ロンドンから展望する2020年欧州と世界の政治経済動向

伊藤忠商事株式会社 常務執行役員 欧州総支配人
アフリカブロック管掌
佐藤 浩
住友商事株式会社 理事、欧州住友商事会社 社長山名 宗
双日株式会社 執行役員 欧州・ロシアNIS総支配人高濱 悟
豊田通商株式会社 豊田通商U.K. 副社長岩田 毅
丸紅株式会社 欧州CIS統括補佐、丸紅欧州会社 取締役平野 智彦
三井物産株式会社 欧州三井物産株式会社

Executive Vice President & Executive Coordinator
羽白 剛
三菱商事株式会社 欧阿中東コーポレート事業支援室長福原 健太郎
一般社団法人日本貿易会 広報・CSRグループ統括主幹(司会)
横溝 博一

司会:本日は、日本貿易会月報の新春特集を飾る座談会のため、ロンドンに駐在され、欧州地域を担当されている商社幹部の方にお集まりいただいた。初の試みだが、「ロンドンから展望する2020年欧州と世界の政治経済動向」をテーマに、当地でビジネスに携わっておられる中で感じ、考えておられることなどを伺いたい。

1. Brexitについて


住友商事株式会社 理事、
欧州住友商事会社 社長
山名 宗 氏

1987年住友商事入社。2007年プラハ支店長、12年輸送機プロジェクト部長、14年食料部長、16年理事 食料事業本部長、18年より現職。

まずBrexitについて。英国では、2016年6月にEUからの離脱是非を問う国民投票が行われた結果、過半数が離脱を支持する結果となった。離脱の期限が設けられたが、延期が繰り返され、現在は2020年1月末が新たな期限として設定されている。一方で、総選挙が12月12日に行われることになり、合意をもったEU離脱か、合意なき離脱か、国民に信を問うて残留するか、混沌(こんとん)とした状況になっている。(事務局注釈:投開票の結果、Brexitを支持する与党・保守党が下院で単独過半数を獲得し、離脱へ動きだしている)

山名:EUと合意した内容でBrexitがなされるとしても、トランジションピリオド(移行期間)の中で、FTAも含めたその後のビジョンが合意されなければ、EUからエグジットすることにはならない。その期間が切れる2020年12月の末に(仮に同年6月末までに移行期間のさらなる延長が合意されていない場合)、あらためてノーディールの可能性を含めた議論が出てくる。英国民の間では、「Brexit fatigue」という言葉がはやっており、そろそろ方向を決めてほしいという思いもあるが、その状態はしばらく続く。

当社は2019年3月末のBrexitを想定して、アセスメントを繰り返してきた。人材確保の面はもちろん、通関の諸作業がどうなるか、在庫量がどうかといった物の動きへのインパクト、商品取引のライセンスはどうあるべきか、化学品でいえばREACH規制がどのような影響を受けるのかなど、さまざま調べた結果、いずれもマネジブルであるというのが結論だ。

むしろ懸念されるのは長期的かつ間接的なところ。具体的には、英国議会のアジェンダが、この3年半の間、Brexit一色になっており、国の将来を決定付けるようなアジェンダへの議論が尽くされないままとなっている。加えて、政党も国民も分断され、一体感が失われてしまった。英国に限らず、経済的につながりの強い大陸側でも似たような状況にある。


伊藤忠商事株式会社
常務執行役員 欧州総支配人
アフリカブロック管掌
佐藤 浩 氏

1984年伊藤忠商事入社、船舶部配属。94-2000年伊藤忠欧州会社(ロンドン)、15-19年執行役員 プラント・船舶・航空機部門長、19年4月より現職。

佐藤:山名さんが説明された通りだ。Brexitが起きたら拠点を移す考えはあるかという質問をたびたび受けるが、インパクトは限定的であると結論付けている。これは、商社のビジネスモデルが、以前はトレードが中心だったものが、現在は事業投資が中心になっていることが大きく影響している。実際、欧州でも国内向けの事業案件を英国中心に取り組んでおり、Brexitの影響を受けるクロスボーダートレードのボリュームは相対的に以前より減少した。

