ABICコーディネーター座談会

2020年は100年に一度ともいわれる感染症の流行に見舞われ、世界のさまざまな分野で変化が起きました。その中でABICはどのように変化し、これからどこに向かうのか。各分野で活躍するコーディネーター(以下CN)の皆さまから2020年に起こった変化と未来への熱い思いを語っていただきました。(写真氏名五十音順、敬称略)

1. 未曽有のコロナ禍での変化

司会 2020年度を振り返っていかがでしょうか。

坂野(大学・社会人講座等支援):学生が大学に行けない異質な年だった。大学の授業はオンライン化が急速に進んだ。リアルタイムのオンライン授業に加え、パワーポイントなどの資料に音声を付けYouTubeや学内システムにアップしたオンラインの授業も行われた。オンライン化の利点も多かった。学生は何度も復習することができ、学習効果も高く、海外でも受講できる。講師にとっても授業のための移動は必要なく、担当講師間のスケジュール合わせが楽なことにも驚いた。控えめな生徒もオンラインのチャット機能を使い、頻繁に質問してくるようになった。リモートでグループ分けをして活発な討議もできる。オンラインは個人の才能を伸ばす貴重なツールにもなり得る。大学の企業へのインターンシップ講座も、全てオンラインとなったが、リモートで学生からのフィードバックが得やすくなったためインターンシップを提供した企業にも有益だった。


留学生支援CN
東京国際交流館日本語教育支援・日本語教師養成講座担当
鍬形 勲氏

鍬形(留学生支援):外国人留学生への日本語教育支援は、6月下旬まで緊急事態宣言の影響がありオンラインのみで実施した。対面の授業は復活したが、東京国際交流館の宿舎を出た留学生の中にはオンライン授業の継続を希望する生徒もあり、現在は対面とオンラインの講座を並行運用する「ハイブリッド方式」を採用している。授業の実績は、12月までのデータで対面は123人、オンラインは67人の参加となった。例年の参加者数からあまり落ち込んではいない。日本語教師養成講座は12−3月にオンラインで8講座を実施。オンライン講座は順調で、今後も継続的に実施していきたい。


留学生支援CN
日本語教育支援担当
坂本 英樹氏

坂本(日本語教育支援):対面が当たり前であった授業がオンラインに大きく転換した。一つ目の実績は、技能実習生に対するオンライン授業である。5月入国予定であったインドネシアの技能実習生20人がコロナ禍で11月入国になった際、入国後の感染防止のため2週間のホテル滞在が必要になった。その期間を使って、オンライン授業を行った。午前午後それぞれ1時間30分ずつ授業を行い、必須であった入国後の日本語授業をクリアした。留学生の受け入れ機関からも、待機時間の有効利用として評価された。

二つ目の実績は、学校に通う外国人生徒に対するオンライン授業である。ある高校の外国人生徒にオンライン授業を行った際、普段ほとんど発言がなく日本語はできないと思っていた生徒が、日本語を話し始めた。坂野CNも話されたように、発言機会の創出が、オンライン授業のメリットである。日本語教育のオンライン授業は今後も確実に増える。オンライン授業ではZoom、Teamsなどのアプリを使うための慣れが必要であり、ABICの中で基礎講座を設けるのもよい。オンラインセミナーに参加して視野を広げ、一堂に集まることが難しい時にオンライン飲み会で友人と語り合う。リモート元年といえる年だった。

白石(中小企業支援):中小企業支援分野では自治体の担当者が地方から首都圏に出ることもできず、また企業から支援を求める数も例年に比べ少なく成果が出ない年だった。唯一横浜市の中小企業海外市場開拓支援事業の案件だけは、首都圏ということもあり3密に気を付けながら、ウェブ面談も取り入れ支援を継続することができた。ABICでのCNの業務については、随分前からリモートワークの仕組みを導入していたので、在宅勤務への移行がスムーズだった。ICTの設備は今後の活動においても必要不可欠と感じた年だった。

