SDGs達成に向けた日本の取り組みと展望

外務省 国際協力局
地球規模課題総括課長
吉田 綾

1. はじめに

新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大からも明らかな通り、国境を越えて人やモノ、情報そして資本が移動する現代では、一国の社会状況が瞬く間に世界の社会、経済、そして一人一人の生活環境に深刻な影響を与える。持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)は、このような地球規模の課題に対応するため、2015年9月の国連総会において加盟国の全会一致で採択された。17のゴールと169のターゲットから構成され、「誰一人取り残さない」という理念の下、2030年までに持続可能で多様性と包摂性のある社会を実現することを目指している。

2019年9月にSDGs策定後初めて、SDGsの進捗(しんちょく)について議論する首脳級会合、国連「SDGサミット2019」が開かれ、2020年から2030年までがSDGs達成に向けた「行動の10年」として位置付けられた。本稿では、SDGs採択から5年間の日本政府の取り組みと、今後の展望を示したい。

2. SDGs達成のための日本政府による取り組み


写真1 第8回SDGs推進本部会合(2019年12月20日)
出典:首相官邸ホームページ
(https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/201912/20sdgs.html)

SDGsの採択後、日本政府がまず取り組んだのが国内の基盤整備である。2016年5月に、総理を本部長、官房長官・外務大臣を副本部長、全閣僚を構成員とする「SDGs推進本部」を立ち上げ、同年12月、SDGs達成に向けた中長期的戦略である「SDGs実施指針」を策定し、日本が特に注力する8つの優先分野(①あらゆる人々が活躍する社会・ジェンダー平等の実現、②健康・長寿の達成、③成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション、④持続可能で強靱(きょうじん)な国土と質の高いインフラの整備、⑤省・再生可能エネルギー、防災・気候変動対策、循環型社会、⑥生物多様性、森林、海洋等の環境の保全、⑦平和と安全・安心社会の実現、⑧SDGs実施推進の体制と手段)を掲げた。

また、SDGs実施に向けた官民パートナーシップを重視する観点から、民間企業、NGO╱NPO、有識者、国際機関、各種団体等、広範なステークホルダーが集まる「SDGs推進円卓会議」を2016年9月に立ち上げ、SDGs推進に向けた地方やビジネスの取り組み、貧困やジェンダー問題への対策、進捗のモニタリング、対外発信の在り方、国際社会との連携強化等について意見交換を行っている。

2019年12月に開催されたSDGs推進本部第8回会合では、過去4年間の取り組みや国際社会の潮流、円卓会議構成員による提言やパブリックコメントを踏まえ、「SDGs実施指針」を2016年の策定後初めて改定した。加えて、SDGs達成に向けた政府の具体的な取り組みを加速させるため、「SDGsアクションプラン2020」を決定し、①ビジネスとイノベーション、②SDGsを原動力とした地方創生、強靱かつ環境に優しい魅力的なまちづくり、③SDGsの担い手としての次世代・女性のエンパワーメントを3本柱として、取り組みを加速化していくこととした。同アクションプランには、企業経営へのSDGsの取り込みやESG投資(※E:環境、S:社会、G:ガバナンス)のさらなる後押し、地方創生のさらなる推進、昨今の災害激甚化を踏まえた防災・減災の強化、G20のフォローアップとしての海洋プラスチックごみ対策や、女性の活躍推進、新学習指導要領を踏まえたESDの推進等、外務省および関係省庁の具体的施策を盛り込んだ。

教育分野においては、小学校は2020年度から、中学校は2021年度から全面実施される新しい学習指導要領にも掲げられている通り、「持続可能な社会のつくり手」を育む教育が学校現場において実施される。これによって、若い世代やその親の世代でSDGsの認知度が高まることや、SDGsを学校で学んだ世代が2030年やその先の未来で活躍することが期待される。

日本政府は、国際的な取り組みとして、質の高いインフラ、防災・減災、海洋プラスチックごみ、気候変動、女性、保健、教育等のSDGs主要分野におけるさまざまな課題解決を支援することを通じ、開発途上国におけるSDGsの推進にも貢献している。新型コロナウイルス感染症に関しては、特に、医療体制が脆弱(ぜいじゃく)なアジア、アフリカをはじめとする開発途上国への支援が必要と考えており、二国間支援やWHO、UNICEF、UNDP等の国際機関を通じて国際的な保健医療体制の強化に取り組んでいる。例えば、インドネシアやミャンマーでは、医療・保健従事者への技術協力や感染リスク啓発、物資供与等を行っている他、ケニア、タンザニア、マラウイでは、これらの支援に加え、日本企業とも連携しながら、衛生環境の改善と衛生習慣の確立に資するトイレ製品などの物資供与や技術協力、新型コロナウイルス流行下においても国家機能を維持するためのオンライン化支援等を行っている。今後もワクチン開発や治療、診断、公平なアクセス等の各分野において国際連携を進めていく。


図1 「SDGsアクションプラン2020」(2019年12月決定)

3. 日本国内におけるSDGsの浸透

日本国内におけるSDGsの認知度は年々向上し、今や国民の約3人に1人が認知しているとの調査結果もある。これには、日本の経済界が環境対応や企業統治に優れた企業を選別して投資する「ESG投資」を背景とする直接金融のうねりを通じてSDGsに大きな可能性を見いだし、その動きをけん引していることが理由の一つとして挙げられる。

