米国のメディア事情について

時事通信社 ニューヨーク総局 記者
井町 知致

米国における取材活動

ニューヨークでは経済担当記者として、ニューヨークの金融市場や企業のニュースをカバーしながら、日本に向けて情報発信を行っています。とりわけニューヨークはさまざまな国、あらゆる分野の人が集まりますので、市場関係者以外の取材も多く、いかに情報を入手するかが重要になります。言語は異なりますが、取材先への連絡やイベント、会合への参加など、日本での取材活動と同様に丁寧かつきめ細かな対応が大切です。

米国と日本の取材での大きな違いとしては、記者クラブが存在しないことが挙げられます。例えば各役所を取材する場合、記者は一人一人記者証の発行を受ける必要があり、まずそこで登録されるかどうかが関門になります。記者証の発行までは時間がかかりますが、いったん登録されれば、記者会見などの情報は日常的に送られてきます。

米国では全国メディアが限られており、全国をカバーする通信社はAP 通信、ブルームバーグ、ダウ・ジョーンズなど。主要紙もウォール・ストリート・ジャーナル、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストと数が限られています。そのため、発表側も案内すべきメディアを把握しやすく、直接、会見案内やニュースリリースを流しています。

また、米国大手企業の場合、ある程度は広報担当者がいますので、案内やリリースを送っていただくよう、記者から直接依頼します。役所とは異なり、日本語メディアに流すメリットがあるかどうかの判断は企業側に委ねられますので、企業によっては情報を入手できない場合もあります。その場合、ウェブサイトのアラート機能などを使い、最新情報を入手するよう防衛策を張りますが、基本的には日本と同じように広報担当者に連絡を取り、情報を送っていただくよう依頼しています。

米国は国土が広いため、決算発表なども電話会見が一般的ですが、最近ではWEB 会見も増え、インターネット経由での質疑応答が可能です。米国は主に12 月決算ですので春ごろに株主総会が行われますが、日本のように株主総会の集中日はありません。興味深いことに、米国での株主総会は、たとえ不祥事があっても1 時間ほどで終了することが多いです。もちろん批判も出ますが、日本のように2-3時間と長くかかることはありません。開催場所も大都市ではなく、全国的な企業であれば従業員やお客さまがいる拠点、例えばフロリダやテキサスなどで順に開催していきます。取材側としても電話やWEB 会見で聞けますので問題ありませんし、そもそも総会に株主があまり出席しないのも、日本とは大きく異なる点です。

米国メディアの特徴と広報戦略

米国のメディアは、良く言えば楽観的でポジティブだと感じています。企業で不祥事が起きても、感情的、徹底的に批判することはなく、理屈をもって批判をした後は、「次のステージはどうするのか?」と、姿勢を切り替えて建設的に議論を進めます。企業の責任追及は法廷でされるべきであり、メディアの役割は別と考えているのかもしれません。これも日本とは大きな違いです。日本企業が米国でのメディア戦略を考える上では、重要なポイントだと思います。

米国での広報活動を考える場合、対一般、対投資家で戦略が変わってくると思います。例えば、自動車や電化製品など消費者に直接届くものであれば、米国メディアもすぐに取り上げますし、企業側も米国内での広報戦略を確立していると思います。

しかし、商社や銀行の場合、リテールが少ないからか、広報担当者を各社そろえているわけではないようです。シェール開発が注目されたころから商社は情報発信に努めておられますし、記者向けの勉強会を開催されている企業もあります。米国絡みの案件であれば、東京で報道発表されると思いますが、例えば、米国現地企業と日本企業が提携している案件であれば、米国企業が発表する場合もありますので、こちらから取材を行うケースもあります。米国のメディアやアナリストが、日本の商社にどれだけの関心や株を持っているかとも関係しますので、それにより広報戦略も変えていく必要があるかもしれません。

「超速報」の時代へ

ニュースの世界も変わりつつあり、最近では米国メディアの記者による「つぶやき速報」が激しい競争となっています。誰でも読むことができるツイッターなどで、会社名、記者名を明らかにしたオフィシャルアカウントからまず速報を流し、その後、詳細記事へ誘導するという手法が取られています。日本メディアもツイッターを活用していると思いますが、近い将来、米国メディアのように記者会見の場で速報をつぶやき続ける日が来るかもしれません。

また、速報以外のニュースも今後は流れが変わってくるでしょう。日本にもバイラルメディア「BuzzFeed」が上陸しますし、大手メディアとは異なるメディアが収益を上げてきています。バイラルメディアもそれぞれが信頼度を高める努力をしていますので、既存メディアはこれまで以上に取り組むことが多くなるのではないでしょうか。また、ポータルサイトの短文ニュースでは満足できない読者もいますので、長文、専門記事のニーズが高まり、メディアもそれに対応していくのだろうと思います。

米国のこれから

米国の弱点はやはりインフラの弱さだと思います。2012年に発生したハリケーン・サンディでもマンハッタンは4日間停電となるなど、ニューヨークでは停電はもはや年中行事です。道路や橋、上下水道なども老朽化は激しいのですが、議会は対立していますし、財政難で予算もまとまりません。ニューヨークに限らず、全体的に米国のインフラは良くありませんので、日本企業にとってはビジネスチャンスかもしれません。

米国にはエネルギー資源もあり、ドルも基軸通貨として安定していますので、ある意味、他国がなくても自国だけで完結でき、同時に孤立主義に陥る可能性も秘めています。私たちメディアが今、特に気にしているのは、FRBがいつ利上げするかです。利上げ後に、米国で何が起きるのか、世界にどのような影響が出るのか。常に先を見据えながら、取材を続けていきたいと思っています。

(聞き手:広報グループ 蟹田綾乃)

米国のメディア事情について 誌面のダウンロードはこちら