米国経済と今後の日米経済関係の展望

在米国日本国大使館 公使
赤星 康

米国経済の現状と中間選挙後の経済政策

現在の米国経済は指標で見ると極めて良い状態であり、2014年の成長率は第2 四半期4.6%、第3四半期も3.9%(2次推計値)、民間調査会社ブルーチップの調査によると、2014年の経済成長率見込みは2.3%とのことですが、実際にはこれを上回るのではないかと予想しています。

また2015年以降も約3%以上の成長を続けるのではないかと見込まれています。これほど巨大なマーケットが3%の成長を着実に続けるのは大きなインパクトがあります。世界経済を見渡しても、欧州は低迷、中国や新興国が減速している中、米国だけが順調に成長している感があります。

国内指標を見ても、失業率はリーマン・ショック後は約10%に達しましたが、直近では5.8%まで下がりました。雇用者数も戻り、株価も非常に高くなり、2014年10月には、FRB(連邦準備制度理事会)が資産購入プログラム(いわゆるQE3)を終了させたのは、一つの転機といえます。

シェールオイル・ガスも、世界的に重要なエネルギーソースの一つとなり、日本への輸出も遠からず始まるなど、米国は産油・産ガス国としても大きな存在になりつつあります。

このように、マクロで見ると、米国経済には悪い点がないのですが、一方で、2014 年11月の中間選挙でもよくいわれたように、多くの国民が経済面で不満を感じています。特に中間層以下は、リーマン・ショックの時から賃金が変わっていないと思っている人が多くなっています。確かに、失業率は下がっていますが、労働参加率(学生や就職を諦めた人も含まれる)も下がっており、単純に失業率が下がったといっても、全ての国民が満足というわけではないようです。結局、所得の不均衡があり、一部の高所得者へ富が偏在しています。毎月約20万人ずつ新規雇用が増えていますが、飲食店や介護など低賃金のサービス業が多いのが実態です。こうした所得格差の問題も、中間選挙の民主党敗北に影響したといわれています。

今回の中間選挙によって上下院共に共和党が過半を押さえましたので、従来の民主党政権とは違うねじれが生まれました。米国では議会が物事を決めて動かしていく要素が強いので、今後の政策についても議会の動きをよく見ていく必要があります。すでに移民問題やいわゆる「オバマケア」では論争が始まっており、対立が激しいトピックではなかなか両党が協力できる余地が少ないかもしれません。しかし、中間選挙も含め常に経済や雇用がイシューになることもあり、雇用につながるエネルギー、通商政策などについては両党が協力する余地があり、今後議会でさまざまな動きが出てくるのではないかと思います。

他方、例えばカナダからメキシコ湾岸に原油を輸送するキーストンXLパイプラインという計画がありますが、その認可をめぐり、エネルギーと雇用創出のために必要と主張する勢力に対し、環境重視派が反対するなど、個別の問題をめぐって議論が錯綜することも多いのが実情です。2015年からの新議会の動きをよく見ていきたいと思います。

今後のアジア太平洋戦略

今月(2014年11月)には北京でAPEC 首脳会合が、またミャンマーで東アジアサミット、豪州・ブリスベーンでG20首脳会合が開催されました。オバマ大統領は連続でこれらに参加するのみならず、これらの機会に併せて、中国公式訪問などさまざまな外交活動を行いました。

ブリスベーンでは演説を行い、あらためてアジア・太平洋への「リバランス」を強調し、中東やロシア・ウクライナなどにおいていろいろな緊急の対応を要する出来事が起きていることもあり、リバランスに疑問を呈する人もいるが、このような世界的な課題があるからこそこの地域への関与を強化していると述べ、またTPPの実現の重要性などにも触れています。

実際、米中首脳会談では気候変動に係る共同声明が発表されたり、日中首脳会談も行われ、他方、中国主導のAIIB(アジアインフラ投資銀行)構想などさまざまな物事が動き出しています。いろいろな意味で世界の重心が太平洋に移ってきているのは事実であり、どのようにこの地域との関与を具体的に深めていくかがオバマ政権今後2 年間の重要な課題になります。

2014年10月にはペニー・プリツカー米商務長官が訪日・訪韓ミッションとして、医療やエネルギー分野の米国企業約20 社と共に来日しました。商務長官が経済ミッションを率いて来日するのは約20年ぶりであり、日本があらためて注目されていることが如実に表れていると思います。アジアの中では、とかく中国の存在感が大きいようにいわれていますが、あらゆる面で日本の重要性は見直されています。今後もさまざまな主体が日本に期待される役割をしっかり果たしていければと思います。

日米経済関係と今後の関係強化に向けて

日米経済関係というと、政府関係では、以前は貿易摩擦、今ではTPPといったテーマのため、ワシントンDCと東京の間の話という要素が強いように思われがちです。ビジネスマン、議員、政府関係者の往来もニューヨークやワシントンDCと東京が多いのも事実です。しかしながら米国の国土は非常に広大で、都市も決して一極集中ではありません。各地域でさまざまな活動が行われています。

例えば、ある日系鉄道車両メーカーは、ネブラスカ州でメトロの車両を生産しており、その数百両の車両がワシントンDCに納入され走行することになっています。また、かつては反日的イメージがもたれていたデトロイトも、近郊に自動車を含めさまざまな日系企業が進出しており、デトロイト市の破綻の支援の一環として、2014年11月にはデトロイト美術館に多くの日本企業から約3億円の寄付が寄せられました。

私も米国に住み、各地方を見てきましたが、実感するのは、やはり各地域における日本企業の存在の大きさです。日本から数多くの企業が米国の各地に進出し、それぞれの地元でまずは雇用や生産を通じて貢献し、さらにさまざまな社会貢献もされています。

最近では、佐々江大使がカリフォルニアを訪問し、同州と日本の間の再生可能エネルギーおよび高速鉄道等のプロジェクトに関する覚書を結びました。これは一例ですが、前述のような各社の貢献、またこうした各地域における経済取り組みが総体として良好な日米関係を築き上げていると常々実感しています。各商社も米国で各種の投資活動を実施されていますが、ぜひ各地域で積極的にビジネスを通じた貢献をしていただきたいと願っております。

(聞き手:広報グループ 蟹田綾乃)

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