年頭所感

一般社団法人日本貿易会 会長
伊藤忠商事株式会社 会長
小林 栄三

新年あけましておめでとうございます。

2016年の二つのサプライズ

2016年1年間を振り返りますと、例年にも増して目まぐるしい変化の生じた1年であったと思いますが、特に、二つの大きなサプライズがあったと考えています。

一つ目は6月、英国でのEU離脱を問う国民投票における離脱派の勝利、いわゆるBrexitです。これはEU統合深化への反発が移民流入増を端緒として増幅されたものと考えられますが、その影響は他の欧州諸国にも及び、EU統合の先行きには不透明感が強まっています。2017年はフランスで大統領選挙、ドイツ、オランダでも議会選挙が予定されており、ここでも反移民・反EU 勢力が躍進する可能性が指摘されています。

二つ目のサプライズは11月、米国の大統領選挙における、共和党のトランプ候補勝利です。既存の政治家への強い不信感などが勝因として挙げられますが、トランプ氏はTPP離脱やNAFTA見直しなどを主要公約として掲げており、保護主義的な主張が勝利に貢献したことは否定できないと思います。

反グローバル化の流れをいかに押し戻すか

こうしてみるとこれら二つのサプライズは、いずれもグローバル化への疑念が顕在化したものと捉えることができます。国境を越えてビジネス展開する経済界にとって、この世界的な反グローバル化の流れをいかに押し戻すかが、2017年の重要なテーマになるのではないかと考えています。そこで、まずは貿易や投資など通商関係の発達が各国の経済成長加速と繁栄に寄与してきたことを、広く再認識してもらう必要があると思います。さらには、グローバル化の恩恵から取り残された人々の不満が大きなうねりとなったことを考えれば、恩恵が全ての国民や地域にあまねく行き渡るように、各国が政策面で補っていくことが必要です。日本貿易会としても、貿易投資自由化の重要性、その中での経済連携協定の交渉・批准推進を引き続き提言していくのみならず、グローバル化の意義をも訴えていければと考えています。

2017年はトランプ新政権の政策を注視

また、米国の8年ぶりの政権交代は、世界の政治情勢にもさまざまな影響を与えることが予想されます。これまでのトランプ氏の発言から、米ロ関係改善、米中通商摩擦激化、イランの核合意見直しなどの可能性が指摘されていますが、実際に政策に移す段階で変更されることも十分に考えられることから、当面は不安定な国際情勢となることが見込まれます。

経済環境としては、トランプ氏が減税、規制緩和、インフラ投資増などの経済活性化策を示していることから、米国の経済成長上振れが期待されます。米国の成長加速は世界経済にも総じて好影響を及ぼす可能性がありますが、資金が新興国から米国に還流すると、経常収支赤字などファンダメンタルズの弱い新興国に混乱を引き起こすリスクがあり、注意が必要です。他方、中国については、過剰設備の削減などの構造改革が経済の下押し圧力となっていますが、中長期的にみれば政府のコントロール下で健全な方向を目指しており、過度の懸念は必要ないものとみています。

商社業界は成長戦略を追い風として「変化をチャンスに」

国内に目を向けると、安倍政権は支持率を維持しながら5年目に入りました。「アベノミクス」では、金融・財政政策を駆使して日本経済の浮揚を進めていますが、成長戦略のさらなる加速とともに、2017年こそは、長年の懸案事項であったデフレ完全脱却にめどが付くものと期待しています。

商社業界についても、成長戦略の下、インフラシステム輸出に関しては、リスクマネーの供給拡大、円借款等の手続き迅速化、JBIC、JICA、NEXI等関連機関の体制強化などにより、国際競争力向上が進められています。また、IoTなどの新たなビジネス分野が急拡大しており、「変化をチャンスに変える」ことを得意とする商社業界としては、大きな成長の機会が訪れたものと捉えて取り組みを進めています。

創立70周年を迎えて積極的に活動展開

このように激動する状況下で、日本貿易会は2017年、創立70周年を迎えます。1947年6月に設立されてから現在に至るまで、当会は、高度成長期、2度のオイルショック、日本経済を揺るがせた資産バブルとその崩壊、さらには「商社冬の時代」と呼ばれた時期や「資源ブーム」期などさまざまな時代を経験し、その都度、時宜に応じた活動を果敢に展開してきました。世界的に反グローバル化の潮流が見られる今もまた、貿易投資拡大とビジネス環境改善に向けて、当会の果たすべき役割は大きいものと思います。当会としては、71年目、さらには次の10年に向けて、商社業界が経済・社会の発展に貢献し、十分に存在感を示せるように、さらに積極的に活動を展開していきたいと考えています。

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