グローバル化の世界に 一隅を照らす

一般社団法人日本貿易会 副会長
住友商事株式会社 社長
中村 邦晴

2012年を振り返る中で、強く心に残ったことの1つが、ロンドンオリンピックでの日本人選手の活躍です。史上最多の38個のメダル獲得という成果も素晴らしいものですが、選手一人ひとりがそれぞれの思いを持って、力を振り絞り、国の代表として最後まで諦めずに戦う姿は見る者に大きな力と感動を与えました。

多くの人に希望を与えたという意味では、ノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥教授の iPS細胞の研究は、多くの患者に光明を与える画期的なものでした。人工的に作り出した細胞を、病気やけがで損傷した臓器などに移植して治療する再生医療の実現に道を開くと同時に、病気の発症原因や治療の糸口の解明につながることが期待されています。

「一燈照隅、万燈照国」とは、「一人ひとりがささやかでも、自分の身近の一隅を照らす。それだけでは小さな灯りかもしれないが、その一隅を照らす人が増えていき、万の灯りとなれば国全体を照らすことになる」という意味ですが、こうした人たちの頑張りが社会に明るさを与えたことは間違いありません。

さて、今日世界を見渡すとグローバル化は世界に豊かさという「光」をもたらす一方で、「グローバリゼーションの光と影」といわれるように、地球規模の環境問題、新興国の急速な経済成長を背景とした資源・エネルギー・食糧・水などの需給逼迫(ひっぱく)、格差問題など、グローバル・イシューと呼ばれる「影」を顕在化させ、国際社会の持続可能な発展を脅かしつつあります。こうしたグローバル・イシューのようなチャレンジングな課題には、一国や国際機関だけでなく、企業を含めた全ての組織が人類共通の社会的課題として対峙(たいじ)し、それぞれの立場から解決に向けて行動しなくてはならないものです。とりわけ内外のほぼ全ての産業分野と地域に深い関わりを持つ商社は、世界の隅々に埋もれているビジネスシーズを掘り起こし、直面する社会的課題に対して解決策を提示していくことが求められています。

2013年のえとは癸巳(みずのと・み)。思い切った革新と、創造的な発展の精神を持つことが大切になる年とのことです。われわれ一人ひとりができることには限りがありますが、全員が目線を高く持って現下の環境変化をプラスに活かす不断の努力を積み重ねていけば、日本あるいは世界を光り輝かせるきっかけにできるかもしれません。過去の成功にとらわれることなく、一人ひとりが「一隅ではなく一国を照らす」くらいの気概を持って、地道に自らの役割を果たしていく、そんな1年にしたいと思います。

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