日本経済再生への実行力が試される年

一般社団法人日本貿易会 副会長 住友商事株式会社 社長
中村 邦晴

2013年は、総じて日本が注目を集める明るい話題が多い年でした。
アベノミクス効果により、為替市場は円高修正に向かい、9,000円を割っていた日経平均株価も力強い上昇を開始するなど、実体経済に良い影響をもたらしました。遅れていた自由貿易協定の締結交渉は、日本が TPP交渉への参加を宣言したことで潮目が変わってきました。新たな通商秩序の構築で後れを取りたくない欧州連合(EU)や、中国・韓国が日本との経済連携締結に向けて動き始める一方で、日本国内ではTPP交渉の妥結をにらみ、農業の国際競争力強化に向けて、約半世紀にわたるコメの減反政策を抜本的に見直す方針を固めるなど、本格的な農政改革に向けた一歩を踏み出すという変化が見られました。

では2014年の日本経済は、どのような年になるのでしょうか。ひと言でいえば、「再生への実行力が試される年」とみています。日本を取り巻く世界経済に関しては、先進国の中で米国が好調な企業業績を追い風に回復が続き、欧州も最悪期から脱すると期待されます。一方、新興国は、量的緩和縮小の影響や金融引き締めが成長の重しになる恐れがありますが、内需を中心に回復力を取り戻してくると見込まれます。こうした外部環境の中で、日本は消費税率引き上げによる一時的な減速が予想される中で、日本経済を確かな成長軌道に乗せることができるかどうか、アベノミクスの3 本目の矢である成長戦略の真価が問われる年になるでしょう。鍵となるのは、民間が自由に力を発揮する上で、障害となっている規制の改廃であり、これらが着実に見直され、日本が世界で「最もビジネスがやりやすい国」に変わることを期待したいと思います。

6年後の東京オリンピック開催という大きな目標は、日本経済にとっての力強いフォローウインドとなることは確実です。1964年のオリンピックでは、大会に合わせて首都高速道路や東海道新幹線が開通し、都市機能が飛躍的に発展するなど、世界に向けて戦後の復興をアピールしましたが、果たして今回はどのような姿を世界に発信することになるのでしょうか。財政的な制約はありますが、わが国の技術力を活かした、先進的な都市づくりを海外に発信する絶好の機会と捉えたいものです。誰もが安心・快適に過ごせる耐震化・バリアフリー化、交通渋滞のない交通ネットワーク、エネルギー効率に優れ、環境に優しい都市インフラ。日本国民は目標がはっきりしている時にはものすごい底力を発揮します。生まれ変わった東京の魅力を世界に発信できるようなアンビシャスな目標設定を期待したいと思います。

社会のニーズが多様化・複雑化し、産業・地域のバウンダリーが低下する事業環境の中で商社は、これまでに積み上げてきたさまざまなノウハウや機能を結集して、新たな価値を創造し、社会のニーズに応えていく必要があります。そうした中で、われわれ商社パーソンは、常にカスタマー目線に立ち、日本の商社らしい「おもてなし」の心を忘れることなく、しっかりとその強みを発揮していきたいと考えています。

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