豊田通商 持続可能なクロマグロ完全養殖事業

1.クロマグロ完全養殖事業参入の背景と意義

豊田通商の食料・生活産業本部は、お客さまと社会に対して健康で豊かな生活環境を提供し、新たなビジネスモデルを構築していくことを目指しています。穀物・食品・保険・ライフスタイルの4分野で事業展開し、食品分野では農水産業に関する社会課題解決に寄与する事業を展開しています。

2010年当時、マグロの資源枯渇は社会課題となっており、中でも最も枯渇が懸念されていたのが日本の食卓を彩るマグロの最高級品として知られる「クロマグロ」でした。このような環境下、豊田通商は持続可能なクロマグロ養殖の商業化への貢献を目指し、32年の歳月をかけてクロマグロの完全養殖を確立させた近畿大学からの技術協力を得て、クロマグロの完全養殖事業に参入しました。従来の養殖事業者が扱わなかった体長5cmの稚魚を「ヨコワ」と呼ばれる30cmの中型サイズまで育成する「中間育成事業」に、世界で初めて取り組み始めました。


漁場の様子(ツナドリーム沖縄)


2.クロマグロ完全養殖事業のこれまでの展開と課題


2010年6月にツナドリーム五島を長崎県五島列島福江島に設立しました。近畿大学の陸上養殖施設(和歌山県、奄美大島)で育成された5cmサイズの稚魚を40時間かけて活魚船で輸送し、海上いけすで約半年かけて30cmまで育て、養殖会社に出荷するのが主な業務でした。その後、天然ヨコワの漁獲規制の強化により、完全養殖クロマグロのニーズが高まったことから、2014年5月にツナドリーム五島種苗センター(現在はツナドリーム五島に合併)を設立し、種苗の安定供給と量産化を進めています。

豊田通商は商社の中でもモノづくり商社と呼ばれ、「現地・現物・現実」をグループ全体の価値観・行動原則の一つとして現場主義で事業を行っています。特にクロマグロ完全養殖事業では、生き物が相手であり、この「現地・現物・現実」に基づいた行動が必要不可欠です。事業開始当初は育成中のマグロの生存率の低さが大きな課題でした。そこで、マグロの口のサイズにあった餌を給餌する、マグロの生残尾数・状態を確認するために死亡魚をいけすに潜り回収する、夜間のマグロに異常がないか漁場に泊まり込みで観察するなど、一見非効率とも思える行動を地道に継続した結果、生存率が向上しヨコワ量産化への道筋を立てることができました。

また、完全養殖のクロマグロは冬場の低水温に弱く斃死(へいし)リスクが高くなります。このリスクを回避、分散させるため、2014年5月に沖縄県名護市にツナドリーム沖縄を設立しました。沖縄の海の高い水温を生かすことで生存率を高めるとともに稚魚の成長を促し、より大きなサイズまで育てたヨコワを販売できるようになりました。

また、継続育成(ヨコワを成魚サイズまで4年の歳月をかけて育成し、育成期間中の斃死率、給餌量、魚体重の増加スピードなどを把握、問題点を見つけ出し、種苗生産に生かすこと)で「カイゼン」を繰り返しながら成魚を養成しています。「長崎県の旨(うま)い本マグロまつり」品評会では、ツナドリーム五島で養成したクロマグロが、2018年度に続き、2019年度も「最優秀賞」を受賞し、史上初の2期連続受賞を達成しました。同品評会は、天然由来の養殖クロマグロと人工種苗の完全養殖クロマグロが混在した中で評価を受けるもので、水産研究の専門家・一般審査員の約30人が、刺し身の色合い・食感・味・見た目の鮮やかさを点数で評価し、各出品者がその合計点数を競い合います。2期連続受賞により、完全養殖クロマグロのおいしさが天然由来の養殖クロマグロに勝るとも劣らないということを証明できたと考えています。また、ツナドリーム五島とツナドリーム沖縄で養成されたクロマグロは「近大マグロ」ブランドの認定を近畿大学から受けており、完全養殖のコンセプトとブランドとしての希少価値、そしておいしさを評価いただいた国内外のお客さまに販売しています。

現在の課題は、養殖の現場で進行する高齢化、人手不足に備えた現場オペレーションの省力化および自動化、また、国内外でより多くの人々に完全養殖クロマグロを食してもらうために必要なコスト(生産原価・物流・輸送費)削減などです。課題解決と品質改善に向けたPDCAサイクルを現場のメンバー一丸となって回し続けています。


いけすから水揚げされる近大マグロ
(ツナドリーム五島)


長崎県クロマグロ品評会での
2期連続最優秀賞受賞のポスター


3.今後の方針と展望


現場オペレーションの改善、生産原価・物流・輸送費の削減を通じて完全養殖のための人工種苗の量産化をするためには、天然クロマグロよりも斃死率が低く成長が早いなど、養殖に適した系統(育種)を保有することが必要です。この育種を進めるために、養殖の最先端をいく近畿大学との共同研究による品質改善を今後も継続していきます。将来、自分の子供や孫がおすし屋に行った時に「マグロがない」と言われることがないように、この食文化を守ることがわれわれの使命と考え、持続可能な水産資源の確保に向け、環境に優しく、おいしいクロマグロ完全養殖事業をこれからも推し進めていきます。

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