QVCのマルチプラットフォーム戦略

三井物産株式会社 メディア事業部 株式会社QVCジャパン 社長
佐々木 迅

2013年に竣工したQVCスクエア

QVCジャパンは、当社と米国のテレビ通販最大手「QVC, Inc.」が2000年に設立した合弁会社である。設立当初より、当社は国内放送事業における経験を活かした QVCジャパンの視聴可能世帯数の拡大や、社内外の幅広いネットワークを生かした商品調達等、当社総合力を駆使して幅広い支援を行っている。

現在は各地のケーブルテレビや衛星放送を通じ、全国約2,600万世帯へ向けて、24時間365日生放送の通販番組を放送し、アパレル、宝飾品、化粧品、家電、食品等々多岐にわたる年間約2万4,000点に上る商品を取り扱っている。40代から60代の女性のお客さまを中心にご利用いただいており、2013年には売り上げ1,000億円の大台に到達した。また、2013年は千葉市幕張新都心地区に、放送スタジオ・Eコマース用フォトスタジオなど、計7つのスタジオやコールセンター機能を完備した新社屋「QVCスクエア」が完成し、テレビはもとよりインターネットやモバイル(タブレット・携帯電話)への展開も積極的に進め、お客さまに広く愛される商品展開・番組制作に日々努めている。

映像を通したリアルな体験

QVCの番組の一般的なスタイルは、番組のホストとして司会進行を務める「ショッピングナビゲーター(ナビゲーター)」と商品の専門家である「ゲスト出演者(ゲスト)」が会話を交わしながら商品を紹介していく。ナビゲーターは、視聴者が今この瞬間に知りたいと思うであろう情報を、ゲストとの会話を通じて引き出していく。早朝でも深夜でも、いつでもお買い物のサポートをしてくれるナビゲーターは、お客さまにとってなじみの店の店員さんのような身近な存在となる。そして、デザイナーやメーキャップアーティスト、商品の生産者といったゲストにも人気が集まる。

例えば繊維メーカーの社長が自ら出演して商品を説明する番組では、商品そのものの特徴だけでなく、原料の話や工場の様子を織り込みながら番組が進行する。画面を通じて語り手の誠実な人柄がお客さまに伝わり、普通のビジネスマンがいつしか名物ゲストとなっている。

QVCの最大の強みは、こうしたお客さまとの情緒的なつながり(QVC社内では「エンゲージメント」と呼んでいる)であり、QVCが提供する以下3つのリアルな体験が、その「エンゲージメント」を高める仕掛けとなっている。

リアルタイム
QVCの番組は24時間365日生放送であるため、お客さまは番組に出演しているナビゲーターとゲストの会話を「リアルタイム」で体験することができる。

リアルな声
QVCの番組ではリアルタイムに商品の売れ行きを情報としてお客さまに提示しており、それにより例えば「今どの色が人気なのか」といった「リアルな声」が分かり、お客さまの反応次第で番組も即時に変化していく。番組放送中に、時にはお客さまからのお電話をスタジオにつないで出演者と会話をしていただく演出もあり、2013年からはツイッターで視聴者からコメントを頂き番組の中で紹介する取り組みも始めた。

リアルな場
QVCでは、定期的にスタジオに観覧席を設け、公開生放送をしている。実際にいつも見ているナビゲーターやゲストとじかに会い、スタジオで生放送の緊張感を体験してもらうことで、QVCをより身近に感じてもらうことが狙いだ。

お客さまは QVCの映像を通じて、新しい商品を発見し、そのモノにまつわる人のファンになり、その人の語るストーリーに共感する。単にモノを手に入れる喜びにとどまらない、豊かな体験を提供できることが QVCならではの強みだ。

デジタルデバイスへの展開

QVCらしいお買い物体験を届けるのに映像は欠かせないが、昨今、映像を届けられる媒体はテレビに限らない。QVCジャパンは現在、パソコンやモバイルにもテレビと遜色ない高画質動画を配信しており、インターネット・モバイルを経由した受注割合は全体の3割を超え、特にスマートフォンの普及に伴いモバイル経由の注文が増加している。

マルチプラットフォーム戦略


QVCのショッピングナビゲーター

QVCにとって、インターネットやモバイルなどのデジタルチャネルはさらなる成長機会につながると考えている。テレビは一日24時間と放送時間が決まっており、紹介できる品数も限りがあるが、インターネットならば、時間の制約を受けることなく、品ぞろえを拡大することができる。

ただし、QVCは、デジタルチャネルで、動画や新たな品ぞろえをいたずらに拡大することが成長とは考えておらず、お客さまとの情緒的つながりを築く「エンゲージメント」を全てのプラットフォームにおいて実現していくことが必要と考えている。プラットフォームの中でもテレビは長年の経験があり得意な分野であるが、今後は、パソコン、モバイル、フェイスブックやツイッター、YouTube、カスタマーコンタクトセンターの電話応対まで全てのプラットフォームで豊かな体験をお客さまにお届けし、「エンゲージメント」を向上させることがQVCの目指す成長である。

ビジネスとしての発展性

QVCジャパンは、放送、小売り、コールセンター、物流センター、情報システムなどのさまざまな産業が結び付いて生まれた新しいビジネスであり、現在ではソーシャルネットワーク等の新たな軸が加わりつつあり、今後はマルチプラットフォーム・リテーラーとして日本の流通市場に新たな革新をもたらしていくことができるよう、当社としても引き続きさまざまな形で支援を行っていきたいと考えている。

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