環境の変化と商社の役割

一般社団法人日本貿易会 副会長
豊田通商株式会社 社長
加留部 淳

2012年1月の本寄稿で、2011年は、東日本大震災等があり、「多難な年」であったと振り返りました。1年後の今、2012年を振り返りますと、「停滞の年」であったかと思います。米国経済は、回復基調にあるものの、なかなか加速しませんでした。ギリシャの財政危機に端を発した欧州金融危機は、周辺の欧州主要国にまで暗い影を落としました。中国やインド・ブラジル等の新興国も経済成長が減速しました。一方、日本経済も、復興需要が一巡し、継続する円高や政治の迷走、さらには尖閣問題をめぐる日中関係悪化の影響もあり、厳しい状況が続きました。

2013年に関しては、期待も込めて「反転の年」とみています。政治に関しては、2012年末、アジアをけん引する3ヵ国(日本、中国、韓国)で国のリーダーが代わりました。欧州でも年央に主要国の1つ、フランスで、17年ぶりに社会党出身のオランド大統領が選出されました。米国でも、4年前に「Change」を唱えて選出されたオバマ大統領が「Forward」を唱えて再度信任されました。各国で「難しい課題に真正面から取り組む政治」への反転を期待したいと思います。

経済に関しても、幾つか「反転の兆し」を感じています。欧州信用不安は、ECB(欧州中央銀行)の緊急対策により最悪の事態は回避され、欧州主要国の間で、経済・金融対策に関するコンセンサスができつつあるようです。米国でも懸案であった「財政の崖」問題が、民主・共和両党の合意によりひとまず回避されました。中国も、7%まで減速したGDP成長が、各種政策の効果により、2013年は8%まで持ち直すとの見方が一般的です。わが国、日本でも、新政権の経済対策に対する期待の高まりから、株式市場は、2011年の東日本大震災前日以来、1年9ヵ月ぶりに1万円台を回復、まだ不十分とはいえ過度な円高も修正の方向にあります。

こうした「反転の兆し」の中で、「われわれ商社も、しっかりとその役割を果たしていくことが大事」だと考えています。2012年4月に日本貿易会の総合商社原論特別研究会事業として発行された『総合商社の研究』の中で、商社の今後の方向性として、環境変化を先取りするために「変わりうる力」の重要性が書かれていました。私は、外部環境や産業構造が大きく変化する中で商社に求められる大きな役割の1つが、多様化・複雑化する顧客・社会のニーズや技術革新に対応した新たな事業を創造することだと思います。そのためには、私たち商社が国内外のさまざまな企業や人々を結び付け、シナジーを生み出していく必要があります。また、事業創造のためには、人材のグローバル化が不可欠です。海外スタッフの育成・登用を含め、日本および各国において、将来にわたって、しっかりと事業を創造・運営し、その国の発展に貢献できる人材の育成・輩出に、商社として積極的に取り組んでまいりたいと思います。

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