日本貿易会常任理事に聞く2013年の展望

2013年の世界経済の展望および経営の抱負等について、日本貿易会常任理事へアンケートを実施しました。
① 2013年の経済、ビジネス環境を展望する上で、注目する要因(けん引・懸念材料)
② 2013年の注視、注力する点および経営の抱負
(社名五十音順)


稲畑 勝太郎 稲畑産業株式会社 社長


①長引く欧州の債務問題は、東南アジアや中国の輸出や金融面にも影響を与え、懸念材料である。また日中関係の冷え込みの長期化も懸念される。一方で、中国からの生産移管や健全な内需の伸びに支えられた東南アジアの経済成長は大きなけん引材料となる。また日系自動車メーカーの海外生産移管の動向にも注目している。

②当社の中期計画であるIK2013の達成に向けて、特にアジアの各拠点の強化に注力するとともに、中南米地域にも確かな足掛かりを築く。また、グローバルな人材育成に向けた新たな仕組みをスタートさせ、国内外の人材の一層の強化に努める。一方で、リスク管理の強化、コンプライアンスの徹底、経営理念のさらなる浸透に引き続き取り組みたい。


牧野 明次 岩谷産業株式会社 会長


①中国など新興国の景気底打ちに伴う輸出の回復や復興予算の執行などにより、国内景気は回復に向かうと見込まれる。また、消費税引き上げ前の需要が景気を押し上げることも期待される。一方で、電力料金値上げが、国内製造業の競争力低下につながることを懸念する。
当社は、LPガス輸入価格が、新興国の需要増などから高値で推移するものとみており、大幅な価格変動には注意を要する。

②2013年は新たな中期経営計画の初年度であり、引き続きガス&エネルギーを中心に、基盤事業の徹底強化を図り、新成長戦略を遂行する。LPG調達については、依存度の高い中東に加え、非在来型の資源へとソースの多様化を図る。また、新エネルギーとしての水素の普及に努め、燃料電池自動車用の水素ステーションの設置を推進する。マテリアル事業では、豪州をはじめ海外での資源開発への投資を積極的に進めていく。


下嶋 政幸 兼松株式会社 社長


①主要国トップ交代の年であった2012年は、結果的におおむね従来路線の継続が確認できた。2013年は、引き続き欧州経済の低迷や中国の成長鈍化など懸念はあるものの、堅調な内需に支えられたASEAN諸国の底堅い成長に加え、米国の製造業国内回帰の動きもあり、商機を捉えていきたい。国内においては、新政権による経済活性化策の実行や規制緩和に期待したい。

②2013年は新中期経営計画のスタートの年度となる。変化する経営環境に対応しつつ、継続的に収益基盤・経営基盤の強化に取り組み、ステークホルダーの皆さまに満足・納得いただける経営を目指す。成長が期待されるアジアを重要マーケットと位置付け、兼松グループとして強みを活かせる食品・食糧、ICTソリューション分野などを中心に経営資源を配分していく。


三輪 芳弘 興和株式会社 社長


①欧州EUの経済危機は、追加支援問題などいまだ出口が見えない。けん引役だった新興国もその影響を受けてきており、米国も財政の崖問題に直面している。2013年の世界経済は楽観できる状況にない。日本国内でも総選挙により新たな体制となったが、国際関係、景気対策など明確な取り組みを示すことが望まれる。

②目標に掲げる健康事業と環境事業を推進する。医療用医薬品、OTC医薬品、ヘルスケア製品、ジェネリック医薬品展開に加え、医薬品の品質管理のノウハウを基にした「ハイクオリティ認証」取得のサプリメント事業を進め、幅広い健康ニーズに応えていく。海外展開も進めていく。環境面では、風力発電、太陽光発電などのエネルギー事業やLED照明事業など、社会の要請に応じた事業を進めていきたい。


圡井 宇太郎 CBC株式会社 社長


①中国の台頭によるアジア諸国との緊張の高まり、 特に日中での尖閣問題がさらにエスカレートしていくことに強い懸念を持っている。 2013年度も依然として欧州の金融不安や国際間の紛争等の不安定要因も多いがリスクを考慮しながらバランスの取れた経営資源の投入を行っていく。

②引き続き医薬関連事業に注力するとともに、太陽光発電やIPM(害虫の総合防除)資材を使用したバイオ農薬等の環境関連分野にも注力し、ニッチでユニークなビジネスの展開を推進していく。また海外事業では今後も世界的に拡大が見込める自動車産業への展開を視野に、北中米市場を深耕していく。