高濱:EUから離脱しても1年以内にFTAができるかどうかといった問題もあり、そのリスクは2020年末まで検証していかなければならない。英国がEUから離脱した場合、貿易面では関税や非関税障壁が発生する可能性があり、英国、EUの双方にとってダメージが大きい。一方、Brexitの動きの中で、ドイツ、オランダ、アイルランドなどは、企業の拠点変更や投融資計画の変更によって利益を得ており、そういった面もみていく必要がある。EU側からみると、英国はEU内で第2位の経済規模を誇り、第3位の人口規模も有しており、英国の影響力は極めて大きい。今後、EUは他地域とFTAなどの国際協定の交渉に当たり、バーゲニングパワーに影響が出る。また、英国は米国と独自の外交関係、防衛関係を築いているので、英国が離脱した後はEU側と米国の関係にも影響が出てくる。

岩田:Brexitの方向が確定しない状況が3年半続いているのは、英国にとっても、われわれ商社にとっても大変厳しい状況だ。私は英国の欧州における政治的、経済的な地位が少しずつ弱体化している感触を受けている。経済面では、目先の案件が決められずに、成長戦略が確立しづらいので頭を悩ましている。


双日株式会社
執行役員 欧州・ロシアNIS総支配人
高濱 悟 氏

1983年ニチメン入社。2005年双日ジェクト社長、09年鉱産部長、12年エネルギー・金属部門企画業務室長、13年執行役員、17年エネルギー本部長、18年より現職。

平野:私がBrexitの影響について懸念しているのは、英国の治安と景気。皆さんは、ジャック・ヒギンズという英国対アイルランドの紛争を題材にした小説を得意とする小説家をご存じだろうか。私がBrexitの当初から心配していたのは、この小説の背景になっているアイルランドとの国境問題のことである。英国がBrexitという形で押し切った場合に、北アイルランド、アイルランドの関係はどうなるのか、スコットランド独立の動きが出ないのか? シティのど真ん中で爆弾テロがある時代もあった。そのような治安の悪化がもし起こると景気にも影響を与えかねないと心配している。

羽白:皆さんがおっしゃったことに加え、英国の有しているポテンシャルの強さをみたとき、Brexitによって影響を受けないものもたくさんある。ファイナンシャルセンターとしての位置付けや英語の共通言語としての強みなどを考えた場合、即座に英国が経済力を弱めていくことはないと期待を込めて考えている。

福原:2020年は、Brexitへの対応よりも、先行きの不安が欧州全体の経済に与える影響を懸念している。特に世界経済の行方を占う上でも、米中の摩擦により世界経済が減速してきている中で、欧州経済が停滞するのは、インパクトとしては大きい。世界的な経済低迷に備える視点が必要だ。

2. 米中摩擦の行方と世界経済への影響


豊田通商株式会社
豊田通商U.K. 副社長
岩田 毅 氏

1982年豊田通商入社。99年にロンドンメタルエクスチェンジのブローカレッジ会社を設立。2004年東京金属グループ長、10年九州金属部長、12年九州支店長、17年より現職。

司会:世界経済にとって最大の問題は米中摩擦であり、それが貿易、投資にも影を落とす。2020年11月には米国大統領選挙もあり、結果は米欧関係にも影響してくる。米中摩擦の行方については、どうみているか。

佐藤:Brexitよりもはるかに世界経済への影響が大きいのはこの米中貿易摩擦だ。トランプ大統領は、貿易不均衡の是正、技術流出の防止の二つをテーマに掲げて実行しており、政権にとって非常に大きなサブジェクトとなっている。過去を振り返ってみると、米国は自国のGDPの60%に迫る国に対して対抗手段を講じてきた歴史がある。その意味でこの摩擦は一過性のものではなく、米国の長期的な覇権維持戦略だと思う。実際、貿易摩擦が米国と中国に与える影響力には段違いの差がある。関税引き上げ合戦の結果、米国経済への影響に比較し、中国経済が受ける影響は非常に大きい。関税引き上げを第3弾まで実施した結果、中国のGDPを0.3%押し下げ、第4弾まで実施した場合には0.54%押し下げるという検証結果もある。

ただ、トランプ大統領は2020年に大統領選挙を控えており、国内景気への影響を考慮して、2019年12月におそらく貿易協議第1弾の合意に至るだろう。この結果、一時期は休戦状態になるものの、大統領選挙以降も本件は大きなイシューとして継続していくであろう。トランプ大統領が再選されても、たとえ民主党候補が当選したとしても、基本的に貿易摩擦の流れは続いていくと予想する。


