座談会 コロナ禍と商社の働き方

【出席者】
ダイバーシティ推進コミッティ 座長(ファシリテーター)
三井物産株式会社 人事総務部 ダイバーシティ経営推進室 室長
ラファエル ティンティン サンタマリア
住友商事株式会社 人事厚生部 労務チーム 課長代理百済 なつき
豊田通商株式会社 グローバルD&I推進グループ グループリーダー横山 曜
丸紅株式会社 人事部 グローバル・グループ人事課伊澤 昌和

10月20日、人事委員会ダイバーシティ推進コミッティの有志メンバーにご参加いただき、「コロナ禍と商社の働き方」をテーマにオンライン座談会を開催しました。コロナ禍における会社や社員を取り巻く働く環境の変化、これに対応した各社の取り組み、それによる社員の働き方の変化、ウィズコロナ・アフターコロナで予想される働き方など、貴重なご意見の数々をご紹介します。

1.働く環境の変化


三井物産株式会社 人事総務部
ダイバーシティ経営推進室 室長
ラファエル ティンティン
 サンタマリア 氏

ラファエル:コロナ禍でテレワークが中心となり、さまざまな変化を感じています。当社では2016年にテレワークをトライアル実施し、2018年に試験導入していました。災害時のテレワークも想定していたので、若干の助走期間はありつつも、コロナ禍による仕事環境の変化に比較的スムーズに対応できました。各社さまの対応策やこれまでに感じられた変化をご共有いただけますか。

百済:当社もコロナ以前からテレワーク制度、コアタイムのないスーパーフレックス制度がありましたが、実態としてテレワークは一部の社員、ひと月に数日の利用にとどまっていました。コロナ禍によりテレワークが定着し、現在では会社として一律に出社率を決めるのではなく、各職場単位で出社とテレワークのベストミックスを図る方針を打ち出しています。現在も出社率は3割前後で推移し、テレワーク比率が高い傾向が続いています。働く場所は自宅、サテライトオフィス、オフィスの3ヵ所から選択できます。働き方の大きな変化により、業務の要否や進め方、またそれを誰が担うのか、今まで疑わずにいたものを根本的に考え直すきっかけにもなりました。

横山:当社もテレワーク制度はありましたが、コロナ以前は週1回程度の活用が一般的でした。コロナ禍で大きな問題なく在宅中心に移行できましたが、仕事環境が変化した中でどのように成果を出すかという課題に社員一人一人が向き合ってきた1年半だったと思います。個々人が仕事に対して一層の自律性を求められるようになる中で、以前よりも会社と社員の信頼関係が重要になったと思います。個々がベストな働き方を選択することで、ワークライフバランスからワークインライフに変化したのではないでしょうか。世の中の考え方が、仕事と生活をてんびんにかけるのではなく、生活全体を充実させるためにも働きやすさや働きがいが大切になるという考え方にシフトしたと捉えています。

伊澤:当社では、コロナ以前から長時間労働の是正、時間外勤務の削減に人事部と各職場で取り組んできました。休暇取得の促進の他、業務の効率化については生産性の向上や社内制度の見直し等を続けてきました。2019年度のテレワーク制度導入当初は利用時間上限を設けていましたが、現在はそれを撤廃した上、フレックス制度のコアタイムを柔軟なものにし、各組織でテレワーク・出社のベストミックスを追求しています。在宅でのオンライン会議が定着したのはもちろんのこと、オフィスでの打ち合わせでもオンラインを活用しています。コロナ以前からの働き方改革の積み重ねに加えて、コロナ禍がターニングポイントになり、働き方の変化が加速しました。

2.見えてきた課題

ラファエル:コロナ禍の働き方で感じる課題について教えていただけますか。


住友商事株式会社
人事厚生部 労務チーム 課長代理
百済 なつき 氏

百済:一点目は人材育成です。対面でないと難しい面もまだ感じますが、各種研修でのサポートに加え、職場ごとに新人同士、当社では指導員と呼んでいるメンター同士の意見交換の場を設けるなど工夫を重ねています。二点目はオフィス活用です。全社員が出社する前提で設計したオフィススペースの在り方について、全社プロジェクトで議論しています。三点目に、テレワークが全ての要因ではないものの、2020年度以降、全社的に増加傾向が見られる労働時間も課題と捉えています。労働時間縮減に向けて業務プロセスを見直し、生産性向上につなげたいと考えています。

