第3回 オフィス紹介 三井物産「知的化学反応を起こすオフィス」

移転の経緯


三井物産株式会社本店の建て替え計画は、2011年、同社と三井不動産株式会社による土地建物の共同購入を契機とした大手町一丁目2番地区の一体開発事業「OH-1プロジェクト」の一つとして始まった。同社は、2014年11月に日本生命丸の内ガーデンタワーおよびJAビルの仮社屋へ移転し、2020年5月に大手町の大規模複合開発街区「Otemachi One」内の「三井物産ビル」にある新社屋に戻った。


成長加速に向けた2大テーマ


人の持つ信頼できる「リアル」な情報・経験・人脈をもとにコラボレーションを促し価値を生み出すため、以下の2大テーマを掲げ、七つの施策を打ち出し、成長加速に向けた取り組みを続けている。



七つの施策


①グループアドレス

全社単位(約4,500人)で本部ごとの本拠地を設けたフリーアドレス(グループアドレス)を導入し、業務・プロジェクトニーズに応じた機動的なチーミングを実現している。移転前からグループアドレス・トライアルを実施し、これによりペーパーレス化やモバイル活用も加速したため、コロナ禍で在宅ワーク中心の働き方にもスムーズに移行できた。

②スタッキング

経営戦略に合わせて事業シナジーが期待される事業本部同士を隣接させることで、組織の枠を超えたコラボレーションを促している。また、グループアドレスにより柔軟かつ機動的な配置換えを実現することが可能に。

③CAMP

全フロアに設けたコミュニケーションスペース(CAMP)は内階段でつながっており、上下の往来・交流を促進している。ゲストを招き入れることも可能。カジュアルな雰囲気の中でアイデアやコラボレーションを生む、知的化学反応の中心地。

④戦略的アクセスコントロール

戦略的に社外パートナーを内部に招くことにより、多様な人材とのより多くのコラボレーション機会を促進している。壁をつくるのではなく、各人のストラップの色で使用可能なエリアをゾーニング。

⑤複合的ホスピタリティ

ホスピタリティの諸施策により、「おもてなし」を充実させ、ゲストとの深いコミュニケーションにより信頼関係を構築している。CAMPに設けられたカフェスペースはゲストも利用でき、来客食堂「四季咲」などの施設も充実している。

⑥IT基盤の充実

場所や時間にとらわれない次世代のワークスタイルを実現するデジタルサービスを充実させ、生産性を高めている。

⑦新たな専門組織

タスクフォースから新たに人事総務部に組成されたWork-X室が専門組織として知的化学反応の促進や、データ測定と効果検証を通じたオフィス環境の改善、ならびに働き方に関する社員の意識改革を推進している。

成長加速に向けた、三位一体の取り組み


新本社の執務フロアでは、七つの施策のうち、「組織ごとのフリーアドレスの導入(グループアドレス)」「事業シナジーを生み出す部署配置(スタッキング)」「コミュニケーションエリアの設置・活用(CAMP)」を三位一体で展開している。タテ組織の高い生産性を維持しながら、部門を超えた機動的なチーム編成、情報・アイデアの共有、新たなアイデアを生むコミュニケーションなど、ヨコ・ナナメとの連携を強化し、さらなる成長加速を目指す。


内装設計の基本コンセプト


「人を招き入れる新本社」。社内の人材同士が交わる仕組み、社外からの多様な能力・知見・専門性を持った人材が交わり、知的化学反応を促進。

Point1 活きた情報から価値をつくる、「社員のコミュニケーションを促進」する設計
Point2 人とのつながりを強める、「人を招き入れる新本社」
Point3  社員個人が最高のパフォーマンスを発揮する「ホーム感の醸成、挑戦に向けた準備の空間」



執務フロアの中央付近の3分の1がCAMPとなっており、オープンスペースとは区切られた会議室も併設。13フロア全てのCAMPを内階段でつなげ、各フロア間を移動しやすい設計とした。執務フロアの中央に階段をつくることは、そのスペースの分だけ座席数を減らすこととなるが知的化学反応という価値の創出に大きく寄与している。

業務アクティビティに応じて内階段を使って人が動き回り、偶発的な出会いや、人と人の交流を促している。新オフィスは2021年度第34回日経ニューオフィス賞、ニューオフィス推進賞<クリエイティブ・オフィス賞>を受賞した。


オフィスの階層


16−28階が執務フロアとなっており、3種類のCAMP「CO-WORK」「SOCIAL」「FOCUS」)(後述)が1フロアごと繰り返して縦に並ぶ構成(25階のみデジタルの専門人材が集まる「d.space」)となっており、業務アクティビティに応じて主体的に場所を選ぶ働き方(ABW= ActivityBased Working)を実践できる環境となっている。