丸紅株式会社
欧州CIS統括補佐、
丸紅欧州会社 取締役
平野 智彦 氏

1986年丸紅入社。プラントビジネス営業に従事。モスクワ、カラカス(ベネズエラ会社副社長)駐在。2015年エネルギー・環境インフラ本部業務室長。18年より現職。

平野:デカップリングという言葉がある。米国側には、サプライチェーンから中国を切り離さなければ問題の根が解決しないと考える方がいる。逆に中国側も、一定水準まで譲歩する可能性があるが、簡単には引き下がれない。こうして問題は緩急はあっても、長引く可能性はある。冷戦時代と違い、日本を含めたアジア、欧州は米中の両方と経済的相互依存関係にあり、ビジネスの立場では摩擦を和らげてほしいとの思いがある。

岩田:中国が経済面の悪影響をとどめるために、貿易協議で米国と合意する、もしくは米国としてトランプ大統領の支持率が下がるのを避けるために、国内議論を棚上げする、この二つの可能性がある。一度それぞれの内政対応を優先して、貿易面ではいったん合意するかもしれないが、この覇権争いは長期化していく。大統領選挙の結果次第だが、野党や米国の民意として中国に強硬に対応する姿勢は変わらず、続いていく。この動きが世界各国のビジネスに悪影響を与えているのは明らかであり、中国に投資をしている欧州企業の動向についても注視していく必要がある。

司会:2020年の世界経済への影響についてはどうみているか。

羽白:EUの輸出入全体に占める米国の比率は、それぞれ約2割、中国の比率は輸出が10%、輸入が約14%であり、ナンバーワン、ナンバー2の経済大国による摩擦は、EUにとっても少なからず影響が出てくる。EUは日本と同様に米中対立の行方を見守っている状況だ。中国やロシアは、最近かなり態度を硬化させており、一触即発の事態が起こることも懸念する。平和な世界で自由貿易を追求することが、繁栄するための絶対条件である日本やEU、英国のような国々は、摩擦を解消してほしいと強く願っている。中国は資源多消費型経済の象徴的な存在で、エネルギーや金属資源に強みがある当社としては、国際消費市況を押し下げる圧力がかかっている状況を心配している。それがさらに下がり、さまざまな商品に対して波及していくことを懸念している。

高濱:先にIMFから発表された指標でみると、2019年の世界の経済成長率は3.0%で、前回4月よりも0.2%下がったが、2020年は3.4%に回復するとの見立てだ。米中の問題は、引き続き影響するが、2020年は若干小康状態に入り、米国経済は堅調に推移することから、この数字が出た。中国の成長鈍化は起きる一方、欧州をみると、ドイツの自動車産業は米国、中国においてOEM生産が多いので、この摩擦によりサプライチェーンが分断され、ドイツ経済への影響は大きい。中東欧諸国は自動車組み立てと輸出の依存度が高いので、ここにも影響してくる。ドイツ経済自体は、自動車の環境規制、伝統的な産業に依存している産業構造、デジタル化対応への遅れといった問題を抱え、欧州全体への波及リスクも大きい。

福原:中国の経済成長が落ち込むと、中国の国内政治に波及してくる側面がある。米中の関係にとどまらず、中国が、経済成長を維持するために、例えば中東や欧州などに対して戦略的に攻めていくか、これまでにない影響が出てくることにも注目したい。

佐藤:当社では2020年の景気見通しについて比較的明るいリポートが出ている。2019年はいったん減速するが、2019年12月の米中による貿易協議はある程度の合意をみるという視点に立って、2020年は前年比横ばい、2021年は回復基調に向かうというもの。

山名:懸念されるのは米中対立の影響が飛び火すること。実際、欧州に飛び火し、中東、イラン、ロシアもそうだが、分断の危機を招いてしまっている。一方でグローバル化によりサプライチェーンの相互依存度が高まってきたが、分断化が進行する中、企業が歩みを止めずについていけるのかが大きな課題になる。2020年あるいは、さらにその先に大きな影響が出てくるかもしれないと、身構えている。

3. 世界の政治・経済・企業活動に大きな影響を与える欧州発の環境対策

司会:環境問題に対する欧州の先進的な対応が世界の気候変動対応やビジネスにどのような影響を与えるか。

山名:環境というワードは、さまざまな面で、欧州のビジネスに大きなインパクトを与えつつある。欧州投資銀行(EIB) が化石燃料に関連する事業への融資を2022年以降停止すると発表して以来、金融機関全体が化石燃料を使った発電事業へのファイナンスなどに慎重になっており、欧州系の保険会社も付保に慎重な姿勢を見せている。一方で、ESG投資は、長期的にみると利回りが良いという発想で、欧州の投資家がポートフォリオへの組み込みを増やしている。また、欧州においては「環境」という視点が経営戦略立案に不可欠なものになっており、デファクトスタンダードのような形で、同視点を自社内に取り込んでいる企業も多い。私は、このような戦略を持つ企業を評価しており、事業パートナーとして組むことにより、日本を含む他の地域にも伝播(でんぱ)させていくことができると考えている。実際、すでに幾つかのプロジェクトは初期段階に入っている。

