新たな時代に 商社に求められる役割

一般社団法人日本貿易会 副会長
三菱商事株式会社 社長
小林 健

欧州政府債務危機が長期化する中で、新興国の成長にも陰りが見られるなど、世界経済の先行き不透明感が高まっています。日本も、世界経済の低迷を受けた輸出の伸び悩みにより、足元の景気には力強さがなく、また将来的に少子化を背景に国内市場が縮小することも懸念されます。企業環境は厳しさを増していますが、こういう時こそ、企業はその事業活動を通じて日本と世界の課題解決に貢献するのが使命であるという原点に立ち返ることが重要です。商社としても、日本経済が活力を取り戻すために、多くの産業に接点を有しているという強みを活かして、新たなビジネスに挑戦し、さらなる社会価値を創出するという「総合力」を発揮していかなければなりません。

商社は、グローバルにビジネスを展開して、顧客に品質の良い財・サービスを安く迅速に届けるという使命を担っています。これは、商品の売買を仲介するトレーディング業務中心の時代から、さまざまな分野に事業投資を行うようになった現在に至るまで全く変わりません。ただ、時代の変遷とともに、ビジネスの「かたち」は大きく変化しています。例えば、近年、新興国の資源需要が増大する中で、資源確保における日本の国際交渉力は相対的に低下しがちであり、日本への資源の安定供給のためには第三国の需要もまとめて交渉し、新たなパートナーと組むといった工夫が必要になってきています。さらに、新興国では中間所得層が台頭する中で、商社は消費者のより良い暮らしを実現するために、従来の延長線上にないビジネスモデルも模索していく必要があります。

2013年は、世界経済の大いなる変化をチャンスと捉えて、日本が中長期的な成長に向けた新たな種をまくべき大事な年です。政府には、TPP交渉への参加、FTAの締結、規制緩和などを迅速に実現し、他国に劣後しない企業立地環境を整備することを求めたいと思います。そして日本企業は、足元は厳しい局面でも、世界一流の技術と知恵を発揮して大いなる飛躍を遂げる準備ができつつあると確信しています。官民が連携して難局を克服しようとする中で、商社としては、新たな時代に合ったビジネスの「かたち」を模索しながら、顧客に尽くすという昔から変わらない役割を十分果たしていくことが重要だと考えています。

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