年頭所感

一般社団法人日本貿易会 会長
丸紅株式会社 会長
國分 文也

新年明けましておめでとうございます。よき新春をお迎えのこととお喜び申し上げます。

昨年を振り返りますと、やはり2月のロシアによるウクライナ侵攻が世界に最も強い衝撃を与えた事象だったと言えるでしょう。戦争は多大な犠牲を伴って現在もなお続き、たいへん心の痛む状況です。一刻も早い戦争終結とともにウクライナの人々に真の安寧が訪れることを心から祈っております。

ウクライナ危機は政治・経済の両面で大きなインパクトを世界に及ぼしました。世界的なエネルギー事情が様変わりし、新興国で食糧不足が深刻化するなど、生活を営む上で不可欠な多くの財が特定の地域に偏在していること、そしてその流通が滞れば影響は直ちに世界中に伝播することが再認識されました。ロシアに対する経済制裁や非難決議では、独立国への一方的侵略という国際法違反に対してさえ賛同しない国が少なからず出現し、国際社会の分断やパワーバランスの複雑さといった要素があらわになりました。

わが国を取り巻く貿易環境では、昨年5月に経済安全保障推進法が成立し、重要物資の安定的な供給確保などに政府主導で道が開かれました。これは従来の経済合理性を重視したサプライチェーンの考え方から、確実に必要な材を確保する方向へのシフトであり、より強靭なサプライチェーンの構築に向け踏み出したという意味で大いに評価されるべきと考えます。

WTOの機能低下が長らく改善しない状況下、経済連携協定では昨年1月にRCEPが発効、9月にはマレーシアがCPTPPを批准し9番目の締約国として確認されました。こうした経済連携協定は、自由な貿易・投資体制を守る観点から、WTOの補完的な機能として歓迎すべきものです。また、IPEFのような新たな多国間の協調体制が発足し、フレンド・ショアリングの考え方をベースとしたサプライチェーンの構築に道が開かれたことも特筆すべきことと思います。ただ、こうした枠組みが、「経済のブロック化」という形で固定化してしまうのは望ましくありません。あくまで参加国の多様性を相互に尊重した開かれた枠組みであるべきで、包摂的かつハイレベルなものであり続けることが求められます。

新型コロナの最初の確認からおよそ3年が経過しました。パンデミックの影響は徐々に薄らいでいますが、局地的に見ればいまだ感染拡大・縮小の波を繰り返しており、完全な収束には少なからず時間を要しそうです。ただ一方で、各国の規制がおおむね緩和方向にあることも事実であり、ウィズ・コロナの意識の浸透とともに経済活動への影響は徐々にマネージャブルになってきたのではないかと感じています。今後も国民の健康と経済活動の最大限の両立を追求していくことが肝要であり、政府や専門家の皆さまには科学的観点から最適点をしっかり検討していただき、可能な限り行動の自由や経済活動をコロナ前に戻す方向を選択していただきたいと考えます。

カーボンニュートラルに関しては、世界各国が具体的な取り組みを開始しており、わが国も国際的な約束を果たしていく必要があります。再エネ導入の拡大、エネルギー効率の引き上げを加速させなければならないのはもちろんですが、足もとではエネルギー価格の大幅上昇が家計・企業の負担を増大させており、こうした悪影響が逆に脱化石燃料を遅らせるという反作用をもたらすことは望ましくありません。国益を損なわず、社会経済活動の安定を図るため、政府には引き続き実現可能性の高いエネルギー・トランジションのロードマップと今後のエネルギー政策の提示を求めていきたいと考えます。

新年を迎えてもさまざまな課題、難題が目の前にある状況は変わらず、当面は不透明な経営環境が続くことが予想されます。まずは現在の難局を官民一体となり打開していくことが最優先事項ですが、その中でもより長期的視野からこれらの急激な変化をチャンスに転じていく柔軟さ、挑戦を絶やさない努力も必要になるのだろうと考えます。日本貿易会は「ともに築こう、サステナブルな世界を」を掲げており、それを目指した事業活動を展開してまいります。引き続き当会活動へのご理解とご協力を賜りますよう、お願い申し上げます。

末筆ながら、本年が皆さまにとりまして、一層充実した輝かしい年になりますことを祈念申し上げ、新春のご挨拶とさせていただきます。

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