寄稿 コロナ禍前後の職場づくりの真価が問われるとき

株式会社東レ経営研究所
ダイバーシティ&ワークライフバランス推進部
チーフコンサルタント
塚越 学

コロナ禍前後の意識の変化

内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査(令和2年6月)」では、回答者の50%が、感染拡大前と比べると、仕事より「生活を重視するように変化」したと回答した。20代では61%、30代では56%と過半数を大きく超えている世代もある。つまり、管理職は、職場メンバーの顔触れには変化がなかったとしても、このコロナ禍で半数のメンバーは生活を重視する意識に変化しているかもしれないと思って、職場を運営する必要性がある。

オンライン下の信頼とコミュニケーション

職場を円滑に運営するには、信頼とコミュニケーションが両輪だ。チームの信頼のレベルが高いほど、効果的なコミュニケーションやサポート、バックアップが起こり、対立も少なく、よりポジティブな雰囲気になることが、さまざまな先行研究により分かっている。

ここで信頼を認知的信頼と情緒的信頼の二つに分けてみる。認知的信頼は仕事の手際の良さや成果など能力にひも付くもの、情緒的信頼は愛着や友好など感情にひも付くものだ。情緒的信頼は、対面のチームで起こりやすく、対面するだけで親近感が湧き、無意識に高まる。そのため対面は情緒的信頼が過大になりやすく、認知的信頼がごまかされてしまうことがある。例えば、オフィスに長くいることで仕事をやっている感が出せて、上司や先輩もそうした部下や後輩に親しみを感じて評価してしまうような場合だ。そして、認知的信頼がそもそも曖昧な部下や後輩が在宅勤務になると「仕事をさぼっているのではないか」と疑心暗鬼になってしまうのは、その典型例といえる。

一方、認知的信頼はテレワークチームで比較的早く高まるといわれている。ただし、認知的信頼を高めるには相手によってアプローチの仕方を変える必要がある。例えば、まだ経験や能力不足の部下がいれば、対面以上に頻繁にフォローしなければならない。小さいステップを踏んで、電話やチャットなどで頻繁に声を掛け、小さな成果をその都度称賛する必要がある。例えば、まだ経験や能力不足の部下がいれば、対面以上に頻繁にフォローしなければならない。小さいステップを踏んで、電話やチャットなどで頻繁に声を掛け、小さな成果をその都度称賛する必要がある。

一方、自律的に仕事を進められる部下であれば、目標だけ合わせておけば、達成の報告が来るまで待つことができる。逆に、自律的に進められる部下であるにもかかわらず、テレワークだからといっていちいち進捗(しんちょく)報告を求めるのは過剰対応といえる。ただし、テレワークチームでは情緒的信頼を失っていくので、電話会議やWEB会議などでは、仕事に関係のない雑談を意識的に行う必要がある。友好的なおしゃべりは、テレワークのチームで成果を上げるときにはより必要であり、次の会議では雑談もするからビデオをオンにして顔が出せる準備をしておいてほしいと案内したり、定期的なオンライン会議でも最初や最後の10分に意識的に雑談を入れて、ローテーションで発表し合うなど、計画的に仕組んでいくことがコツだ。

法律改正で真価が問われる今後の職場

こうして仕事以外のことも話せ、信頼とコミュニケーションの両輪で職場を円滑に運営できているかが問われるときが直近に控えている。そのことを示すのが、2022年4月から段階的に施行となる改正育児・介護休業法(通称「男性育休促進法」)だ。

今回の改正のうち二つの要点をお伝えする。一つ目は、事業主による、社員らへの個別制度周知と育休の意向確認の措置義務化だ。子どもが生まれる男性社員が育休に関心があるかどうかを問わず、妊娠・出産を知った事業主側から「育休があるよ、取得したらどう?」などと聞き、意向を確認しなければならない。事業主には管理職も含まれることから、育休制度の知見不足の管理職がいれば、それだけでコンプライアンス違反やパタニティハラスメント(父性への嫌がらせ)の火種が増えることになる。二つ目は、既存の育休に加えて、産後8週間内に出生時育休(いわゆる「男性版産休」)が新設され、(1)申請は原則2週間前(従来は1ヵ月前)、(2)2回まで分割可(従来は分割不可)、(3)労使個別合意により休業中の就業が半分まで可能(従来は就業原則不可)になった。

従来のように、子どもが生まれた男性社員を、出生手続き時に会社が初めて把握するのでは遅過ぎるだろう。社員に「2週間後から1ヵ月休みたい」と申請されたら、会社は育休の拒否権がないため受け入れるほかないが、今の日本の職場で1ヵ月間いなくなる人員対応準備を2週間でできるだろうか。よって、職場は、「育休は歓迎しているから、妊娠したら早く教えてね」など、プライベート情報を言いやすい職場づくりに変換した方が、対応する準備期間をより長く確保でき、職場の混乱を避け、円滑な職場運営を行うことができる。

さらに、子育てだけでなく、病気の治療や介護など、それぞれが仕事以外に取り組んでいることを尊重し、サポートし合い、誰が抜けても成果の出せる職場づくりがより求められる。これは、実はこれまでの女性活躍推進法や働き方改革関連法でも求められてきたことであり、真摯(しんし)に取り組んできたかの真価が問われる。自信のない職場は、男性育休を起爆剤として一日でも早く取り組むことをお勧めしたい。

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