福島 幹雄 JFE商事株式会社 社長


①当社の主要取引分野である鉄鋼業界については、国内では、輸出産業の不振等により、低水準の需要にとどまるものと予想される。輸出についても、海外ミルの急激な生産能力拡大により、需給ギャップが生じている。しかしながら、新興国経済の伸長により、中長期的には鉄鋼需要は着実に増加すると想定している。

②引き続ききめ細かなサービスにより国内需要を捕捉するとともに、海外において、鋼板加工会社の機能を強化し、ユーザーに密着した加工・販売体制の充実を推進していく。加えて、原材料分野においては鉄鋼原料を中心に三国間取引のさらなる拡大を図るとともに、有望な投資案件については、引き続き積極的に取り組んでいく。


天谷 雅俊 住金物産株式会社 会長


①欧州債務危機や中国リスクなど世界経済の減速懸念は高まる。内需も、震災の復興需要などによる緩やかな回復の兆しはあるものの、先行きの事業環境は不透明感が強い。収益基盤である国内事業の再強化を図るとともに、海外事業の拡大をテーマとして取り組んでいく。

②鉄鋼、産機・インフラ事業、繊維、食糧の4つの事業がバランスよく収益を確保し、相互に補完しながらグローバルな成長を遂げていく体制を強化する。それぞれの事業分野において、顧客直結の価値創造型、加工メーカー型機能を拡充し、専門性をさらに高め、複合専業商社としての強みを発揮していく。


山﨑 修二 蝶理株式会社 社長


①けん引材料でありかつ懸念材料は中国経済。当社中国貿易の機能をさらに強化し、ピンチをチャンスに変えたい。日本の政治と経済は依然として不透明感が漂うが、為替の動向とりわけ過度な円安に振れないかを注視したい。

②当社の中期経営計画である「躍進2013」の骨子は ①経営基盤強化 ②連結グローバル経営 ③新規開発・投資、M&A。
守り(コンプラ経営、合理的・効率的経営のさらなる推進)を固め、人的基盤を強化し、果敢に新規事業開発に挑戦したい。


長瀬 洋 長瀬産業株式会社 社長


①欧州の債務問題の再燃、中国経済の成長率の伸び悩み、米国「財政の崖」など2013年も不安材料が多いビジネス環境が続くと思われる中で、ASEAN への回帰、ブラジル・インドといった潜在力を持った市場の動向を注視したい。国内においては、復興含む社会インフラ整備への取り組み、消費税引き上げ前後の需給バランスの動向に注意したい。

②「変革」のスピード感を意識しつつ、バリューチェーンにおける当社グループの強み・機能をさらに磨き、グローバルに面での展開を図る。同時に、不透明な環境に対する体制の強化にも注力。子会社群を核にしたバイオ分野への深耕と同技術を次の事業構築に活用し、環境・エネルギー分野への展開等、ユニークな存在感を高めていきたい。


古川 弘成 阪和興業株式会社 社長


①中国は設備増大による供給過多、EUは債務問題を抱え、景気の回復が緩慢であることが世界経済にとっての懸念材料。一方、米国ではオバマ大統領が再選され、「財政の崖」を解決する中で景気回復にめどを付けること。日本では新政権の下でTPPが推進され、新エネルギー政策が打ち出されることに期待する。

②当社は国内の取引が幹・根であり、海外は枝・葉・花に例えている。国内を主としてM&A により即納・小口・加工(ソ・コ・カ)機能を高めることでユーザー系商社として中・小規模の優良企業を開拓する。海外では「もうひとつの阪和をアジアに設立する」の合言葉で、出資・投資・M&Aを積極的に進めることで安定的な商権の確立と拡大を目指す。


久田 眞佐男 株式会社日立ハイテクノロジーズ 社長


①欧州債務危機が長期化する中、中国などの新興国経済にも影響が波及し、米国の「財政の崖」懸念など、世界経済は景気後退の動きが広がっている。日本経済は、震災からの復興需要に加え、政権交代での金融緩和による円安や、補正予算などへの期待はあるものの、実体経済の見通しが不透明な状況が続くとみており、引き続き市場状況を注視していく。

②2013年は長期経営戦略(CS11)で掲げた戦略ステートメント「最先端・最前線の事業創造企業としてお客様と共に先頭を走る」の実現に向け、「ステップアップする年」と位置付けている。次世代エレクトロニクス、ライフサイエンス、環境・新エネルギー、社会イノベーションの重点事業強化に向け、成長分野へのリソースシフトによる事業ポートフォリオの強化、グローバル事業の拡大、開発のスピードアップによる事業創造の推進に努める。

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