三井物産 ベトナムにおけるエビ養殖加工事業

1.三井物産の水産事業取り組みにおける背景と意義


Minh Phu 社で手掛けるブラックタイガー

当社は2020年3月期までの中期経営計画で、新たな成長分野の一つとして「ニュートリション・アグリカルチャー」、つまり「食と農」の分野を定めております。これは伸び行く農産品・畜水産物需要を背景に、その生産性向上と安定供給、そして食の高付加価値化への取り組みを行うという方針です。国連によると世界人口は2040年に90億人、2060年には100億人を突破すると予想されており、食料需要も並行して増加していくことが想定されます。中でも畜水産分野である動物性タンパク質は、アジア・アフリカにおける中間所得層拡大に伴い、今後のさらなる需要増が見込まれており、さらに市場では環境配慮や資源保護の観点からよりサステナブルな食料生産が求められる中、こうした需要に応え得る生産体制の整備がますます重要になると考えています。かかる状況下、天然漁獲量の頭打ちや水産資源の保護といったサステナビリティの観点から水産養殖は当社注力領域と位置付けてきました。また、畜水産の生産効率を考える場合、飼料効率(増肉係数)つまり1kgの体重確保に何kgの餌が必要か、という数値がしばしば用いられます。この飼料効率の観点では牛が8程度、豚が3程度に対して、サーモンは1.1-1.3程度、エビは1.2-1.8程度とされ*、サーモン・エビ養殖は非常に生産効率が高いといえます。こうした背景から、当社は2013年にベトナムのエビ養殖加工会社であるMinh Phu SeafoodJoint Stock Company(以下Minh Phu社)傘下の加工会社に出資参画、2015年にはチリサーモン養殖会社に出資を行い、2017年には閉鎖循環式陸上養殖(トラウトサーモン)のトライアルも開始しました。さらには2019年6月にはMinh Phu社本体に35.1%の出資を行い、養殖エビ事業に本格参入いたしました。

*出典:FAOデータ、お肉検定講習会1級テキスト

2.Minh Phu社養殖加工事業取り組みについて

Minh Phu社はベトナム南部に二つの加工工場と900haの養殖池を有する世界最大のエビ生産加工会社です。エビフライなどの加工度の高い付加価値品をはじめ幅広い商品ラインアップを持ち、米国や日本を中心とする約50ヵ国へ輸出(Minh Phu社はベトナムにおけるエビ輸出シェアの約2割を有します)しています。

また、Minh Phu社は当社出資以前より、自社でエビの養殖を行っておりましたが、規模は限定的で、養殖方式も広大な田んぼのような土地に水を張り、そこに稚エビを放流し、その後の養殖管理は従業員の目視と勘に頼る伝統的な手法で行っていました。こうした従来の養殖方式では池ごとの給餌量や水質にムラが生じており、養殖効率が下がる要因となっていました。また、世界的には食料生産における認証が広がるなど、安全・安心やトレーサビリティの担保が求められるようになっており、こうした状況を踏まえMinh Phu社は、さらなる生産安定性やサステナビリティ・トレーサビリティの向上を目指し、当社出資後、新養殖方式による自社養殖場を拡大しています。新養殖方式は小型の円形プールのような養殖池とすることで、養殖環境の管理を容易にしており、細かな水質モニタリングや換水を可能にしております。また、稚エビはウイルスフリー、抗生物質不使用、養殖用水の再利用などを徹底することで、良質なエビを効率よく、環境負荷の少ない方法で生産することが可能です。Minh Phu社ではこの新養殖方式の拡大が、今後同社バリューチェーンを強化する上で重要と認識し、注力していく方針を掲げています。


新方式を採用した自社養殖施設


3.三井物産のエビ養殖取り組みにおける今後の展望

現在当社では、本店や海外店のスタッフが一丸となり、Minh Phuグループのさらなる成長を支援しています。当社のグローバル販売網を通じた拡販や、養殖池から販売までのサプライチェーン見直し・効率化は出資直後から進めている他、新養殖方式の拡大に伴い、養殖池や加工工場でのデジタル技術の活用も推進しています。中でもデジタルトランスフォーメーションは今後の企業成長を支える一つのポイントであると考えています。例えば、新方式養殖では、従来のように従業員の感覚や経験に頼るのではなく、各池に設置したセンサーを活用することで生育状況を加味した最適な給餌や日々の細かな水質モニタリングを行い、給餌効率の向上やエビ斃(へいし)死率の低減を目指す取り組みを始めています。また、徐々に人件費が高騰しているベトナムにおいては、これまで人海戦術であった養殖管理や加工に携わる工員を省人化することで人件費の抑制も期待できると考えています。

当社は、こうした取り組みを続けることで、より安全・安心、かつ持続可能な水産物の安定供給を通じ、世界のタンパク質需要増に応えてまいります。

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