日本貿易会常任理事に聞く2015年の展望

稲畑 勝太郎 稲畑産業株式会社 社長


①日銀の金融緩和政策がいつ修正に向かい、急激な円安と海外投資家を中心に買い上げられた株式相場がどのような形でソフトランディングに向かうのかに注目する。また、エネルギーコストへの影響が大きいシェールガス関連の動向にも引き続き注目する。
地域的には健全な成長を続けるアジアが世界経済をけん引するものと期待している。

②中期経営計画の2年目となる2015年は、重点施策に掲げた6項目全てにわたり明確な進捗をしんちょく残せる年にしたい。中でも「成長が見込める市場・未開拓分野への取り組み」と「グローバルな経営インフラの整備・拡充」に注力し、最終年度のターゲット達成につなげたい。

牧野 明次 岩谷産業株式会社 会長


①急激な円安に加え、原油、LPガスをはじめとするエネルギー価格の下落等、懸念材料はあるものの、政府の経済政策や日銀の金融政策が功を奏し、国内製造業の業績が回復し、個人消費も上向くものと考える。さらに、消費税増税の1年半延期や、東京オリンピック・パラリンピック開催に向けた内需拡大が経済をけん引、先行きは明るい。

②引き続き、米国産LPガスの輸入を推進し、調達先の多様化による安定供給に努める。希少資源のヘリウムは、米国産に加えカタール玉の調達を継続、拡大する国内外市場へスピードをもって対応する。水素については、市販が開始された燃料電池自動車の普及を促進するため、インフラ整備を強化。2016年3月までに全国20ヵ所の水素ステーション整備を完了する。

下嶋 政幸 兼松株式会社 社長


①日米金融政策と原油市況の動向を注視する。米国での利上げ観測を背景とした為替相場の推移が予見され、国内外の実体経済へどのように波及するのかが注目点。内外需要の持ち直しに加えて、原油などの国際商品市況の安定による景況改善に期待したい。中国経済の成長率鈍化は気掛かりだが、先進国向け輸出の増加が下支えとなり、底堅く推移するものとみる。

②商社の原点、当社の基本理念に立ち返り、実業を重視し、お取引先との共生・発展を通じた成長を推進していく。アジアを重点地域として、激変する食市場や食料インフラへの積極投資や、日系企業の進出支援など、当社グループの得意分野に注力し、事業の横展開・深掘りを実践する。攻めの経営で、揺るぎない成長路線の確立を目指していく。

三輪 芳弘 興和株式会社 社長


①日本経済は長く続いたデフレ均衡脱却の正念場にあり、総選挙後の金融政策などが持続的成長の後押しをできるかどうかが焦点になる。アベノミクスが完全燃焼するには税制改革など課題は多い。また、停滞感から抜け出せない欧州経済や地域紛争は国際経済の懸念材料として残る。欧米に比べ、成長を続けるアジア市場が、引き続き内在する活力を伸ばしていけるか注視したい。

②2014年、世界初の作用機序となる緑内障治療薬の販売承認を取得した。これまで力を注いできたメタボリックシンドローム領域と共に、検査機器や眼内レンズをラインアップした眼科領域を事業の重点領域と位置付け、人々の健康生活にお役に立てるよう努めたい。またグローバル化を進めてきた医療用医薬品に続き、OTC医薬品およびその他ヘルスケア関連製品のグローバルな展開を一層進展させていきたい。

圡井 宇太郎 CBC株式会社 社長


①日銀による大胆な金融緩和策が市場に及ぼす影響を注視していく必要があり、行き過ぎた円安や悪性インフレによる金利上昇が懸念されるが、一方ではエネルギーコストが下がってきており、政局的にも安定が見込まれることから、2015 年は、全体的にまずまず順調に推移するとみている。

②2015年度も医薬関連事業、バイオ農薬事業を推進するとともに自動車関連分野では、周辺分野の広がりを受けレンズ・カメラ機器関連事業および部品製造事業の特性を生かしながら連携を取り、ニッチ市場での強みを発揮していく。また東南アジアでの生活、食品・包装関連事業にも注力し基盤を強化していく。人材面では、グループ全体で企業理念を共有し、地域に根差した事業拡大とグローバル経営人材の育成に注力していく。

矢島 勉 JFE商事株式会社 社長


①国内では、良好な雇用環境、底堅い企業収益を反映して緩やかながら成長軌道をたどると想定。また、海外景気の回復と円安を背景に、各製品の輸出も増加していくと考える。
鉄鋼業界については、国内では製造業向けがけん引し、引き続き好調に推移すると想定するが、鋼材輸出は中国ミル等の過剰生産により厳しい状況が継続すると思われる。

