インド・オーガニックコットン・プロジェクトについて

興和株式会社 生活関連事業部
執行役員 素材開発部 部長
菊池 毅

SDGsが広く認知され、官民でその達成に向けたコミットメントが求められていますが、当社の活動の一つである「インド・オーガニックコットン・プロジェクト」をご紹介します。インドでオーガニックコットン栽培を普及し児童労働を撲滅しようという取り組みです。

はじめに

当社は医薬品やヘルスケア品の製造・販売で知られることも多いのですが、1894年に綿布問屋として創業し、綿布業から紡績へと繊維を中心に発展してきました。時代の流れに合わせて、取扱品も繊維から生活関連全般へと広がり、今日においても中核事業の一つとなっています。

私自身は、1991年に入社し、当時の繊維事業部(現 生活関連事業部)に配属されて以来、海外駐在期間も含めて当事業に携わってきました。入社して最初に扱った商品がインドの綿製品であったのは何かの縁かもしれません。

当社がインドでオーガニックコットン・プロジェクトを始めたのは2014年、国連総会でSDGsが採択されるちょうど1年前でした。

インドの綿花栽培

インドは独立以来、工業化政策を進めてきておりGDP成長率4.2%(2019年)と経済成長を続けています。主要輸出品目も石油製品、機械機器、化学関連製品などの工業品が中心となりましたが、依然として農業も主要産業の一つとなっています。

人口約13億5,261万人(世界第2位)という多くの国民を支えるには農業が欠かせません。その中でも綿花は世界中に輸出される代表的農作物です。綿産業は雇用を維持する国の重要な柱であり、農村部の生活を支える基盤となっています。綿花はインド国内約1,300万haの農地で、約600万人の農家によって生産されており、綿花生産農地面積としては世界最大で、その生産量も中国を抜いて1位となりました。しかし、その中でオーガニックコットンの占める割合はわずか1%程度です。

オーガニックコットン


オーガニックコットンとは有機(オーガニック)農法によって育てられた綿花(コットン)のことです。通常の綿花栽培では大量の農薬や化学肥料が使用されています。発育促進、害虫駆除、雑草処理などあらゆる過程で化学薬品が使用され、収穫時には落葉剤で葉や茎を枯らせてから刈り取るため、栽培に従事する農家の人たちの健康にも深刻な影響を与えます。

こうした農薬や化学肥料を使用せず、有機肥料で育てられた綿花がオーガニックコットンです。オーガニックコットンには第三者認証機関によって定められた厳格な基準があり、この厳しい基準を守った栽培を3年以上続けて初めて「オーガニックコットン」として認証され表示することができます。汚染された土地には農薬が残っているため、そこから有機肥料などによって土壌作りから始め、自然本来の力で育つようになるには最低3年かかるのです。これは農家にとって大きな負担となり、手間がかかって効率は悪く、移行期には一時的に収穫量が減少することもあります。また、有機栽培に転換しようと思ってもその方法が分からないという農家も少なくありません。そうした農家をサポートしようというのがこのプロジェクトの原点です。


もう一つの思い


インドの農家1軒当たりの平均的な農地面積は約1−2haと小さく、農作業は全て手作業で、収穫も手摘みが主流となっています。綿花農家の収入は低く、平均で年収1,000ドル以下といわれています(インドの1人当たりGDPは2,172ドル(2019年))。しかし通常の綿花栽培では高価な農薬や化学肥料を買わなければならず、ますます貧窮にあえぐことになるという貧困の悪循環から抜け出せません。そのために農作業、特に受粉や収穫時に多くの子供が駆り出されます。こうした状況にインド政府も改善に乗り出していますが、児童労働を撤廃・予防し、子供たちが教育を受けられるようにしよう、というのがこのプロジェクトを始めたもう一つの思いです。

オーガニックコットン・プロジェクト

本プロジェクトはインド中南部のテランガナ州にある人口約2,000人のナガルドッディ村からスタートしました。きっかけは国際協力NGOのACE(エース)からの相談でした。問題は児童労働の温床となる綿花農業の実態で、一時的に児童労働をやめさせても、根本を解決しないとまた戻ってしまうということでした。そこでこのプロジェクトを立ち上げ、遺伝子組み換えをしていない種の提供、有機農法の技術支援、有機農薬・肥料・除虫剤の製造方法供与、収穫された綿花のプレミア付き買い取りなどを実施しました。

農家の現実に寄り添い、経済的な側面だけでなく技術面など、より具体的かつ現実的な方法でサポートしようと踏み出した一歩でしたが、その後は試行錯誤の連続でした。まず従来の農法を大きく変えることになり、農家の皆さんに理解してもらうことに苦労しました。それでも少しずつ提携農家が増え、オーガニック認証を受けた農地も広がってきました。また、2020年は2度も水害に襲われましたが(幸い大きな被害はなし)、干ばつにより収穫が激減した年もありました。綿花は一年草なので、今年が良くても来年はまた種まきから始め、手間と時間をかけて育てなければなりません。この取り組み自体も一つの活動で完結するものではなく、活動を継続することでそこに働く人々の健康と環境を守り、持続可能な社会の実現に寄与していきたいと考えています。

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