佐藤:私は2019年4月に赴任するまでプラント関係の事業に携わり、ある程度環境問題に対して意識していたが、こちらでは、一般の方々の環境意識が高く、それを後押しする政府の意識も高く、予想以上であった。環境は攻めと守りの両面で経営の中心に置くべき課題だと考えている。

岩田:欧州委員会では他地域に先駆けて自動車のCO2排出量を2021年に95g/km、2030年は66.5g/kmという規制を決定している。こうした流れは欧州発でアジアや新興国にも波及していく。規制対応のため自動車の電動化が加速するなど、従来のビジネスモデルが大きく構造変化していく可能性が高く、新素材や新しいスキームへの取り組みが重要と考えている。


三井物産株式会社
欧州三井物産株式会社
Executive Vice President & Executive Coordinator
羽白 剛 氏

1980年三井物産入社、エネルギー本部ガス炭素部ガス開発室配属。2001年アブダビ事務所長、12年エネルギー第二本部LNG第一部事業部長、天然ガス第二部長、13年三井物産人材開発代表取締役社長を経て18年より現職。

羽白:私もエネルギーがバックグラウンドで、LNG事業に携わっていたが、皆さんがおっしゃる通り、こちらに来てみて、環境への高い意識を持って従来のビジネスを見直していくべきだと強い思いを持った。例えば排出されるCO2を地中に戻したり、CO2からさらにエネルギーを生み出すといったことを積極的に考えていかなければ、LNGプロジェクトやLNG業界そのものの存亡にかかってくると強く感じている。

高濱:EUはそもそもEU企業の技術革新と産業の競争力の向上を目的に、EU基準の環境規制を国際化することを目指して取り組んできた。しかし、最近は各国の環境規制に求める水準が高くなり、政治、経済、ビジネスに影響を与えてきている。ビジネスチャンスを考えたときには、環境は産業の裾野が広く、影響力も大きいので、ドイツメーカーは環境規制の厳格化への対応を急いでいる。特に水素自動車や自動運転については、政府を挙げて取り組もうとしている。廃プラスチックリサイクル、バイオプラスチック、脱プラスチックなどが継続してビジネスチャンスを狙っていく分野であると考えている。例えば、当社では日系プラスチック包装資材を扱っており、これが多層構造で品質、耐久性などで単層構造より優れていることを利点としているが、リサイクルという点では単層の方が処理しやすい。今後のビジネスでは環境対応をいかに提案できるかが鍵になってくる。

羽白:当社の最近の事業としては、モビリティーという切り口からEVや電池を攻め筋としている。例えばポルトガルで電気バスを製造している企業と当社が提携し、フランス企業による電池システムをポルトガルに持っていき、それをロンドンに持ってくるという、実にEU的な仕事をしている。それらの取り組みを地球温暖化防止やサーキュラーエコノミーへの対応と位置付けて、ステップアップを図っている。環境負荷が高い事業には、将来的に貸し付けを受けることが難しくなると思われるので、自然破壊につながるのか、CO2はどのように使われているかなどを常に考えていかなければならない。われわれが強みだと考えていた既存のビジネスモデルが一気に陳腐化し、ネガティブなものにならないように注意をしていく必要がある。

4. 中東やアフリカに対する見方


三菱商事株式会社
欧阿中東コーポレート事業支援室長
福原 健太郎 氏

1990年三菱商事入社。97年米国三菱商事会社本店(在ニューヨーク)、2007年メタルワン出向、11年PT DIPO STARFINANCE出向(在ジャカルタ)副社長、16年地球環境・インフラ事業グループCEO オフィス人事担当、19年4月より現職。

司会:最後に、日本でも注目されている地域の動きのうち、中東については情勢が不安定化しているが、なぜこうした状況が起こり、今後どのように推移していくのか。欧州とも歴史的に関わりの深い中東に対する見方について、ご意見を伺いたい。

