年頭所感

一般社団法人日本貿易会 会長 伊藤忠商事株式会社 会長
小林 栄三

2014年の政治経済情勢を振り返る

新年あけましておめでとうございます。

2014年5月に貿易会の会長に就任してから半年余りが経過しましたが、その間も、内外の政治経済情勢は想定を上回るスピードで目まぐるしく変化してきました。

まず国内経済では、6月に「日本再興戦略(改訂版)」が公表されました。これは、アベノミクスの「3本目の矢」に当たるものであり、「岩盤規制」の改革に果敢に取り組むのみならず、法人税引き下げ、女性の活躍推進、働き方改革など、日本が新たな一歩を踏み出すために必要となる項目が広範に取り上げられました。私たち日本貿易会としても、この日本再興戦略が進展することを大いに期待しています。

その一方で、日本にとっては財政再建も喫緊の課題です。政府は4月に消費税の3%引き上げを実施しましたが、その影響は想定以上に大きく、実質GDP成長率は4-6月期、7-9月期と2四半期連続して前期比減となりました。そのため、次回の消費税引き上げは2017年4月まで1年半先送りされることになり、12月には解散総選挙が実施されました。

次に、海外に視線を移しますと、EPA交渉では、日豪EPA締結などの成果に加えて、TPPや日EU EPAといった広域EPAについても着実な交渉の進展がありました。また、外交面でも、日米関係は引き続き良好に推移しましたし、インフラ輸出に向けても、新興諸国を中心にして、安倍首相にはトップ外交を積極的に展開していただきました。さらには、懸案となっていた日中、日韓関係についても、11月のAPEC首脳会合の場において、短時間ながらも日中首脳会談が実現するなど進展が見られました。

2015年を新たな日本へと向かう転換点に

このように、わが国は激しい変化の中で新年を迎えることになりました。しかし、私は、2015年という年が、二つの点において大きな転換点になることを期待しております。

まず第一点目は、50年後、100年後の姿を見据えた上で、2015年こそ日本が真剣に動き出す年になってほしいということです。このまま少子高齢化が進行していけば先々大変なことになることは誰もが予想しているのですが、残念ながら、そうした事態に対して効果的な対応ができていません。しかし2014年、「選択する未来」委員会と「まち・ひと・しごと創生会議」が開催されるなど、この問題についても本格的に議論が行われるようになりました。両会議では今後日本が進むべき方向性が示されていますので、これを精査した上で、具体的な政策を一刻も早く実施していただきたいと思います。

また、こうした長期課題への対応策については、その多くがダイバーシティ社会の実現や地域活性化など、「日本再興戦略」において掲げた課題とも重なっています。2015年は、そうした「日本再興戦略」実現に向けての正念場の年になります。官民が協力して、ぜひとも、この改革を成功させていきたいと思います。

第二点目は、グローバル化についての期待です。EPA交渉では、2015年から2016年にかけて、TPP、RCEP、日EU、日中韓など、日本にとって極めて重要なメガFTAが妥結する可能性があります。もちろん交渉事ですから予断は許しませんが、譲るべきところは譲り、守るべきところは断固として守るという精神の下、ぜひとも、速やかにまとめていただきたいと思います。

また、日本の立ち遅れが目立つ、いわゆる「内なるグローバル化」についても、2014年には訪日外国人数が2年連続で過去最高を更新しました。多少とはいえ、最近、日中・日韓関係に改善の兆しが出ていることは、2015年も3年連続で訪日外国人数が記録更新する大きな力になるでしょう。こうした訪日外国人の増加というチャンスを活かし、日本産品の良さをうまくアピールしていけば、輸出増加にもつながっていくのではないでしょうか。急速な円安によって輸出競争力も大いに上がっていることから、こうした内なるグローバル化と外へのグローバル化の好循環が同時に実現する可能性もこれまでになく高まっているといえるでしょう。

ただその一方で、訪日外国人数ほど実績が出ていないこととして、対内直接投資や外国人材の活用が依然として不十分だという課題があります。これらは、50年後の日本を考える上で極めて重要な課題でもありますので、ぜひ、政府には大胆な促進策を打ち出していただくことを期待しています。

つなぐ・むすぶ商社の役割

このようにグローバル化が急速に進む時代においては、商社の果たすべき役割はますます複雑かつ大きくなっています。それは、貿易会のキャッチフレーズにもあるように、「つなぐ世界、むすぶ心」、つまり、商社がグローバル・バリューチェーンの上流から下流までの流れをつくり、世界各地の供給者と需要者をつないでいくという重要な役割です。そして、そうした役割を果たすことによって、単にモノのやりとりだけではなく、バリューチェーン全体に関与して、世界の全ての人々の心を結んでいきたいと願っています。

しかしその一方で、近年の商社活動は極めて多様化しており、そのために商社活動の内実が分かりにくくなっている面もあるように思います。そこで、商社が具体的にどのような活動を行っているのかを理解していただくために、貿易会では、商社シンポジウムなどの開催を通じて広報活動を積極的に進めてきました。2015年も、こうした活動をこれまで以上に積極的かつ効果的に展開していき、世界を「つなぎ、むすぶ」商社の役割についての理解をさらに広めていきたいと思っています。

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