年頭所感

一般社団法人日本貿易会
住友商事株式会社 会長
中村 邦晴

新年あけましておめでとうございます。

昨年を振り返りますと、日本では皇位継承が行われ、平成から令和へと元号が変わりました。多くの国からの賓客を招き、厳かに執り行われた即位の礼は、長い歴史に支えられた日本の伝統文化を改めて海外の人々にも印象付けると同時に、新たな時代の幕開けを感じさせるものでした。

この節目の年に、G20、TICAD7など大きな国際行事が相次いで日本で開催され、議長国としての見事なリーダーシップで、その存在感を大いに示しただけでなく、通商貿易の面でも、TPP11、日EU EPAに続き、日米貿易協定、日米デジタル貿易協定も交渉を妥結させ、発効にこぎ着けるなど、日本政府の卓越したリーダーシップが光る1年でもありました。スポーツの世界でも、初のホスト国として開催したラグビーワールドカップでの日本代表の熱い戦いぶりが多くの人の心をつかみ、素晴らしい大会となったのも記憶に新しいところです。

ビジネスの世界におきましては、AIやIoTを使った技術の進歩が既存産業にさまざまな変革を促し、第4次産業革命とも呼ばれるビジネスモデルの変革が世界的に広がっています。新たな成長の芽が生まれる一方で、国際情勢は一段と厳しさを増したように感じます。米中貿易摩擦、英国のEU離脱、日韓問題など国際通商面での不透明性・不確実性が増し、経済の先行き不安が企業活動にとって引き続き重しとなりました。年末には、ようやく米中両国間で歩み寄りが見られたこと、また英国選挙の結果、EU離脱を巡る目先の不透明感が後退したものの、いずれもまだまだ予断を許さないとみています。

さて、本年は、秋に米国大統領選挙が予定されていますが、選挙結果いかんにかかわらず、貿易から安全保障分野への広がりを見せる米中二つの経済大国の対立が続くであろうことは、衆目の一致するところであります。米中対立は、既に貿易摩擦から別次元に展開しつつあり、世界に延びるサプライチェーンに影響を与え、世界経済に影を落とし始めています。政治が経済に及ぼす悪影響をミニマイズさせることで世界経済の変調懸念を緩和することを願っています。また、米国大統領選挙は、日米関係のみならず中東や東アジアの地政学的リスクや、G7の結束、さらには世界の政治経済にも大きな影響を及ぼします。しかし、米中対立や米国大統領選挙がどのような展開になろうとも、日本としてはルールに基づいた自由で公正な貿易・投資、ならびにデータ流通を広げるための努力を地道に継続していかねばなりません。当面は、昨年に合意寸前まできたRCEPが、インドを含んだ形で妥結し、アジアに世界最大規模の自由貿易圏が誕生することを心から願っています。

自由貿易協定の拡大と並行して、日本企業の自由で公正な貿易・投資活動を支える制度インフラの整備も大変重要です。当会がかねてより要望してきた日中社会保障協定が発効したことは大変喜ばしいことです。日本貿易会では、引き続き、内外税制の適正化、社会保障協定や投資協定の締結促進、物流の効率化、安全保障貿易管理などにつきまして業界内の意見をとりまとめ、政府および関係機関に対して発信を続けてまいります。

昨今、国際機関・各国政府・企業が一丸となって取り組むSDGsの大きな潮流の中、課題解決に向けた企業のコミットメントが改めて大きく問われています。SDGsが提唱する17のゴールは、商社の幅広いビジネス領域とも親和性が高く、日本貿易会では、現在、「SDGsの達成に向けた商社の取組み」をテーマとする特別研究事業を開始し、会員商社における取り組みを一層加速するための施策の検討や、取り組み事例の収集などを進めています。また、地球環境問題についても、最重要かつ次世代以降に及ぶ長期的な課題と捉え、会員各社の事業活動を通じて、低炭素社会の構築、エネルギー、水ならびに資源のサステナブルな活用、生物多様性の保全といったさまざまなテーマに取り組み、社会・経済の発展と地球環境の保全が両立した「持続可能な発展」の実現を目指しているところであります。日本貿易会では、これらの活動を通じ、豊かな世界の実現に貢献できるよう努めてまいります。

最近、国内の地方都市を訪問するたびに頻繁に耳にするのが、人材不足に悩む地方の中小企業経営者の皆さんの声です。そこで本年も、引き続き注力したいのが国際社会貢献センター(ABIC)の活動の拡充です。ABICは日本貿易会が設立し、支援を続けているNPO団体で、本年に20周年を迎えます。ABICには、商社OB・OGを中心とする3,000人近い活動会員が登録し、長年培ってきたグローバルなビジネススキルを活かし、社会のさまざまなニーズに応えています。まさに高度人材の宝庫であり、これまでも事業継承や人材不足に悩む地方の中小企業に対する経営アドバイザーや、海外展開のための海外要員の紹介、日本に居住する外国人の日本語教育などで数多くの実績を上げてきています。また、新たな取り組みとして、日本商工会議所と連携し、主要会合でABICの説明の機会をいただいたり、地方商工会議所やその会員企業のニーズをABICにつなげる仕組みを構築していただいたりしています。「70歳までの就業機会確保」という政府指針にも合致し、地方活性化にも資するABICの活動をより多くの人に知っていただき、活躍の場を一層広げていきたいと考えております。

日本貿易会のキャッチフレーズは「未来をカタチに 豊かな世界へ 日本貿易会」です。さまざまな新技術、新ビジネスを社会に送り出し、カタチにすることで、まだ誰も見たことも経験したこともない未来を目に見える形で実現させて豊かな社会づくりに貢献したいという、商社業界の思いを込めたものです。2020年のわれわれの活動が、微力ながら、この思いの実現に向けた一歩となれば幸いです。

本年はいよいよオリンピック・パラリンピックイヤーです。数多くの感動と記憶に残る瞬間を皆さまと共に分かち合える祭典となることを期待するとともに、本年が皆さまにとりまして、実り多き年になりますよう、心からお祈り申し上げます。

年頭所感 誌面のダウンロードはこちら