羽白:最近、米国にとりエネルギー供給源としての中東の位置付けが減退していると感じる。背景には、米国自身がシェールガス生産国となったために中東へのエネルギー依存度が低下しているためである。また、選挙対策の一環として親イスラエル的な政策を矢継ぎ早に打ち出している。そうした状況下、一企業として広範囲な国々と健全な経済関係を構築することによって、平和の源泉でもある互恵関係を強めることは、これまで以上に続けていきたい。中国や韓国のように積極的に進出してきている国々とは競争が激化しているので、日本そして商社がどういう役割を果たせるのかを強く考えている。イラン問題は注視している。

福原:中東地域では常に油価の変動、局地的なテロの発生がこれからも継続していくと認識している。特に湾岸情勢の悪化によって、油価の乱高下やホルムズ海峡の閉鎖という事態が起きれば、物流の混乱は商社の事業にとって影響が大きい。中東の情勢をどのように把握するかは非常に難しいが、イランとサウジアラビアの関係をベースに、イランと米国の関係、最近ではシリアの問題を巡るロシアの存在感、トルコとロシアなどがどのような影響力を増してくるのかに着目し、情勢を見極めていくことになる。

中東地域の魅力は、エネルギー資源の埋蔵量が圧倒的に多いことはもちろん、人口増加に伴って消費市場が拡大しており、今後さらなる人口増加が見込まれる、旺盛なインフラ事業もある。ポテンシャルの大きな市場であり、リスクを冷静に見極めつつ、積極的に取り組んでいきたい。

司会:アフリカも欧州との関係が深く、2019年8月には日本でTICAD7が開催された。アフリカについてどのような点に注目されておられるか。

福原:アフリカは多くの国で人口の増加が続き、また急速なIT化が進み、ネクストビリオンと呼ばれる巨大な中間層が出現していることが大きな要素である。一方で格差の拡大、それに伴う社会不安の発生リスク、ガバナンスにおける構造的・歴史的な課題があり、ビジネス環境を改善することはなかなか難しい。しかし、最後のフロンティアにチャレンジするのが基本的な姿勢だ。具体的には、分野を絞って戦略的に取り組む方が有効だ。特に欧州からみると、歴史的に知見豊富なパートナーと組んでビジネスを開発するのが効果的であり、この切り口で攻める。先進分野や技術的なイノベーション、もしくはビジネスモデルの実験場として、新しいビジネスをつくっていきたい。

山名:当社は資源開発やIPP事業などを行っているが、アフリカを市場としたビジネスはまだ限定的であり、成長の伸びしろを考えても、ぜひさらなる事業開発を進めていきたい。アフリカは一足飛びで最新の技術を採用する先進性があり、そこからフィンテックをはじめとするテックビジネスが生まれてきている。さらには欧州やシリコンバレーと異なる形のスタートアップ企業も存在している。欧米では、テクノロジーアウト型企業が多いのに対し、アフリカの場合は課題解決型企業が多い。われわれはそのような企業との共創・連携を深めることで、自身のビジネスモデルの変革も進めていきたい。アフリカに対しては、日本政府が「援助から投資へ軸足を移していく」と、今後の方針を打ち出していることも心強い。

岩田:アフリカは大きなポテンシャルがある市場だと捉えている。政情不安は存在するものの、安定的な部分も見えており、経済成長が見込まれる。その中でわれわれは、自動車分野、ヘルスケア分野、テクノロジー分野、消費財などの生活分野でそれぞれ投資や事業を展開している。

佐藤:アフリカはこれまで安価な労働力や資源を供給するサプライソースとしてみていたが、これからは消費市場としてもポテンシャルを持っており、注目している。商社の視点では、トレードから投資事業への転換を考えることになるが、投資案件に資金投入する場合には他地域とのプライオリティーの問題が出てくる。なかなか一企業として、資本効率の即効性が出難いこの市場へ積極的に踏み出していける環境にないことに所管する身としてジレンマを感じている。

羽白:当社は、地元の有力なパートナーと手を組んで、課題解決型の事業展開を通して、アフリカの底上げをお手伝いしたいと思っている。モロッコでは、現地企業のZalar社とブロイラー事業をはじめ、アフリカ全土で幅広く業務を展開しているETG社と提携し、農産物取引、資材販売、食品販売などを行っている。ロンドンに来て興味深いと思ったのは、アフリカの情報が豊富に集まっていること。英国は教育を受けるのに魅力的な国であり、アフリカの方たちが子女・子息を送り出し、卒業後も当地で就職するケースが少なくないことも背景にあるようだ。

司会:本日は長時間にわたりありがとうございました。

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