②国内では、当社機能を活かした提案型の営業活動によりCSの向上を図り、伸長が期待される製造業向けに加え現場密着営業を通じて建築向け鋼材重要も積極的に取り込んでいく。海外では、新規に開設した拠点を通じて有望市場の開拓を進めるとともに各地の拠点とグループ会社の連動性を高めることで現地取引を拡大する。

山﨑 修二 蝶理株式会社 相談役


①米国経済の成長基調に支えられ、国内経済は輸出産業を中心に緩やかながら景気回復の継続が期待できるが、急激な為替相場の変動、円安に伴う輸入コストアップ、消費税率引き上げ後の個人消費の回復遅れが懸念され、楽観はできない。また、減速傾向の新興国経済、低迷する欧州経済、欧州・中東・東アジアなどの地政学リスクにも注視が必要。

②2014年4月より、中期経営計画「躍進2016」がスタート。3ヵ年計画の中間年として、その基本戦略である、「連結経営基盤強化」「人的基盤強化」「新規開発・M&A」を加速する。外部環境は想定をはるかに超えるスピードで変化しており、事業・組織・資産・関係会社・諸制度等の見直し・改革は聖域を設けず、スピード感を持って実行する。

長瀬 洋 長瀬産業株式会社 社長


①世界経済は新興国の成長寄与、米国を主体とした先進国の回復も期待し、緩やかな成長を予想するが、明確なけん引役は不在と考える。為替相場の急変、地政学的混乱、各地域での政治的混乱、天災などはコントロール不能な懸念材料として常に起こることを前提に事業運営を考えたい。当社の主な事業領域である石化業界は、大きな構造変化を迎えようとしており、これをけん引材料=チャンスと捉えたい。

②注力領域として「バイオ」「エレクトロニクス」、育成領域として「環境・エネルギー」の事業強化や事業の核づくりを粘り強く続ける。短期的には、各セグメントでの既存事業の拡大、開発テーマ、投資を着実に成果につなげることをスピード感を持って進める。さらに事業領域、地域、機能と多様化したグループの一体感の熟成、長期スパンでの持続的成長を狙い、グループ全体としての「目指す将来像」を明確にし、各事業領域、地域での長期ビジョンの策定を行う。

宮坂 一郎 日鉄住金物産株式会社 社長


①けん引材料は、政府の成長戦略、経済対策と国土強靭化の取り組み、および、2020年夏季五輪・パラリンピックに向けた首都圏の再開発計画。懸念材料は、電力をはじめとする諸コストアップ、急速な為替変動、新興国経済の停滞、および、世界各地域における地政学的リスク。

②統合2年目に当たり、鉄鋼、産機・インフラ、繊維、食糧の四つの事業がバランスよく収益を確保し相互補完しながらグローバルな成長を遂げていく体制をさらに強化する。
また、複合経営によるシナジーをあらゆる角度から追求し、統合効果の早期最大発揮を図る。

古川 弘成 阪和興業株式会社 社長


①中国経済は減速傾向を強める一方で、米国では、金融緩和策の縮小が始まった。新興国の成長シナリオは両国の経済の影響を受け変調し、アジア圏全体の経済は上伸力に乏しい。一方国内では、消費税増税による景気の足踏みがみられるが、再増税の延期やオリンピック関連投資を含む堅調な公共投資、原油安といった要因による経済の回復が期待される。

②第7次中期経営計画の総仕上げに当たり、収益力とリスク管理の両面の強化による企業力の向上を目指す。「そこか」(即納・小口・加工)戦略のさらなる進化や、国内外の取引先のより一層の深掘りを目指し、必要な成長投資を継続する。また、商社のインテリジェンスの根幹である与信管理の強化や業務品質の改善に取り組み、収益を漏らさない仕組みを確立する。

久田 眞佐男 株式会社日立ハイテクノロジーズ 社長


①欧州は景気低迷が長期化するなど低成長が継続するとみられ、新興国は引き続き緩やかに成長すると予想される。一方、米国では個人消費、住宅投資を中心に景気回復は加速すると期待している。日本では消費税率引き上げによる影響は一部残るものの、景気回復局面にあるとみており、安倍政権による景気刺激策の継続を期待したい。

②2015年は、「日立ハイテクグループの強みをさらに強化し、真の成長を実現する攻めの年」にしたい。「バイオ・ヘルスケア」「社会・産業インフラ」「先端産業システム」を重点3事業ドメインとし、成長分野へのリソースシフトと変革のさらなる推進を図るとともに、お客さまとの関係強化によるソリューション事業の拡大に取り組んでいく。

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