住友商事が行う調剤併設型ドラッグストア事業の展開

住友商事株式会社 リテイル事業部 部長代理 ドラッグストア事業 チームリーダー
角谷 真司

1. 調剤併設型ドラッグストア事業の立ち上げ


トモズ水天宮店

当社にはスーパーマーケット「サミットストア」をゼロから立ち上げ、その後50年間運営してきた経験と知見があります。今から25年ほど前、すでにサミットストア事業は首都圏で質量共にトップクラスのスーパーマーケットになっていたことから、それまでに培った小売事業のノウハウを活かし、何か新しい事業ができないか検討を行っていました。


トモズ東池袋店

その当時日本では、ほとんどの医療機関が院内で調剤を行っていましたが、欧米では医療機関が診察や治療を行い、病院外の薬局が調剤を行う「医薬分業」が一般的でした。日本の政府は、これから高齢化が進んでいく中で、欧米のように医療機関ではなく、いわゆる「かかりつけ薬局」が地域の患者に薬を提供していくべきだとする方向性を打ち出していました。この動きを察知し、小売りのノウハウと世の中の流れをかけ合わせ、商機ありと判断して事業化の検討を始めたのが、欧米型の調剤併設型ドラッグストア「トモズ」です。

当時ドラッグストアというと、ようやくマツモトキヨシが世間に認知され始めた頃でしたが、調剤を行わない「薬店」がほとんどでした。そうした中で当社は、あくまでも調剤併設にこだわり、ドラッグストア事業をスタートし、推進しました。



2. 調剤併設型ドラッグストアの拡大

「トモズ」のネーミングは「友達」の「友」の意味を含むとも解釈していますが、もともとはSumitomoのドラッグストアということで、SumitomoのTomoにDrugstoreのDとSを付けて「Tomod’s」とし、カタカナでは「トモズ」としました。

第1号店を池尻大橋にオープンしたのは1994年4月です。その後、地道に1店ずつ出店することで自力成長してきましたが、同時に2000年に西友の傘下にあった「朝日メディックス」、2006年に「コーエイドラッグ」、2010年に「クスリのカツマタ」を買収して、店舗網の拡大を図りました。2017年3月末時点で、店舗数は153店舗、売上高は670億円まで拡大しています。

現在、「トモズ」の店舗カラーは当初のオレンジから青に変わっています。創業当時は寒色や原色を使うドラッグストアが多かったため、「温かみ」や「親近感」「親しみやすさ」を込めて暖色のオレンジと赤の中間色を採用し、差別化を図る狙いもありました。

その後「トモズ」は、店舗立地を都内の繁華街に集中させたこともあって、特に若い女性に支持され、実際に化粧品やシャンプー・リンスが高い売り上げを占めるなど、若い女性向けの店舗であるというイメージが自然と付いていきました。一方、ドラッグストア業界はちょうど当社が参入した頃から急激に成長したのですが、世の中に受け入れられるに従い、ドラッグストアの機能そのものが高まり、従来の専門性に加えて、お客さまの利便性を満たすコンビニエンスストアに近い機能が求められるようになりました。昨今では、スーパーマーケットやコンビニエンスストアが埋めきれない部分をドラッグストアが埋めていると考えています。

例えば、日用雑貨や簡単な食品などはドラッグストアで買えますし、場所によってはちょっとした生鮮食品も購入できるようになり、若い女性だけでなく、今まで以上に老若男女全ての方々から支持される店舗となる必要があると考えました。さらに「トモズ」の場合は、調剤薬局を併設しているので、お年寄りや子供の方々も来店しやすい店舗にしようということで、若い女性向けのイメージが強かったオレンジ基調のデザインから、中性的なミッドナイトブルーをベースにしたデザインに変更しました。

3. 調剤併設型ドラッグストア事業の将来展望


アメリカンファーマシー

「トモズ」以外の事業としては、大きく二つあります。その一つは、1950年創業で日本一古いともいわれるドラッグストア「アメリカンファーマシー」です。かつて日比谷の晴海通り沿いにあり非常に目立っていたため、ご年配の方々にはご存じの方が結構多いと思います。当社は1997年に「アメリカンファーマシー」を縁あって買収しました。現在は欧米の商品が普通に手に入る時代ですが、いまだに隠れた良い商品を求める方が多く、また、ドラッグストアでそのような商品を提案している店舗があまりないため、都内に限らず、地方からも来店される方が多いです。商業施設を中心に展開しており、店舗数は4店と多くないですが、根強い固定ファンの方々に支えられています。


インクローバー

もう一つは、「インクローバー」という国内外の高級化粧品をまとめて扱うセレクトショップです。2012年に1号店をラゾーナ川崎に開店しました。ほとんどの百貨店の1階には高級化粧品売り場がありますが、昨今はその百貨店が苦戦しているため、化粧品の売り上げも伸び悩んでいる状況にあります。当社はもともと「トモズ」で比較的安価な化粧品を販売するノウハウを持っており、こうした知見を基に、シャネルやディオールなどの輸入高級化粧品を専門に扱う事業に新たな可能性があると考え、百貨店に次ぐ販売場所を開拓し始めていた高級化粧品ブランドメーカーから積極的な協力を得て、始めた事業です。

海外進出の例としては、2012年12月に現地企業との合弁で台湾の台北市に「トモズ」をオープンしました。その後、新北市を含む台北都市圏を中心に順調に拡大してきましたが、2016年からその他の都市への出店を始め、2017年3月末時点で台湾全土に24店舗を展開しています。2017年は、台北市周辺はもちろん、台中市、高雄市等へもこれまで以上に積極的に出店していく計画です。今後は、台湾での事業を足掛かりに、成長著しい東南アジア市場へのドラッグストア事業の展開も視野に入れていきます。

(聞き手:広報・調査グループ 藤田正)

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