髙塚(中小企業支援):支援企業の販路開拓が私たちの業務の要になるのだが、製造現場の視察、製品の詳細、経営方針の把握等のための支援先企業への最初のアプローチは実際に現場に赴いて行うことが重要だ。しかしコロナ禍の現在、これが困難なため業務の開始がままならない。対面での活動が再開できる日が待たれるのはもちろんだが、一歩踏み込んだICTの活用も検討する必要がある。初対面でいきなりリモート面談というのはハードルが高く、ABIC側も依頼者側もリモートに手を出すか出さないか見合っているような状況が続いてきた。今後は、中小企業支援分野でもABICからリモートで能動的に働き掛け、半歩でも案件が前に進むようなコミュニケーションを心掛けていきたい。

2. ABICの活動は自然体のリカレント教育そのもの

司会 ABICでのリカレント教育とは何でしょうか。


地方自治体・中小企業支援CN
中小企業支援担当
白石 一郎氏

白石(中小企業支援):ABICの会員は現役時代の豊富な経験をお持ちだが、活動の中で今までにない新しい経験をし、それが会員自身の成長につながっている。支援企業のモノの見方・考え方は会員が想定外のことも多く、販売先との調整に当たる際にはどこに着地させるのが一番いいのか、検討を重ね、知恵と工夫をもって成果を出している。ABICでの活動経験が次の活動につながることも多く、ABICの活動自体が学び続けるリカレント教育の側面を持っているのではないだろうか。


地方自治体・中小企業支援CN
中小企業支援担当
髙塚 謙次氏

髙塚(中小企業支援):大事なことは構えて活動に取り組むのではなく、まず自然体で一歩踏み出すこと。そうすると不思議なほどに誰かのために頑張れる。相手の立場に立って成果を出したいと願い行動すると必要な学びを自ら吸収し始める。成功すればもっと成果を出したいとさらに学び、動き続ける。このプラスのサイクルが自然体でのリカレント教育「ナチュラルリカレントエデュケーション」だと考える。リカレント教育とは、若さと情熱を持って社会との関わりを継続している証しだ。

坂野(大学・社会人講座等支援):私もABIC会員の一員として通算5年間、大学で講師をしてきたが、自分の経験や知識だけでは講師は長く続けられず、社会・分野の変化に対応しつつ、知識・情報を高度化、アップデート化する必要があった。教えては必要なものを取り入れ、それを繰り返していくことで自分自身が進化していくことが、ABIC会員にとってのリカレント教育だと考える。

鍬形(留学生支援):ABICが会員向けに行っている「日本語教師養成講座」はまさにリカレント教育である。日本語教師という分野で社会に貢献するためのスキルアップを目的とした、生涯教育の側面を持つ講座であるからだ。2006年から講座を開始し、修了者は240人を超えた。留学生には所属大学等で日本語教育を受ける機会があるが、就労するために来日した「生活者」である外国人への日本語教育の基盤整備は不十分なままだ。人口が減り続ける日本で外国人就労者が増えていくことは間違いなく、一緒に生きていくために、言語の壁を低くすることは非常に重要だ。この講座の卒業生たちは、自らのリカレント教育の一歩を踏み出しただけでなく、小さな調和の種をまき続ける使徒なのである。リカレント教育の精神的な側面を考えると、自分自身の精神的充足感にも思い至る。新しい知識・仕事を持ち、相手との関わりの中で自分を再発見することは、命の源泉になり得る。

坂本(日本語教育支援):私自身も鍬形CNが話された「日本語教師養成講座」の修了生でリカレント教育の一歩を踏み出すきっかけを得た一人だ。そして2020年にはオンライン授業の実践の場で自らリカレント教育を体験した一人になった。オンラインでの日本語教育という必要性に迫られ、Skype、Zoom、LINEでの日本語講座講師を担当し、試行錯誤を経て1年前では考えられないほどスキルアップした。おかげで、オンラインでのフォーラム、セミナーにも積極的に参加し、幅広く自己研さんできるようになった。

