寄稿 50周年を迎える新たな日ASEANの経済関係について

経済産業省 通商政策局 アジア大洋州課
馬場 由之

1.はじめに

2023年は日本とASEANの友好協力50周年という節目の年です。

ASEANの人口は6億人を超える巨大経済圏として成長しており、世界の「開かれた成長センター」となる潜在力が世界各国から注目されている他、2030年ごろには日本のGDPを超えるとの試算もあります。今後、国際社会に対してさらに大きな影響力を持つASEANとの強固な連携関係の構築は日本にとっても極めて重要な意味を持つと考えています。

そして、日ASEAN友好協力50周年を記念し、2023年末には特別首脳会議とそれに合わせて関連イベントの開催を行っていきます。

2.日・ASEANの経済協力

ASEANは1967年の「バンコク宣言」によって設立された東南アジア10ヵ国による地域共同体です。原加盟国はインドネシア、マレーシア、タイ、フィリピン、シンガポールの5ヵ国で、1984年のブルネイの加盟後は加盟国が順次増加し、現在は原加盟国に加え、ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの合計10ヵ国で構成されています。ASEAN加盟国全てを合計すると人口は約6億7,000万人で世界の約8.6%、GDPは約3.3兆ドルで同35%に上ります。また、各国でばらつきはあるものの、平均して5−7%前後の高いGDP成長率を記録し、平均人口年齢も30歳強と若く、2030年ごろにはGDP規模が日本に迫るとの試算もあるなど、近年、高い経済成長を見せています。

ASEANは一つの共同体であるものの、加盟国間では人種、宗教、一人当たりGDPなど、各国の置かれた状況は異なります。例えば工業化が比較的進んでいるタイやマレーシアではイノベーションを通じた労働生産性の向上を目指している一方、産業化が遅れているカンボジア、ラオス、ミャンマーでは引き続き人材育成やインフラ支援への期待が高いのが特徴です。

日本とASEANとの関係は、1973年に日本とASEANが合成ゴム交渉を行って以来、50年間にわたって続いています。現在では、ASEANの対日貿易総額は中国、米国、EUに次ぐ第4位、逆に日本の対ASEAN貿易総額は中国に次ぐ2位と、重要な経済関係を構築しています。

ASEANとの関係の重要性としては、大きく3点あります。①生産拠点としてのASEAN、②世界の成長センターとしてのASEAN、③国際競争の主戦場となるASEANです。

1点目の生産拠点としては、海外進出する日本企業の約3割はASEANへ進出しており、2012年から2021年までの間の製造業への累積投資額は日本が首位になっています。

2点目の世界の成長センターとしてのASEANについては、各国のGDP成長率が5−7%前後と高いことに加え、人口も6億人を超えるとともに平均人口年齢が若く、巨大経済圏として成長しており、世界の「開かれた成長センター」となる潜在力が世界各国から注目されており、例えば2030年ごろにGDP規模が日本に迫るとの試算もあります。さらに、日本企業にとって、海外で得る利益の25%がASEAN起源でもあります。

3点目は、国際競争の主戦場となっている点です。例えばGAFA(Google、Apple、Facebook(Meta)、Amazon)がデータセンター整備、電子部品工場整備など積極的な投資を行っていることに加えて、BATH(Baidu、Alibaba、Tencent、HUAWEI)や現代自動車、サムスン、LG等、中韓勢も進出している状況であり、ASEANを巻き込む地域戦略の動きがあります。

3.日・ASEANの経済共創に向けて

日・ASEAN友好協力50周年を機に、これからの日ASEANの50年を見据えた新たなビジョンとして「日ASEAN経済共創ビジョン」を、また、そのビジョンの実現に必要な取り組みを示した「未来デザイン&アクションプラン」を2023年8月に開催された日・ASEAN経済大臣会合において公表しました。

日ASEAN経済共創ビジョンのキーステートメントは、「50年間の友好協力で培った“信頼”を原動力として、“安全”で“豊か”で“自由”な経済社会を、公正で互恵的な経済“共創”で実現すること」です。そうした社会の実現に向けて、「多様性・包摂性を両立するサステナブルな経済社会の実現」「国境を越えたオープンイノベーションの推進」「サイバー・フィジカルコネクティビティの強化」「活力ある人的資源を共創するためのエコシステムの構築」の経済共創の四つの柱を実現していくことが必要と考えています。そして、「ASEAN諸国の多様性を最大限活かし、それぞれの国の強みを反映した成長・イノベーションモデルが双方向につながる、そうした日ASEANの共創関係をグローバルで目指すべきモデルの一つとして示すとともに、自由で公正で開かれた地域経済秩序の構築に貢献することを目指す」ことを目標としています。

