インタビュー② 長瀬産業株式会社

コーポレートコミュニケーション本部 広報・ブランディング室統括長妻 義之
コーポレートコミュニケーション本部 広報・ブランディング室高橋 奈々子

ブランディングの重要性

ブランディングに関する貴社のお取り組みの経緯と現状についてお話しいただけますか


インタビューの様子
上段左 長妻氏、下段左 高橋氏、上段右 徳永氏、
下段右 当会岩田、下段中央 当会野田
※一橋大学大学院阿久津研究室/株式会社ロマーシュ代表取締役
徳永麻子氏にご同席いただきました。

高橋:NAGASEグループとして「ブランディング」と名の付く本格的な活動を始めたのは2014年です。きっかけは、2012年に食品素材やパーソナルケア素材などを製造する株式会社林原を子会社化したことでした。違う風土、文化を持つ規模の大きな会社がグループに仲間入りしたことが、あらためてNAGASEのアイデンティティを見直すインナーブランディングの活動につながりました。

長妻:海外のグループ会社が増え、海外の従業員の比率が上がったことにより、それまで社員同士が「あうん」で分かり合えていた呼吸が通じなくなるという内部環境の変化もありました。NAGASEグループが何者であり、何を目指すかということを、明確に言語化し共有する必要性が高まったという経緯がありました。

高橋:インナーブランディングの活動は継続していますが、2020年度からは、あえて言葉を区別する形で、アウターブランディングのプロジェクトを進めています。グローバルに顧客目線でNAGASEグループの提供価値を伝えるブランドを確立することを目指したプロジェクトです。背景としては、DXの加速により、営業担当がお客さまと直接お話ししてビジネスをするスタイルが大きく変わっていくという前提があります。ウェブサイトというリアルではない空間でも、いかにお客さまやお取引先さまにNAGASEグループの価値をお伝えしていくかが大きな課題だと考えています。

「化学」、「商社」の枠を超えたブランディングを目指して

ブランディングを進める中での難しさや葛藤はありますか。


2019年の企業広告
「ステキな化学反応を、あなたにも。」

長妻:インナーブランディングでは、「変革が必要だ」というメッセージをトップ自らが強く発信してくれたので、現場が浸透施策を進める際の難しさはあまりなかったかもしれません。インナーブランディングの施策として実施したのが「トップキャラバン」です。会長、副会長、社長が国内外のグループ会社を訪問して10-15人のグループセッションを行い、歴史の変遷やNAGASEの価値を伝えつつ社員の思いも直接聞くというもので、コロナ禍までは年間50-60回のペースで行いました。このキャラバンを通じて会社の理念やビジョンを身近に感じた社員は多かったと思います。会社の方向性や価値観の理解・共感は少しずつ、確実に進んでいると思います。

高橋:ブランディングの難しさとして感じているのは、自分たちが何者かを言語化しづらいことです。長瀬産業は商社ですが、グループ会社を含めると約半数が製造会社です。また、長瀬産業の強みである「化学」という言葉は、必ずしも「食品素材」の事業領域において同様の強みとして受け取られるとは限りません。「化学」や「商社」の枠にとどまらないNAGASEグループを、どう表現し伝えていくかが難しいですね。

長妻:グループの提供価値を言語化しようとして、自社の存在価値などについて議論していると、どうしても「イノベーション」や「ソリューション」など、よく聞く表現になってしまいます。一方で、他社との差別化を追求し過ぎると、奇をてらった言葉になり社員にも受け入れられません。メッセージは言葉だけで伝わるのではなく、日々の企業活動と合わせて初めて意味を持つので、言葉だけにこだわるのも良くないとは思うのですが…。

高橋:自社のアイデンティティーや強み、他社との差別化を考えると、どうしても創業189年という「歴史」をNAGASEらしさとして語りたくなります。しかし、社長の朝倉は、幅広いステークホルダーに向けて、さまざまな場面で「歴史よりも未来を語る」ことを徹底しています。私たちもまずは未来を語ることを意識してブランディングを進めています。

企業広告のブランディング

近年思い切った企業広告を出されています。


2021年の企業広告
「挑もう。前例なんか、いらない。」

長妻:長年、創業記念日に企業広告を新聞に掲載していたのですが、2019年から一般の方々に会社が変わろうとしているメッセージを訴求すべくビジュアルやメッセージを大幅に見直しました。狙いは、限られた広告予算でNAGASEグループの認知向上につなげることだったのですが、おかげさまでお取引先さまからは驚きを含めた反響があり、SNS上でも「広告を通じてNAGASEを知った」という投稿が見られるなど、会社の認知を広げることができたと感じています。社外の反響も大きいですが、社員も自社が変わろうとしている意志を感じてくれたのがうれしかったです。

高橋:リニューアル第1弾は「ステキな化学反応を、あなたにも。」、2020年の第2弾は「未来の声を聴け」、2021年の第3弾は「挑もう。前例なんか、いらない。」というコピーを掲げました。いずれも、社長が社員に向けて語ったメッセージなどから発想を膨らませたもので、幅広いステークホルダーに訴求することを意識しつつも、会社の方向性から乖かい離りさせないことで社員にとっても腹落ちのする企業広告にしたいと考えました。

サステナビリティやDXなど、社会環境の変化がブランディングに与える影響を教えていただけますか。

高橋:SDGsのグローバルな関心の広がりは機会と捉えています。まだまだ会社としての発信は少ないと思うのですが、グローバルブランディングのプロセスにおいても、この要素をどう咀嚼(そしゃく)し、NAGASEならではのサステナビリティとしてメッセージや表現に落とし込むかがカギになると考えています。DXについても間違いなく機会だと思います。2019年にAIを活用して新素材探索を支援するサービス「TABRASA」をリリースしましたが、このようなデジタルを活かした新しいビジネスの発信が、新しいNAGASEのイメージにつながっていくと思います。

長妻:商社はどこの企業も皆さん同じように感じられていると思うのですが、いわゆる「三方よし」の精神が根付いていて、これまでも利益を追い求めながら社会課題に目を向けてビジネスを続けてきたからこそ今があります。そういった意味でも、ブランディングを通じて自社の提供価値を広く理解してもらうことができれば企業の活躍の場は広がると思います。誠実に正道を歩むという普遍の経営理念の下、「化学」や「商社」の枠を超えたグループの価値を多くの方に理解していただけるよう、ブランディングに取り組んでいきたいと思います。

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