外部環境変化を先取りして成長に貢献する商社の役割

一般社団法人日本貿易会 副会長 三菱商事株式会社 社長
小林 健

今、世界経済は踊り場にあるとみています。世界金融危機前は、世界経済の実質成長率は5%台後半と歴史的にみても高水準にありました。危機後6年以上が経過しましたが、世界経済の回復は依然緩やかにとどまっています。特徴的なこととしては、新興国経済の成長鈍化、地政学リスクの増大、国際金融市場の不安定性、資源価格の下落などが挙げられます。

日本企業は、世界金融危機で負った痛手からの回復、東日本大震災の復興に向け懸命に努力し、国際競争力を立て直しつつあると確信しています。日本企業は、世界トップクラスの技術を有しており、グローバル化の中で急速に変化する各国の需要に適切に応えていけば、必ず国際競争を勝ち抜くことができます。しかし、足元では、2014年4月の消費増税後の個人消費の伸び悩み、円安による原材料価格の上昇リスク、国内における人手不足など、さまざまな課題があります。2014年末に発足した政権は、TPP、エネルギー政策、少子化対策などの成長戦略の実行を加速していくことと思いますが、企業には、直面する課題を自ら解決しつつ、民間主導の成長を実現するという使命があります。

世界経済の回復が緩やかにとどまるという外部環境の中、こうした日本企業の取り組みをサポートしつつ、日本と世界の成長に貢献する商社の役割がますます重要になっています。これまで築き上げた、多様なサービス、ビジネスモデルを進化させていくことにより、国内外で商社が活躍する場はさらに広がっていくと考えます。ここで重要となるのは、金融危機前の歴史上まれな高成長には戻らないという前提で、経済、産業、社会の環境変化を見据えて、長期的な視野に立ち事業を展開していくことです。

これらの役割を果たすためには、人材が重要です。近年、商社は、グローバルな需要見通しを踏まえて、最適な調達、生産、販売体制の再構築に取り組んでいます。さまざまな商流の中で、自らリスクを取って事業を創造することが、グローバルに通用する人材を育成し、得られる情報の質と知見を高め、外部環境の変化を予測する能力を鍛え上げることにつながると考えています。事業を創造するのも人、投資を実行するのも人であり、人材は何にも替え難い最大の資産です。新年を迎えた今、商社は多少の山谷に動じずに大局に立ち、さまざまな課題に真正面から立ち向かっていくことにより、企業や経済の成長を支えるという役割を十分果たし、大きく飛躍することを祈念します。

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