横山:テレワークが増えたことで偶発性のあるコミュニケーションが少なくなったことに課題を感じています。部署内ではZoomなどで密なコミュニケーションを心掛けていますが、部署を超えたコミュニケーションは機会を設けなければ期待できません。コミュニケーションの課題に付随してオフィス改革も課題となってきました。オフィスを偶発的な出会いの場と捉え直し、名古屋本社の1フロアをモデルルームとしてリノベーションしました。コミュニケーションを取りやすい動線を工夫してつくりましたが、オフィスが変わるだけでは偶発的な出会いは十分には生まれません。オフィス改革に加え、情報共有の場づくりなどのソフト施策を組み合わせることでコミュニケーションが促進されると考えます。

伊澤:当社は2021年5月に新本社に引っ越し、東京本社勤務者の7割程度の座席数によるフリーアドレス制を採用しました。IT環境の整備が進み社員の満足度は高いですが、個人のパフォーマンス向上が結果的に組織のパフォーマンス向上につながっていかなければならないため、コミュニケーションの円滑化がキーポイントと考えています。

ラファエル:当社は、2020年5月に新本社へ移転しました。そこでActivity BasedWorking(ABW)を採用し、業務内容に応じて社内を移動するときに偶発的な出会いが見られるようになりました。経営陣からは不確実性の高い環境の中で新しい働き方を実践し、社員の意識を高めるというメッセージも出ています。また、社員向けにガイドラインを作り、リモートでの評価なども考え、部下と定期的に進捗(しんちょく)をレビューする面談機会の頻度を高めました。オフィス活用、制度面も含めた働き方の方向性をつくり上げるためのものです。エンゲージメントサーベイを通じて社員の声を拾い上げ、働き方に関する施策につなげる試みも数年前に始めました。経営陣のメッセージを受けて、コロナ禍でも成果を出せるよう社員一丸となって頑張っています。

3.求められるスキル

ラファエル:働く環境が変化した中で、どのようなスキルを高めるべきでしょうか。


豊田通商株式会社
グローバルD&I推進グループ
グループリーダー
横山 曜 氏

横山:マネジメントスキルはこれまでと違ったものが求められます。社員の自律的な成長を支援する行動、ティーチング型からコーチング型へのチームワーキングの変化、リモートでの効果的なコミュニケーションは全てマネジメントスキルの進化に帰結します。スキル習得のやり方も変化し、リモートでの研修は頻度を高めることが可能で、人数制限もありません。研修の方法に選択肢の広がりが生まれたことを実感しており、知恵の共有と新しいネットワークによるコラボレーションの促進に期待しています。

伊澤:上長と部下が1on1で定期的にコミュニケーションをとる機会を設けたり、上長から働き掛けるなど報・連・相の仕方を見直すなど模索しながら取り組んでいます。コロナ禍を契機として、DX戦略、サステナビリティ、働き方改革などの変革をさらに進め、社会課題に向き合って新規ビジネスを創造し、企業価値の向上につなげられるよう、事業環境の変化に対応できるスキルを身に付ける研修を、オンラインも活用して推進しています。

百済:リモートならではのコミュニケーションスキルの強化が必要と考えます。オンライン会議でのリアクション、ファシリテーションをどうするか。リモートならではのマネジメントスキルも磨く必要がありますので、人事としても、「リモートマネジメント研修」などの研修を提供しています。

ラファエル:リモートのコミュニケーションは、相手を思いやる作法が必要です。最近は実開催とオンラインのハイブリッド形式を希望する声も多く、どのようにベストミックスを追求し、コミュニケーションスキルを高めていくべきか検討しているところです。社内でのコミュニケーションを円滑にするために、私の室では、しばらく、月に1度のイベントデーとして、1時間1本勝負のオンライン懇親会も開催しました。各組織でも、それぞれ、リモートの中でコミュニケーション強化の工夫をしています。コミュニケーションの幅が広がったと捉えていますが、工夫の余地はまだまだあると考えています。外部とのコミュニケーションもベストミックスで考えていく必要がありますね。

4.ワークインライフへの変化

ラファエル:私自身、在宅ワークにより家族との時間、触れ合いが増えたことで、仕事に対する活力が湧き上がったことがあります。仕事環境の変化が自分にとって一番大事なものを再認識する機会になった方も多くおられるのではないでしょうか。社員のライフの変化について皆さんのお考えをお聞かせいただけますか。

