大きな世界のうねりを多様性で超える

一般社団法人日本貿易会 副会長 豊田通商株式会社 社長
加留部 淳

昨年の本稿で、2014年は、グローバル経済・政治を総括して予測することが難しいという意味で「予測不能の年」になると申し上げました。

いま振り返りますと、2014年はロシアによるクリミア共和国の編入、南シナ海における中国とベトナム、フィリピンの対立、タイでのクーデターと政情不安の長期化、西アフリカ地域におけるエボラ出血熱の感染拡大、「イスラム国」の台頭による中東情勢の混乱、原油安など、まさに先の読めない複雑な国際情勢・経営環境の年であったかと思います。

この間、日本経済についても、消費税増税後の景気回復の遅れや、年後半の金融緩和による円安基調の中、「V字回復」の実現には届きませんでした。また、年の瀬も押し迫った12月24日、第3次安倍内閣が発足しました。アベノミクスによる日本経済の真の復活に向けたリーダーシップに期待すると共に、外交面での安倍首相の行動力にも注目したいと思います。

世界の研究機関等の見方によると、2015年は、エネルギー価格の下落などを背景に、地政学的な「うねり」がより一層大きくなることが予測されます。ロシアと西欧の溝はさらに深まりつつありますし、中東情勢の混乱は、「アラブの春」とは全く異なる様相を呈し、その影響は西欧先進国に及びつつあります。また南シナ海では中国がさらに実効支配を進めつつあり、アジアでさらに緊張が高まる可能性も指摘されています。一方で、インドではモディ首相が積極的な国内改革政策を打ち出し、米国がキューバとの国交を再開する協議を開始するなど、幾つかの光明も見え始めています。

このように世界の政治・経済が大きな「うねり」を見せる中、私たち商社が世界に貢献し、その活力を日本経済に取り込んでいくためには、さらにアンテナを高くし、自身の「グローバル化」と「多様性(ダイバーシティ)」を一層進めていくことが肝要だと考えます。

昨年、スポーツ界では錦織圭選手がアジア人として初めて、テニスの四大大会の一つ全米オープンで準優勝しました。コートで生き生きと躍動する勇姿を見て本当に感動しましたが、その躍進を支えたのは、元全仏オープン覇者のマイケル・チャン氏の存在です。錦織選手は国籍や文化の異なるコーチを迎え入れ、地道でハードなトレーニングをこなしたそうです。また史上最年少の16歳でノーベル平和賞を受賞したパキスタンのマララ・ユスフザイさんは、自らの生命の危険と隣り合わせの中でも世界の子供たちが教育を受ける権利を訴え、海外のニュースサイトなどへ自らの意見を発信する強い信念を持っていました。

彼らの活躍・受賞を目にし、私は人材のグローバル化を進めるにあたって、個としての「強い信念」と、グローバルな視点で国や文化、年齢や性別、考え方などさまざまな「違い」を受け入れ、積極的に活かす「ダイバーシティ&インクルージョン」が大変重要であるとの思いをさらに強くしました。

先を見通すことが難しい大きな「うねり」の今こそ、「ダイバーシティ&インクルージョン」をしっかりと経営に組み込んで、世界に通用する人材の育成に取り組んでいく。これが私の2015年の抱負になります。

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