ABICのCNや会員それぞれが目標を決めて取り組んでいくと、新しく学んだり復習することが出てくるわけで、それがリカレント教育そのものであると実感している。ABICの支援分野が多岐にわたるように、学びのテーマは人それぞれで構わない。要は何が自分に必要かを問うことがリカレント教育につながっている。

3. 社会の基盤づくりがABICの目指す未来

司会 これからABICはどこに向かっていくべきでしょうか。

髙塚(中小企業支援):ABICのような組織に属し会員活動を通じて社会との関わりを持ち、「ナチュラルリカレントエデュケーション」を実践し続けることが、社会に支援の輪を広げ、それが当たり前のこととなり、社会を変えていくのではないか。ABICの活動自体が広く世の中のロールモデルとなる可能性を持っていると考える。

白石(中小企業支援):髙塚CNの言う通りで、社会が進化していかなければ日本の未来はない。CNの活動を通じて、地方を支えなければ日本は成り立たない時代になってきていることをひしひしと感じる。主要都市は地方都市の支えがあって成り立っているので、地方の衰退は主要都市、ひいては国の衰退を招く。第二の人生を踏み出したOB・OGたちが持っている知識・ノウハウを地方の活性化に役立てることで、ABICが地方と都市・世界の橋渡しの役割を担う。これまでアジア圏への販路開拓支援が多かったが、今後さらなる国の後押しがあればアフリカ圏への販路開拓支援も出てくるだろう。その際にはアフリカ駐在経験者のABIC会員の活躍も期待できる。


大学・社会人講座CN
大学講義担当
坂野 正典氏

坂野(大学・社会人講座等支援):ABICは産業界と教育界の橋渡しの一端を担っていると思っている。その役割を強化するためにはABICのインプットである会員数を増やし、多様化を推進すべきだ。同時にアウトプットとしての支援先のさらなる開拓も必要だ。ABICは20年続けてきて、活動実績も豊富になってきたが、一層の組織としてのトップセールス、日本貿易会と会員企業との連携・協力が重要と考える。CNとして、会員に一つでも多くの活動の機会を提供したいと思っている。活動機会の創出が支援を求める多くの場所で課題解決につながっていく。また、将来的にはABIC内部で会員同士のリカレント教育の循環が生まれてもいいのではないか。例えば、「英語で授業をするための講習会」は外部のプロ講師にお願いしているが、近い将来、ABICの会員が講師になって講習会等を行うことも期待したい。教える方も教えられる方もお互いに学びがあり、指導を受けた会員が外部の活動での経験を積んで、会員に教える側に返ってくる。お互いに学び合い、社会の変化に対応する知識を養っていくことで好循環をつくっていける。

坂本(日本語教育支援):会員として一律に支援を行う上下のないフラットな組織はABICの長所だと思う。CNの経験とそれにつながる人脈は重要だが、一方で活動の中に新しい視点を取り入れるためにCNを一定の期間で交代することも必要と思う。人の循環は会社の人事異動と同じだ。会員については商社出身者に加えて、メーカー、金融、物流業界等からも会員を集め続ける。過去の経験値を積み上げて基盤を強化しながら、常に新しい空気が入ってくる組織づくりをしていくことで、世の中の変化に対応できると考える。「経験、知見、人脈を活かした社会貢献活動」を通して世の中に求められ続ける活動組織にしていきたい。

鍬形(留学生支援):商社での駐在経験を通して、言語文化を背景にした異民族間のあつれきを感じることがあった。言語はお互いを理解するためのインフラなので、その土地の言語が分からないと分断や誤解を生み出すことがある。留学生に対する日本語教育支援や「日本語教師養成講座」は日本の中で生きる「生活者」としての在留外国人と日本人が一緒に暮らしていくための小さな希望だ。若き日に私が駐在先で多くの現地の人から手を差し伸べてもらったように、日本人もどうか外国人に温かい言葉や気持ちで接してほしい。そのためにはABICでの日本語教育支援につながるあらゆる活動を継続し、未来の多様性の土台を築いていくべきだ。

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