横山:オンライン会議中に突如子どもが登場するなど、ワークインライフを感じています。社員のライフをチームが理解することで、お互いをさらにリスペクトしながら業務に当たるきっかけにもなっています。親が仕事をする姿を子どもが見て、仕事や社会への理解が進むこともあります。仕事で関わるチームの輪と家族の輪の双方の絆が深まっているのではないでしょうか。


丸紅株式会社 人事部
グローバル・グループ人事課
伊澤 昌和 氏

百済:在宅ワークで家事、育児や介護などにより時間を有効活用できるようになったのではないでしょうか。例えば子どもが体調を崩したときに、出社ベースの勤務形態だと欠勤せざるを得ませんが、在宅ワークだと子どもを見ながらできる仕事もあります。スーパーフレックスを活用し、中抜けして家族との時間を過ごした後に勤務に戻るなど、制度を柔軟に活用して家庭と仕事を両立している好例も出てきました。

伊澤:社員は家族の普段の生活スタイルを、家族は在宅ワークをする社員を目の当たりにして、気付きを得た社員やその家族も多いのではないでしょうか。生活の充実が仕事での良いパフォーマンスを生む側面もあると思います。

5.これからの働き方

ラファエル:これからの働き方はどのようになるでしょうか。

横山:距離も場所も問わない自由度の高い働き方が考えられます。その場合、社員の自律性、成果、それを評価する仕組みがセットで求められます。そういう世界では、個々人のキャリア観が研ぎ澄まされ、自分らしく働く選択肢も増えるのではないでしょうか。誰もが個々人の意思でワークもライフもありたい姿に近づく働き方が理想ですね。

伊澤:当社は、2020年度から人事制度改革に取り組んでおり、ミッション(役割)の大きさに基づき等級・基本給を決定し、1年ごとの成果で評価する仕組みに改めました。今後は働き方が全社一律でない中で、各組織・各自のミッションを果たすためにどう働くか、働き方を所与のものではなく、各自で考えるべきものへと変化していくことを目指す姿として考えています。同時に、ミッションの達成状況やチームメンバーのパフォーマンスを適切に評価することがますます重要になります。

百済:アフターコロナではビフォーコロナの働き方には戻らないと考えており、より多様で柔軟な働き方が尊重される中で、個々人が自律的に働くイメージを持っています。当社としても会社が一方的にキャリアパスを敷くのではなく、個々人の自律的なキャリア形成を重視しており、コミュニケーションをその要と位置付けています。評価についても、個々人の目標や職務を明確化し、上司とのコミュニケーションの下、相対評価ではなく絶対評価を行っています。個々人の異なる働き方、キャリア観を大切にして、一人一人が活躍できる環境整備を進めています。

ラファエル:コロナ禍を経験して、社員のキャリアは会社だけが敷くものではなく、個々人が自律的に捉えるものであること、その重要性を再認識できたことは大きいです。一緒に仕事している仲間も自分自身も実は誰もがマイノリティになり得ます。育児や介護など人生の一大事は数多くあり、社員がライフとワークを並行してキャリアを築いていける組織にすることは、結果的に会社を強くすると考えます。

6.読者の皆さまへ

ラファエル:最後に月報の読者の皆さまにお一人ずつメッセージをお願いできますか。

伊澤:働き方の変化による課題はまだまだありますが、社員のコミュニケーションを大切にしながら、個人と組織のパフォーマンス向上を目指し、今後も環境整備を進めていきたいと思います。

横山:コロナ禍は働き方に大きな変化を生みましたが、これからもさまざまな変化が起きると思います。商社パーソンとして時代をリードできるような取り組みを続け、商社業界を盛り上げていけるよう尽力していきたいと思います。

百済:これからは個々人が自分自身で考え、選択することが必要な世の中になっていきます。個々の成長が集まって会社の躍進につながるので、社員が生き生きと働ける会社づくりにこれからも貢献していきたいと考えます。

ラファエル:皆さんからお話を伺い、たくさんの刺激をいただきました。コロナ禍という大変な状況下、皆さんの前向きな姿勢とその取り組みの数々を心強く思います。引き続き、体調管理を万全にして、社会のため、そして商社業界の発展のために頑張っていきましょう。


座談会の様子
左上 ラファエル氏、右上 百済氏、左下 横山氏、右下 伊澤氏

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