「J−クレジット制度」について

経済産業省 産業技術環境局 環境経済室

1.J−クレジット制度

J−クレジット制度とは、省エネルギー・再生可能エネルギー設備の導入や森林管理等による温室効果ガスの排出削減・吸収量をクレジットとして認証する制度である。国内クレジット制度とJ−VER制度を一本化して2013年度にJ−クレジット制度とし、経済産業省・環境省・農林水産省が運営を行っている。削減・吸収活動はプロジェクト単位で制度に登録され、クレジット認証される。

本制度により、中小企業・自治体等の省エネルギー・低炭素投資等を促進し、クレジットを活用することで国内での資金循環を促し、経済と環境の両立を目指す(図1)。


図1 J−クレジット制度


出典:「Jークレジット制度について」より抜粋 https://japancredit.go.jp/data/pdf/credit_001.pdf

J−クレジット制度に参加するメリットは、プロジェクト実施者(クレジット創出者※)においては、
①省エネルギー対策の実施によるランニングコストの低減効果
②クレジット売却益
③地球温暖化対策への積極的な取組みに対するPR効果
④J−クレジット制度に関わる企業や自治体との関係強化
が挙げられる。
※クレジット創出者は、創出されたJ−クレジットを他者に売却・譲渡した場合、CO2削減価値を言及できなくなる(クレジット活用者とのCO2削減価値の二重主張を回避するため)。

クレジット活用者においては、
①地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)への調整後温室効果ガスの排出量報告
②省エネルギー法の共同省エネルギー事業の報告
③カーボン・オフセット、CSR活動(環境・地域貢献)等
④CDP質問書およびRE100達成のための報告(再生可能エネルギー電力由来のJ−クレジットに限る)
⑤SHIFT・ASSET事業の削減目標達成への利用
⑥経団連カーボンニュートラル行動計画の目標達成
が挙げられる。

J−クレジットの考え方としては、「プロジェクト実施後排出量」と「ベースライン排出量」の差分である排出削減量を、国が「J−クレジット」として認証するものとなる(図2)。

地球温暖化対策計画(日本の約束草案実現に向けた削減計画、令和3年10月22日閣議決定)において、J−クレジット制度を「分野横断的な施策」と位置付けており、併せて、カーボン・オフセットの推進を「脱炭素型ライフスタイルへの転換」として位置付けている。また、J−クレジット制度では認証量に関する目標を設定しており、同計画フォローアップ(2018年3月)において、2030年度までの目標を引き上げたが、2020年度には認証量の実績が目標を上回った。そのため、2030年度の目標についてはさらなる引き上げの検討を行い、1,500万t-CO2とした。政府としても、J−クレジット制度の活性化に向け、取り組んでいくところである。


図2 J−クレジットの考え方


出典:「Jークレジット制度について」より抜粋 https://japancredit.go.jp/data/pdf/credit_001.pdf


2.J−クレジット制度への登録・認証

J−クレジット制度では、温室効果ガスを削減する技術や方法ごとに排出削減算定方法やモニタリング方法等を規定した方法論がある。現在、61の方法論が承認されており、さまざまな排出削減・吸収事業が対象となっている。また、参加事業者の制限はない。

J−クレジットの創出に当たっては、排出削減・吸収事業をプロジェクトとして登録する必要があり、
・一つの工場・事業所等における削減活動を一つのプロジェクトとして登録する形態(通常型)
・複数の削減活動をとりまとめ一つのプロジェクトとして登録する形態(プログラム型)
がある。

プロジェクト登録のおおまかな工程は以下の通りで、3-6ヵ月程度かかる。
①J−クレジット制度への参加検討
②プロジェクト計画書の作成
③プロジェクト計画書の妥当性確認
④プロジェクト登録の申請
⑤プロジェクトの登録

その後、クレジット認証に向けて、データのモニタリング、収集を行う。クレジット認証のおおまかな工程は以下の通りで、1−2年程度でサイクルしていくことになる。
①モニタリング報告書の作成
②モニタリング報告書の検証
③クレジットの認証申請
④クレジットの認証

なお、中小企業等においては、プロジェクトの登録・認証に当たり、プロジェクト計画書作成に関する支援や審査費用に関する支援といった手続き支援がある。

また、J−クレジット制度への参加に当たっては、下記のポイントにご留意いただきたい。
・日本国内で実施されること
・プロジェクト登録を申請する日の2年前以降に稼働した設備が対象であること
・クレジットの認証対象期間は、プロジェクト登録申請日、またはモニタリングが可能になった日のいずれか遅い日から8年間。ベースラインを再設定しても削減が見込まれる場合最大16年まで延長が可能
・類似制度(例:グリーン電力証書)や本制度において、同一内容の排出削減活動がプロジェクト登録されていないこと
・追加性を有すること
・本制度で定められた方法論が適用できること
・審査機関による第三者認証を受けていること
・森林プロジェクトの場合のみ、プロジェクト終了後も継続的(10年間)に適切な森林管理を実施、報告すること(永続性担保措置)
・クレジットを他者に移転・発行した場合、その削減価値は主張できなくなること