執務エリア


STUDIO


従来の執務エリアを進化させた、本部の「本拠地」であり、社内の仲間と働く場。各本部にフリーアドレスのエリアが割り当てられ、エリア内では自由に席を選ぶことが可能(グループアドレス)。帰属組織の仲間がいるというホーム感や従来からの高い生産性を維持しつつ、組織の枠を超えた機動的なチーム編成やコラボレーションを実現する。


CAMP


ビジネスの種を見つけ、ビジネスモデルを練り上げる、新たな価値創造の場。社外の人も招き入れることができ、社内の誰もが利用できるスペース。会社や組織の枠を超えてコラボレーションしやすい開放的な雰囲気の中で、カジュアルな会話を通じてより多くの人と知的化学反応を呼び起こすことが狙い。CAMPはフロアごとに種類が異なり、またカフェスペースにはドリンクやスナックが用意されているなど、自然に人が集まる仕掛けになっている。3種類のCAMP「CO-WORK」「SOCIAL」「FOCUS」を以下にご紹介する。

CO-WORK


プロジェクトを加速させるための議論を行う場。お客さまやパートナーを含め、多様な「個」からなるチームが集い、自由に議論を行う。4−8人で一つのスクリーンを囲み、モニターで資料等を見ながら議論を進められる。あえて仕切りを設けず、周囲からミーティングの様子が見えたり、何げない会話が聞こえるようなしつらえにし、社員の偶発的な会話も促している。他部門の社員が飛び入りで議論に加わり、お客さまへのスピーディーな情報提供につながった好例も出てきた。秘匿性の高い議論についてはCO-WORKではなく会議室が利用されている。


SOCIAL


知見・アイデア・情報を共有し、新たなビジネスをつくる共創の場。オープン、カジュアルな空間で、組織の枠を超えて多様な「個」が自由闊達(かったつ)に意見交換できる。ちょっとした会話やオンライン会議もしやすいワークスペース。プロジェクターやスクリーンの設備も充実しており、シーンに応じて什器(じゅうき)を移動させてイベント会場として使用することもできる。社外有識者を招いての講演会や社内のタウンホールミーティングをオンライン併用で開催したり、内階段付近で自部署の紹介イベントをして通り掛かった社員との部署を超えた意見交換を行った事例も生まれた。社員が自発的に新しい使い方を実践し、知的化学反応を起こす好例であり、アフターコロナにおいてはSOCIALの一層の活用が期待される。


FOCUS


思索や集中のためにデザインされた空間。個人ブースもあり、一人一人が集中し、思考を深め、価値創造の着想を得る場、次の戦略を練る場となっており、社員のみが利用できる。集中することが目的のため、当初はオンライン会議利用はできないルールだったが、コロナ禍においてオンライン会議のニーズが著しく高まったことを踏まえ、一部ゾーンではオンライン会議の傍聴利用を許可する運用に変更するなど、社員のニーズに応じ利便性を高めた柔軟な運用が行われている。


d.space


デジタル・トランスフォーメーション(DX)に取り組み、新たなビジネスにつなげる場。25階にのみ設けられ、中央のオーバル型のテーブルにデジタル専門部署の社員が常時在席しているため、訪れた社員が相談しやすい環境となっている。最新のデジタル関連機器と共に、右脳を使って新たな発想につなげられるようデジタルアートなどを設置している。階段型のピッチスペースを使用して、社長がライブイベントに登壇しオンラインで配信するなど、場の熱量が伝わるような機会も多く生まれている。新規事業のディスカッションや、社外の有識者を招いたイベントなど多様に使用されており、人気の設備となっている。


食堂「MEETS/EATS」、Premium Dining「四季咲」


社員食堂と来客食堂の二つを完備。社員食堂の「MEETS/EATS」は多様な「個」が心を通わせることを目的とし、バラエティー豊かな食を提供している。7階に位置するため眺めも良く、食事を取りながらリフレッシュできる。コミュニケーションの施策として少人数での会食イベントをトライアル実施している他、ディスプレーを配置した席もあり、ABWの一つの選択肢として使用することもできる。

来客食堂のPremium Dining「四季咲」は一般の社員でも利用することができ、国内外のお客さまとの会食などを行えるよう、豊かな日本の四季や自然を感じられる、伝統的な素材や和のおもてなしを意識した空間となっている。


食堂「MEETS/EATS」


Premium Dining「四季咲」


オフィス向け複合型新サービス「Work-X+」



新本社における「働き方改革」の実践を通じて蓄積してきたオフィス運営に関する知見やノウハウと、三井物産グループが過去40年培ってきた企業向け飲料事業・オフィス運営事業などのオペレーション力を融合し、新常態での働き方・オフィス改革を検討している企業に提供していく複合型サービスとして2021年6月より「Work-X+」を開始した。コロナ禍において働き方の多様化やオフィス改革を模索する企業の需要は高く、受注実績を上げている。

複合型新サービス「Work-X+」ウェブサイト
http://mitsui-work-x.com/

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