具体的には、2017年に世界銀行がSDGsを推進する企業の株価に連動する新たな債券を発行して以降、国内では、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がESG投資に乗り出した。経団連の企業行動憲章においてSDGsの達成が基本理念として掲げられたことも大きな推進力となり、大企業を中心にSDGsが浸透していった。2020年に発表されたグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)の報告によると、2019年の「SDGsの経営層の認知度」は77%と、前年の59%からさらに上がっており、企業経営にSDGsが根付きつつあることがうかがえる。

しかし、都市部の大企業が次々とSDGsを自らの活動の中に取り込み始める一方で、地方中小企業における認知度には課題があるのも実情だ。日本企業の9割以上を占める中小企業が、いかにSDGsを経営に取り込めるかが重要であり、政府として引き続き支援を行っていく。

4. 多様なステークホルダーとの連携

現在、SDGsの推進は、「認知度の向上」から「具体的な成果」が求められる第2段階への移行期にあり、政府としては、より多くの人々がSDGsに関心を持ち、行動に移すきっかけをつくるべく取り組んでいる。

例えば、国内で実施されているSDGs達成のための取り組みを見える化し、より多くのステークホルダーによる行動を促すために、SDGs達成に資する優れた取り組みを行っている企業・団体等を「ジャパンSDGsアワード」として表彰してきている。2019年12月には第3回ジャパンSDGsアワードの表彰式が開催され、商店街として初めて「SDGs宣言」を行い、イベントやサービスを通じて人や環境に優しい活動を実践する、北九州市の魚町商店街振興組合がSDGs推進本部長(内閣総理大臣)賞を受賞した。また、SDGsの推進に向けて活用できる自己分析モデルを構築した自治体や、SNS投稿を通じてアフリカやアジアの子どもたちに給食を届ける市民参加型の取り組みを行う特定非営利活動法人、古着を回収して開発途上国にて再利用すると同時にポリオワクチンを寄付できるビジネスモデルを構築したリサイクル企業、市内全ての公立小・中・特別支援学校においてESDを推進する教育委員会等が表彰され、まさに、幅広い関係者がSDGsを主導していることの証左となった。2020年12月にも第4回の表彰式が開催される見込みである。

また、政府は、2024年度末までに、SDGsに取り組む自治体の割合を60%とするため、SDGs達成に向けて優れた取り組みを提案する自治体を「SDGs未来都市」に選定し、その中でも特に先駆的な取り組みを資金的に支援する「自治体SDGsモデル事業」を2018年に創設した。こうしたさまざまな主体による創意工夫が、日本のSDGs達成に向けた大きな原動力となっている。

さらに、企業や地方自治体等による取り組みを後押しすべく、「外務省×SDGs」ツイッターによる関連情報の発信、SDGsポータルサイト「JAPAN SDGs Action Platform」での取り組み事例の掲載等も行っている。


図2 第3回ジャパンSDGsアワード(2019年12月)受賞団体


5. 日本の「SDGs モデル」を世界へ


日本政府はこれまで、国連やG7・G20など国際的な議論の場において、日本のSDGs推進に係る取り組みを発信し、SDGsの力強い担い手たる日本の姿を国際社会へ積極的に発信してきた。冒頭で言及した2019年9月に開催された「SDGサミット2019」には、安倍前総理大臣が出席し、G20大阪サミットやTICAD7において、環境、教育、保健、質の高いインフラ投資等の取り組みを議長として主導したことを共有した上で、「SDGs推進本部」の本部長として、次のSDGサミットまでに、民間企業の取り組みや地方創生の取り組みなど国内外における取り組みを一層加速させる決意を表明した。

また、2020年9月、菅総理大臣は、就任後初めての国連舞台となった国連総会の一般討論演説において、コロナ危機を踏まえ、人間の安全保障の理念に立脚し、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成に向け、「誰の健康も取り残さない」という目標を掲げ、各国とも協調しながら、国際的な取り組みを積極的に主導していく旨を強調した。

新型コロナウイルス感染症の世界的流行は、健康への脅威のみならず、貧富の格差を拡大させ、さまざまな地球規模課題を深刻化させている。われわれが今まさに直面している未曽有の危機克服のためには、あらゆる関係者による、より一層のSDGs達成に向けての行動が必要となっている。

あらゆるビジネス機会を捉え、社会や顧客が直面している課題に解決策を提供することを本業とする、世界でも類を見ない日本独自の業種である「商社」が持つ潜在力は計り知れない。2018年に「商社行動基準」が改定されたことも大きな原動力となっており、SDGs達成に向けた日本の商社の今後のさらなる躍進に期待したい。

「行動の10年」の始まりの年に当たる2020年、日本政府としても、新型コロナウイルス感染症の終息に向けて全力を尽くしつつ、2021年に控えている東京オリンピック・パラリンピック競技大会や東京栄養サミット等、今後国内で開催予定の国際的なイベントの機会を最大限に活用しながら、「誰一人取り残さない」社会の実現に向け、国際社会においてリーダーシップを発揮し、国内外の取り組み強化に引き続きまい進する考えである。

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