資本としての「信頼」

一般社団法人日本貿易会 副会長 三井物産株式会社 社長
飯島 彰己

2014年の世界は、多くの国・地域の経済が順調さを欠く中で、イスラム国の台頭やウクライナをめぐる対立の深刻化など、一段と不安定さを増したように思われました。そうした中、世界第2位と第4位の人口大国であるインドとインドネシアで、改革への期待を背負った新たなリーダーが登場したことが、明るい話題となりました。この両リーダーには、知事としての実績によって人々の支持や信頼を獲得し、さらなる期待を背負って登場したという共通点があるかと思います。人々の支持や信頼は、リーダーとして政策を実現していく上で重要な武器となりますが、その総量は、信頼に応えるだけの実績を残せれば増加し、それができなければ減少するという意味で、一種の資本のような性質を持っています。

これは、必ずしも政治の世界だけの話ではなく、私たちが日々取り組んでいるビジネスの世界にも当てはまるように思います。2014年もさまざまな国を訪れ多くの方とお話しする機会を持ちましたが、幸いなことに、多くの分野、国・地域で、私たち商社に対する期待は相当に大きなものがあります。これは、私たちが仕事に取り組む際、とりわけ新しい事業を創出しようという局面では、極めて大きなアドバンテージとなります。そして、その期待に応えて事業を実現することで、期待を信頼に変えていくことができれば、そのアドバンテージはさらに大きなものとなるはずです。

顧客やパートナーの期待に応え、信頼を醸成していくためには、事業を通じた実績をしっかりと上げていくことが大前提ではありますが、それだけで十分だとはいえなくなっているようにも思います。近年では、グローバル化や産業構造の変容が進み、なじみの薄かった相手をお客さまとして、あるいはパートナーとして事業を展開するケースが格段に増えてきています。そうした相手の信頼を得ていくためには、過去の実績も含めて、企業としてのアイデンティティーを明確に発信していくことが必要であり、そのためには戦略的な取り組みも重要になってきます。

三井物産では2014年春からブランド・プロジェクトに取り組み、9月には、ロゴマークの共通化に加え、「360°business innovation.」というスローガンを打ち出しました。このスローガンには、あらゆる地域や産業分野で、深い信頼関係を有するパートナーを軸にして、情報や知見、技術や発想をつなぎ、事業と事業を連携させて、イノベーションを実現させていくという意味を込めています。2015年はいよいよ具体的な情報発信戦略を構築するフェーズに入りますが、それは、資本としての「信頼」を積み上げる重要な取り組みになるものと考えています。

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