念頭所感

一般社団法人日本貿易会 会長 三井物産株式会社 会長
槍田 松瑩

2014年の新春を迎え、ひと言ご挨拶申し上げます。


2013年を振り返って


2013年を振り返りますと、各国はそれぞれ懸案を抱えつつも、世界経済全体としては、小康状態を保った一年といえるのではないでしょうか。
米国では、財政問題をめぐる激しい議会対立など政治面の懸念を抱えつつも、住宅市場が持ち直すなど景気回復が鮮明となり、欧州では依然として債務問題への不安は残っていますが、ようやく景気底打ちの兆しが見えはじめています。
一方で、中国は過剰設備やシャドーバンキングなどさまざまな課題を抱えており、これまでの高成長を続けることは難しくなっていますが、政府の政策対応もあり、辛うじて7%台後半の成長率を維持しました。その他の新興国についても、米国の金融緩和政策の縮小観測により、経常赤字問題を抱える国から資本が急激に流出し成長率が低下するなど、あらためて米国の金融政策が世界経済に与える影響の大きさを感じる一年でした。
日本について申し上げれば、政権交代により、久しぶりに政治が経済を積極的に主導する体制となり、長期にわたるデフレからの脱却に向け、大きな一歩を踏み出した一年でした。2012年12月の安倍政権発足以来、いわゆるアベノミクスにより行き過ぎた円高は修正され、株価も押し上げられるなど、企業を取り巻く環境が一変しました。また、TPPへの交渉参加や消費税率引き上げなどの政治決断がなされるなど、政策を前に進めることで日本経済の復活をアピールすることができ、世界から注目を集めました。


新しい年を迎えて


年が改まり、2014年が企業経営においてどのような年になるかを考えますと、世界経済は、昨年来の諸課題を抱えつつも緩やかに回復し、グローバル化も着実に進んでいくとみています。そのような環境下、世界との関係の中で日本を位置付ける視点がますます重要になってくると感じています。
日本については、金融緩和や財政出動では一定の成果を上げることができましたが、成長戦略はまだ道半ばです。成長戦略の柱は規制改革とTPPであり、規制改革は国内に新しい市場を創造し、TPPへの参加は海外市場に道を開きます。企業は、この機会を積極的に活かし、新規事業の開拓に挑戦することで、次の時代の成長の芽を生み出していくべきだと思います。そのためにも2014年は官民共に「変革への期待を実現していく年」と位置付けるべきではないでしょうか。
経済連携に関しては、2014年はTPPの他にも日・EUやRCEPなどの交渉も進展していくことが期待されます。国境を越えるモノやサービスの動きがますます活発化することを踏まえて、国際分業体制の見直しを推し進める必要があるとあらためて感じています。自己の強みと弱みをグローバルな視点から客観的に見極め、メリハリのある事業活動を展開していくことが求められます。


商社の果たすべき役割


2013年10月に当会は「商社ビジネス最前線」というシンポジウムを開催しましたが、商社に関心を持つ800人以上の方に参加いただきました。世界と日本がどのように変化していき、その中で商社は何ができるのかというテーマで、有識者も交え、商社の経営者と現役部長の皆さんが大変示唆に富む議論を展開してくださいました。そこであらためて感じたことは、商社は、組織も個々の社員も極めて柔軟性に富んでおり、自身を取り巻く環境の変化にごく自然に適応できるということです。何十年と続けてきた事業であっても、商社として果たす機能が陳腐化したと判断すれば、事業形態を思い切って変えていく。このような新陳代謝を自然体で行えることが商社の強みです。
今後もグローバル化の進展、新興国・途上国の経済発展、急速に進む人口増加といったトレンドは継続すると思われ、エネルギー不足などへの懸念が高まることも予想されます。そういった世界的課題の解決のために商社が果たせる役割は、ますます拡大していくことは間違いありません。そこで求められるのは、異なる環境や新しい価値観に適応しつつ、地球レベルでニーズや課題を把握しながら事業を提案し運営する産業プロデューサーの役割を担っていくことであり、これによって世界の発展に貢献していきたいと思います。


CHALLENGE & CHANGE


プロ野球で東北楽天球団が創設9年目で初めて日本一の座を獲得し、東北の方々だけでなく、国民全体に感動と勇気を与えてくれたことは記憶に新しいところです。監督・選手の表情にはチャレンジング・スピリットと闘志があふれており、目標に立ち向かう姿勢はとても印象的でした。
私は、2013年11月に、文部科学省主催の留学促進キャンペーンにゲストスピーカーとして参加し、これから海外に雄飛しようとする学生の皆さんに「CHALLENGE」という言葉を贈りました。CHALLENGEして生まれ出るものはCHANGEです。2014年が日本にとって挑戦と変革の起点となり、環境の変化に負けない、また、自ら環境の変化を巻き起こすタフな日本人が大いに活躍する年となることを祈念いたします。

念頭所感 誌面のダウンロードはこちら