また、ASEANと日本を合わせた約8億人の巨大市場のポテンシャルを最大限に活かすために、具体的な「共創」プロジェクトの促進と、ビジネス環境の整備を両輪で進めていくことが重要であり、未来デザイン&アクションプランに示しています。

未来デザイン&アクションプランは、日ASEAN経済共創ビジョンの四つの柱である、「サステナブルな経済社会の実現」「オープンイノベーション」「コネクティビティ強化」「人的資本の最大化」といった観点から取り組んでいく施策を示しています。

さらに、具体的なプロジェクトのイメージとして、「三つの100」として、「サプライチェーンデータ利活用ユースケースを100件創出」「日ASEANの若手起業家100人ネットワーク」「日ASEAN共創型の社会課題解決ビジネスを毎年100件創出」を掲げています。

1点目は、サプライチェーンの強靱化(きょうじんか)を向上させるためには、デジタル技術を活用してサプライチェーンのデータ共有を進めるとともに全体の見える化や製造工程の自動化を進めることが重要であり、サプライチェーンにおけるデータ利活用ユースケースを100件創出することを目指しています。

2点目は、日ASEANで活躍する起業家育成・ネットワークの構築を実現するべく、将来ある起業家を集めて議論やネットワーキングを行うことを通じて、日ASEAN若手起業家100人のネットワークを構築することです。これにより、日ASEAN各国の次世代リーダーのつながりがより強固なものとなり、将来にわたって人的にも連携が深まることを期待しています。

3点目は、日ASEANの社会課題解決やビジネスの共創のため、日本企業が有する技術・ノウハウ等の強みを活かし、ASEAN各国の社会課題の解決に貢献するASEAN企業等との協業プロジェクトを進めるべく取り組みを進めています。実証事業に加えて、参加企業が提示した「テーマ」に対してスタートアップ企業が提案をしていき、マッチングを行うことで共創ビジネスの発掘も進めております。それらの取り組みを通じて、日ASEAN共創型の社会課題解決ビジネスを毎年100件創出していきます。

加えて、東アジア・アセアン経済研究センター(以下、ERIA)では、これまで調査・研究を行い、ASEAN各国等に対してルールやビジネス環境等の事業基盤の整備を支援してきました。2023年は、デジタルイノベーション・サステナブルセンター(以下、E-DISC)を立ち上げて、デジタル主導の持続可能な成長経済に変えるため、産学官連携の中心地として活動していきます。具体的には、官民対話プラットフォームとしてデジタル・グリーン等に関するルール作りを行う他、スタートアップや社会起業家等の情報交換ハブとしてのプラットフォームの役割等を果たしていきます。

4.日ASEAN友好協力50周年特別首脳会議関連イベントの開催

2023年12月には日ASEAN友好協力50周年を記念した日ASEAN特別首脳会議が東京で開催されます。各国の首脳が一堂に会する機会に合わせて、経済産業省では同会議のサイドイベントとして、日本で「日ASEAN経済共創フォーラム」「ヤングビジネスリーダーズサミット」および「Z世代ビジネスリーダーズサミット」を開催する予定です。

日ASEAN経済共創フォーラムは、12月16日に都内にて開催します。日ASEAN経済共創ビジョンの四つの柱も踏まえながら、人材・経済共創・エネルギー等について議論を行うとともに、具体的な経済共創のプロジェクトを発表していきます。ぜひ、日ASEANの経済界の方々にお集まりいただき、実りのある議論ができるようにしたいと考えております。

またヤングビジネスリーダーズサミットとZ世代ビジネスリーダーズサミットは12月13−15日に軽井沢で開催します。日ASEANの次世代のリーダーが一堂に集まり、政策立案に向けた議論やネットワーキングを図り、今後の日ASEANの経済協力にとって重要な人的ネットワークの構築に貢献していきます。

5.おわりに

これまで日本とASEANの間で50年間の友好協力で培った“信頼”を原動力として、2023年のさまざまなイベントを契機に、引き続き、日ASEANの協力関係を強化すべく、経済界の皆さまのお力添えもいただきながら、経済産業省としても共創に向けた取り組みを進めていきます。


参考:1 日ASEAN 経済共創ビジョン(概要)


参考:2 未来デザイン&アクションプラン(概要)

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