伊藤忠グループが展開するリテールビジネス

伊藤忠ファッションシステム株式会社 代表取締役社長
石井 和則

伊藤忠商事とのつながり

私は1981年に伊藤忠商事に入社し、以後33年間一貫して繊維ビジネスに携わり、特に事業会社での勤務やブランドビジネス等を通じてリテールビジネスと深く関わりを持ってきました。2014年4月には伊藤忠ファッションシステムの社長に就任し、さらに関わりは増しています。

伊藤忠ファッションシステムは、伊藤忠商事の100%子会社として、1971年に設立されました。設立当初は、伊藤忠商事が取り扱う繊維製品の品質検査事業が中心でした。現在でも、大阪と上海に繊維技術室があり、品質検査を行っています。

その後、事業内容も徐々に変わり、ブランドの版権ビジネスやライフスタイル研究、MD企画といった情報ビジネスへと広がっていきました。現在は、長年培った独自のファッションマーケティングの視点を活かし、クライアント企業のブランディング活動をサポートさせていただく機会が増えています。ファッションを切り口としていますが、ライフスタイル全体を対象としており、アパレルや食、自動車、化粧品などさまざまな分野のマーケティング活動を行っています。

伊藤忠商事が手掛けるビジネス、例えばDoleやファミリーマートにおいても、ブランドメッセージの開発や品ぞろえの方向性などについて共に取り組んでいます。商社のリテールビジネスに対し、より具体的にどうしたらよいかというソフト面の提案を行うことで協業できる機会も増えますし、グループ全体として事業に取り組んでいます。

繊維ビジネスからブランドビジネスへ

伊藤忠商事繊維カンパニーでは、「ル・パン・コティディアン」のように食の分野も展開していますが、衣・食・住のライフスタイル全般を切り口としたブランドをさまざまな商品にライセンス展開をする、あるいはブランドの商標、さらにはブランドそのものを買収するというビジネススタイルも増えてきています。

かつて商社が扱う繊維というのは、大きく分けて「アパレル・産業資材・リビング」の3分野で、私自身は産業資材に関わっていました。歴史をさかのぼると繊維産業というのは川上の「糸・綿」といった原料の取り扱いから始まり、織物(生地)、そして製品(縫製品)へと主流が移り変わりました。今では川下(ブランドビジネス)へと重心が移っています。

1970年代後半、英国の紳士服地を輸入し、生地に海外有名ブランドの名前を付けて販売したのが、伊藤忠商事におけるブランドビジネスの始まりです。現在では、海外の有名ブランドのライセンス権を獲得し、数多くのサブライセンシーと組んで、衣類のみならずバッグ、メガネ、靴下といったさまざまな商品分野にわたり、ライセンスビジネスを展開しています。もちろんブランド展開には事前の市場調査が重要です。数多くのサブライセンシーはそれぞれ業界のプロですので、専門的な意見をお聞きしながら、情報収集や市場予測を綿密に行った上でライセンス権を獲得しています。

伊藤忠商事はブランドビジネスのモデルを確立し実績を積み上げていっていますが、現在は消費者のニーズが非常に多様化しています。現在はインターネットの普及等もあり、お客さまも情報に詳しくなっています。ブランドの歴史、商品価値だけではなく、付加価値や機能性も加味された上で、総合的にブランドが評価される時代になっています。

多様化する流行

かつては爆発的な流行ファッションもありましたが、現在では好みの多様化もあり、流行も細かく分かれる傾向にあります。当社でも細かな世代ごとの分析はもちろん、世代に関係なく、生活者全体に共有している「気分」を毎年見直す、といった多面的な分析が必要になっています。

最近では全世代的にトレッキングやランニングといったアウトドア・スポーツの分野の人気が高まっています。

少子高齢化も進み、特に時間とお金に余裕が出てくるこの分野のシニア層向けブランド・商材開発の可能性を感じています。

また、中国やアジアでは、今後若い世代の人口が増え、所得も上がっていくと予想されています。日本のファッション市場はアジアから注目されており、ブランドビジネスを考える上では、同時に中国やアジア市場も視野に入れることが重要であると考えます。今後も消費者志向やトレンド、世の中の移り変わりなど、市場動向を敏感に察知し、さまざまなブランドなどの企画、提案を行っていきたいと考えています。

新しい試み「ifs未来研究所」


ifs未来研サロン WORK WORK SHOPの様子

2013年4月、当社は、5-10年後の未来を見据え、日々の暮らしの中、理論や理屈優先ではなく、人が五感で受け止める豊かさや魅力を感じるモノ、コトを発信していきたいと、「ifs未来研究所」を立ち上げました。2014年7月には、さまざまな方が集い、人と人、情報と情報の交流が行われる場として、伊藤忠ビルの隣にあるCIプラザ内に「ifs未来研サロン WORK WORK SHOP」(期間限定)をつくりました。オープンに際し、コクヨファニチャー、コクヨ S& T、ポーラ、ルミネ、ロックフィールドの5社(2014年7月現在)に賛同いただき、企業が新しい試みに挑戦できる実験的な空間としても展開しています。

私自身も以前、コンバースフットウェアに出向し、コンバースブランドの商標買収から商品企画・開発、販売を経験し、ハンカチ雑貨卸の川辺でもさまざまなブランドビジネスを展開させていただきました。異なる文化を持つ企業、経営者とクリエーター、デザイナーとマーケター、違う分野の企業同士など、新しい人と人の関わりを持つことは面白いことです。未来研の発足により、長年お付き合いのある方々との新たな取り組みの話が集まりはじめ、各方面から期待されています。これからもジャンルは問わず、新しいこと、新しいビジネスを創り出していきたいと思っております。

(聞き手:広報グループ部長 木村昭)

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