゆくか。リーダーには「腹の据わった楽観主義」が必要であると思っています。ただし、明るさと軽さ、ひらめきと思い付き、これらは似て非なるものです。大局観、知恵、分析力を日頃から鍛え、それらの裏付けがあってこそ、人々はリーダーの明るさの中に重みを、ひらめきの中に深慮遠望を感じて、ついてゆくのです。未曾有の困難に直面しているわが国のリーダーたちは、「軽い思いつき」ではなく明るさと大胆な発想で国民を引っ張っていってほしいと思います。

商社とて同じことです。私は、商社は日本産業の先兵である、とおこがましくも自負していますが、そのためにも明るさとひらめきを備えていなくてはいけないと思うのです。環境変化を読める評論家ではなく、環境変化に対応できる人材になれ、と社員に常々お願いしています。

日本経済の屋台骨を支えていたモノづくりの各産業は、六重苦ともいわれる経済環境下で、海外へその生産拠点を急速にシフトしています。また時を同じくして、TPP、ASEAN+3の議論を通じ、環太平洋に大自由経済圏が創設される機運が高まってきており、各企業はこの市場の活力を取り込もうと必死です。アジアこそ「新興国の世紀」を代表する経済圏、希望の光なのだから当然です。
こういった産業の動きを先取りし、サポートするのも商社の1つの仕事。当社は、ベトナム・インドネシア・インド各地に工業団地を建設し、東西回廊等のロジ体制を構築し、販売網を強化、進出企業のお役に立とうと何年も前から準備してきました。

しかし、これだけではバランスに欠けます。日本企業の海外投資活動から生じたリターンを、今度は日本国内で活用させてゆくために、新しい産業を創り出さなければならない。産業構造改革には官の支援が求められますが、そもそも何をするかは民間が考えるべきことです。新しいものを生み出すにはひらめきが必要です。イノベーション力と言い換えてもよいでしょう。ここにも商社は力を発揮しなくてはならないと、必死に取り組んでいるところです。 
「努力する人は希望を語り、怠ける人は不満を語る(井上靖)」とは、実にうまく言ったものです。
「腹の据わった楽観主義」で夢を実現する年にしたいと思います。

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