J−クレジット制度では、J−クレジット制度がない場合に、経済的障壁等により排出削減活動が実施されない事業を対象としており、原則として、投資回収年数が3年以上、またはランニングコストが上昇する事業が対象である。

J−クレジットのプロジェクト登録件数、認証回数、認証量については、2022年2月末時点で、国内クレジット制度とJ−VER制度から移行したプロジェクトも含めた累計は、プロジェクト件数は885件、認証回数は922回、認証量は717万t-CO2と着実に増えている。また、方法論別では、太陽光発電、木質バイオマス、ボイラーの方法論によるクレジットの認証量が多い。

3.J−クレジットの活用方法

J−クレジットは国内の法制度への報告、海外イニシアチブ(RE100、CDP等)への報告、企業の自主的な取り組み等、さまざまな用途への活用が可能である。

温対法第21条の2に基づく温室効果ガス算定排出量の報告においては、特定事業者が「調整前温室効果ガス排出量(実排出量)」に加え、「国内認証排出削減量(国内での排出削減・吸収に係るクレジット)」や「海外認証排出削減量」を控除等した「調整後温室効果ガス排出量」も報告することとなっている。ここで、「国内認証排出削減量」として、J−クレジットが活用可能である。ただし、クレジットを発行する事業者が温対法の対象者である場合、事業者自身の排出削減活動によって発行されたクレジットを移転する際には、その移転分を事業者自身の調整後温室効果ガス排出量として、クレジットの移転が行われた年度に加算して報告する必要がある。

CDPへの報告やRE100への対応においては、2017年4月より再生可能エネルギー(電力)由来のJ−クレジットに「MWh表示」を追加し、これにより、「MWh表示値」を再生可能エネルギー(電力)量として、J−クレジットが利用可能である。なお、CDP報告と同様の算定ルールに準拠するSBT(Science Based Target)への活用も可能である。

J−クレジットの活用(無効化・償却量)状況は、2016年以降は温対法における排出係数を調整することが最多であるが、近年はオフセット等での活用も増加している(図3)。

図3  J−クレジットの種別・目的別 無効化・償却量の推移


※2013年度以前の無効化・償却量の内訳は削減系と呼吸系のみで区分されている。


2022年1月5日時点の実績


出典:「Jークレジット制度について(データ集)」より抜粋 https://japancredit.go.jp/data/pdf/credit_002.pdf


4.J−クレジットの活性化に向けて

2021年度は、J−クレジット活性化に当たり、制度文書・方法論等の改訂を行う運営委員会を2回行っている。

制度文書でJ−クレジットの活用を2030年度までとしていたところ、カーボンニュートラルを目指す上でクレジットは重要なものであることから、2030年以降もJ−クレジットを活用できるように制度文書の改訂を行った。また、プログラム型プロジェクトの活用を促進するために、制度文書の改善を行った。方法論は、よりクレジットの創出につながるように、事業者の実態に合わせて都度改訂を進めている。森林吸収系クレジットは、カーボンニュートラル達成時に重要であることもあり、リモートセンシングでのモニタリングを可能にし、また、認証に必要な写真撮影の規定の緩和を行った(図4、5)。

J−クレジット制度を含め、カーボン・クレジットのニーズは高まりつつある。2050年カーボンニュートラルに向けては、移行期(トランジション)を含めて、クレジットの活用が重要であると考えられており、カーボンプライシングの一つでもある。今後も引き続き、J−クレジットの活性化に向けて、需要、供給、流通の面からそれぞれ議論を進めていく。


図4 第23回J−クレジット制度運営員会の概要(2021年8月3日開催)


出典:https://www.meti.go.jp/press/2021/08/20210804003/20210804003-1.pdf


図5 第24回J−クレジット制度運営委員会の概要(2021年12月2日開催)


出典:https://www.meti.go.jp/press/2021/12/20211203005/20211203005-1.pdf


5.J−クレジット制度への参加に向けて

今回、日本貿易会においては、会員企業の皆さまと環境価値の活用をご検討いただき、J−クレジットを活用してオフセットを行うことで、使用電力のCO2フリー化に取り組んでいただいた。今後も、2050年カーボンニュートラルに向けては、移行期である現在においてもオフセットは重要であると考えており、引き続きクレジットを活用した「経済と環境の好循環」へ取り組んでいただきたい。また、J−クレジット制度へは、クレジットの活用側としての参加だけでなく、創出側としての参加も可能である。自社に限らず、複数の削減活動をとりまとめ一つのプロジェクトとして登録する(プログラム型プロジェクト)ことができるため、会員企業の皆さまには、関係企業を巻き込み、主体となってJ−クレジットの創出に取り組んでいただきたい。

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