年頭所感

一般社団法人日本貿易会 会長
三井物産株式会社 会長
槍田 松瑩

2013 年の新春を迎え、ひと言ご挨拶申し上げます。


政治と経済


2012年を振り返りますと、年初から「政治の年」といわれていた通り、日本を含む主要国のリーダーが交代、あるいは再選され、当面の国際政治体制の新たな顔ぶれが定まったことがまず思い起こされます。日本の総選挙結果については、本稿執筆の段階ではまだ予断できませんが、いずれの場合においても、新政権には日本の底力を存分に発揮させる、実効性に富んだ経済政策を力強く推進していってもらいたいと思います。

2013年は2012年の反動で、選挙前に手控えていた部分も含め、さまざまな国で新しい政策が打ち出されていくことと思いますが、厳しい経済環境の中では、とかく内向き志向の政策が取られがちです。そうした中、私たちは、今まで以上に高い感度で海外の動きを察知し、世界の中での日本の立ち位置をよく認識し、政治と経済が互いに与える影響等をよく計って、進路や戦略を決める必要があると思います。


企業がなすべきこと


新しい年を迎え、企業を取り巻く経営環境がこれからどのようなものになっていくかをあらためて考えてみますと、まず海外においては、欧州が経済危機の克服に向け、かなりの時間をかけて財政再建と経済成長のバランスという難しいかじ取りを余儀なくされることになると思います。その影響もあって、世界経済のけん引役であった中国も既に経済成長のスピードが鈍化傾向にありますし、また、米国も財政上の深刻な重荷を抱えつつ成長を目指していかざるを得ないため、全体的に成長速度の緩やかな状態が数年は続くとみています。

一方、日本でも多くの企業が厳しい業績に直面している状況下、「グローバル競争力の再強化」ということがどの産業分野でも喫緊の課題となっています。多くの産業で海外との水平分業が深く進展する中、「国際分業体制の見直し」の重要性は一層増しており、そうした視点で自らのビジネスモデルを再考、再構築することが求められています。世界各地のそれぞれの強みを最大限に活かすという観点から、日本で行う部分と海外各地で行う部分を大胆に見直すことが重要であり、文字通り「ジャパン・イニシアチブ」を発揮しなければ、世界から取り残され、衰亡の道を歩むことにもなりかねません。

日本という狭い枠組みにとらわれず、国境を越えた幅広い視野・視点からより多くの選択肢を見いだし、その中から最善と思われる決断を下し、勇気と覚悟をもって果敢に実行することが、政官民を問わず、今の日本にとって一番必要なことなのではないかと感じています。


商社の果たすべき役割


複雑で予見しにくい国際情勢と経営環境の下、われわれ商社はどのようなことができるでしょうか。経済が停滞の兆候を示す日本と、さまざまな変化が予見される世界にあって、われわれ商社ができること、なすべきことというのは、持ち前のフレキシビリティをフルに発揮して、今までにない新しいことに積極果敢にチャレンジすることだと思います。こうしたチャレンジを通じて、ビジネスモデルをイノベートし、日本および世界の経済を活性化する先兵としての役割を担うこと、それこそがわれわれ商社の原点であり、今後も歩み続ける道なのだと思います。

当会は2012年、総合商社原論特別研究会を立ち上げ、その研究成果を『総合商社の研究』という一冊の本にまとめました。そこでも述べていることですが、商社という業態については、過去に何度も不要論や衰退論が叫ばれてきました。そして、その都度、時代のニーズの変化を鋭敏に受け止め、新たに求められる役割を担うべく、自ら業態変革を推進することで、こうした危機を乗り切ってきました。これからもこの姿勢を堅持し、変化への柔軟かつ主体的な対応に努めることで、日本および世界にしっかりと貢献していくことを切に願っています。


失敗と成功


2012年、日本にとって非常にうれしいニュースがありました。京都大学の山中教授がノーベル生理学・医学賞を受賞したことです。特に私が感激したのは、山中教授が「9つの失敗の後に 1つの成功が生まれる」とおっしゃっていたことです。企業活動にしても、打つ手、打つ手が100%成功するというわけではありません。むしろ事業環境の変化をめぐる見込み違いなどで、絶え間なく軌道修正を強いられるケースが多々あり、そうした試行錯誤を通じて、たくさんのチャレンジ案件の中からいくつかが優良ビジネスとして残っていくのです。ぜひ私たちも山中教授の姿勢を見習い、2013年も、失敗を恐れず、さまざまなことに挑戦しようではありませんか。

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