年頭所感

一般社団法人日本貿易会
三菱商事株式会社 会長
小林 健

明けましておめでとうございます。令和4年の新春を迎え、謹んでお慶び申し上げます。

昨年の世界情勢を振り返ると、1月の米国バイデン政権発足後も継続する米中の覇権争いや、ミャンマーのクーデター、タリバンによるアフガニスタン制圧など、総じて、混乱が続く状態にあったといえます。特に、米中の覇権争いは先鋭化しており、経済安全保障の観点から重要物資のサプライチェーン見直しや、人権問題への対応など、米国は幅広い分野において、価値観を共有する同盟国と連携し、中国に対峙(たいじ)する姿勢を鮮明に打ち出しています。本年は、韓国・フランス大統領選挙、中国共産党全国代表大会(党大会)、米国中間選挙など、米中両国や同盟国における主要イベントが控えており、米中関係や世界情勢に与える影響を注視する必要があります。

世界的なワクチン接種の進展による重症化の抑制や、貿易・移動制限措置の緩和などにより回復途上にある世界経済ですが、足元では新変異株「オミクロン株」の感染拡大、各種資源・原材料の供給懸念による価格高騰、世界的なインフレなどによって、景気回復ペースが鈍化しています。本年は、コロナの感染再拡大に加え、世界的な半導体不足、中国経済の失速、各国の金融政策が正常化に向かう過程での市場混乱などの懸念材料はありますが、世界経済を回復・成長軌道に乗せるため、国や企業がデジタルトランスフォーメーションや、カーボンニュートラル実現に向けた取り組みをさらに推し進め、前向きな事業・構造転換を実現できるかが問われる一年になると思います。

近年、世界各国で見られた自国第一主義の姿勢は、コロナへの初期対応を巡り一層顕著になりましたが、地球規模で解決・対応すべき共通課題では、昨年来、協働の姿勢が見られます。例えば気候変動関連では、昨年11月のCOP26において、立場や事情の異なる国々が歩み寄り「1.5度目標」に関する合意が得られ、通商面では本年1月1日のRCEP協定発効、英国・中国・台湾のCPTPP加盟申請など、多国間貿易システムへの回帰・強化の動きもありました。また、全世界ベースでのワクチン接種率向上に向けた、ワクチン・医療製品などの供給体制の構築や関連する資金調達の制約を取り除く措置、約100年ぶりの国際課税ルール見直しなどもあり、国際連携・協調の機運は、着実に高まっているものと認識しています。

わが国は、岸田政権の下、カーボンニュートラルに向けた取り組みや、社会全体のデジタル化、経済・安全保障など、中長期を見据えた諸政策を迅速かつ着実に推進していく必要があります。商社業界としては、産業競争力の維持やエネルギー安全保障などの国益を踏まえた上で、事業活動を通じた諸課題の解決に向け、取り組む所存です。

日本貿易会は、ウィズコロナの時代の中で、当会のキャッチフレーズの通り、「未知の時代を切り拓く」べく、各種戦略を官民連携で推進していく他、今後も引き続き、政策提言や会員サービスの向上を通じて、社会・経済の活性化に貢献してまいります。具体的には、近く、SDGsをテーマに「商社シンポジウム」を開催予定であり、また、「デジタル新時代と商社」と銘打った特別研究の結果を発表する予定です。

引き続き、日本貿易会の活動への格段のご理解・ご協力をいただきますよう、お願い申し上げるとともに、本年が皆さまにとりまして、実り多き年になりますようお祈り申し上げ、新年のご挨拶とさせていただきます。

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