年頭所感

一般社団法人日本貿易会
住友商事株式会社 会長
中村 邦晴

新年あけましておめでとうございます。

さて、2018年を振り返りますと、年初こそ「適温経済」などという楽観的な見通しもありましたが、時間がたつにつれ、不確実性の強まりを実感した一年であったように思います。年末の株価急落などに見られる金融市場の混乱などを受けて、世界の経済活動は今後鈍化するとの見通しがやや支配的となってきました。

一方、私たちを取り巻く貿易・投資環境ですが、貿易摩擦の拡大、米中の対立先鋭化は長期化の様相を呈しています。反グローバル化や、保護主義的な動きの広まりの中で、2018年12月30日にTPP11(CPTPP)が発効しました。米国の離脱で一時は先行きが危ぶまれましたが、参加各国の合意を取り付け、短期間で発効までこぎ着けることができたのは、ひとえにわが国のリーダーシップによるものであり、快挙です。2019年2月1日に発効する日EU EPAも含め、多国間の自由な貿易・投資を推進する枠組みを拡大することは、大変意義深いことです。RCEPも2019年内の合意を目指し交渉が佳境に入る中、日本が引き続き旗振り役として活躍することを、世界の多くの人々が切望しています。

戦後、世界経済が拡大し、多くの国々に豊かさが実現してきましたのは、自由で公正な貿易や投資のルールが確立され、経済交流・相互依存が飛躍的に拡大したためで、この価値を今こそ世界に広めていく必要があります。日本貿易会では、引き続き他団体とも協力して、経済連携推進に向けた提言や、投資協定、社会保障協定の締結促進、さらには国際課税に関する要望など、自由で公正な貿易・投資環境の整備や、それを担う企業が自由に活動するための制度・環境の整備に取り組んでいきます。

政治・経済面での不確実性が強まる一方で、「第4次産業革命」と呼ばれるほどのインパクトを持った新たな成長の芽が生まれています。AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)など革新的なデジタル技術の活用により、既存ビジネスにおける新たな価値の創造や、新たなビジネスの創出につなげる動きです。既に、自動車産業では、CASE、すなわち、コネクテッド、自動運転、シェア、EVという新しいコンセプトが浸透しつつあるように、他業種から参入が相次いでおり、産業、企業がクロスオーバーする大変革、ゲームチェンジが起きています。今後も、デジタル技術を用いて新たな付加価値を生み出せるよう従来のビジネスや組織を変革するデジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation:DX)は、既存の組織や産業の枠を超えたイノベーションを加速し、新たな成長の原動力となると期待されています。

私が日本貿易会会長就任に当たって、掲げたキャッチフレーズ、「未来をカタチに 豊かな世界へ 日本貿易会」もこのような時代の変化を意識したものです。時代のニーズを的確に捉え、ビジネスモデルをさらに進化させることで、まだ誰も見たことも、経験したこともない、持続可能で豊かな世界を、目に見えるカタチで実現したい。そのような思いを込めました。

急速に進む少子高齢化により、かつてない高齢化社会を迎えつつあるわが国は、労働力不足などの固有の課題を抱えており、また世界的な環境問題への対応も迫られており、これら山積みの課題を避けて通ることはできません。IoTやAIをはじめとした革新的技術を活用し、直面する諸課題の複合的な解決を図ることで経済の活力を維持・強化することは社会的な要請でもあり、今こそわれわれの知恵を結集しなければなりません。

社会的要請への対応という視点からは、4月にスタートする特別研究事業において、「SDGsの実現に向けた商社の取り組み」を取り上げます。SDGsが定める目標は、商社の活動とも親和性が高く、これらを念頭に置き、商社機能をフルに発揮し、新たな価値創造を通じて、持続可能で豊かな社会を「カタチに」していけると考えています。

国際社会貢献センター(ABIC)の活動も強化していきます。ABICは日本貿易会が2000年に設立した社会貢献団体で、国内外でのさまざまなビジネス経験や人脈を持つ企業のOB・OG人材が3,000人近く登録されています。政府機関・地方自治体・中小企業への支援や、在日留学生・大学・小中高の学校での講義などの活動を一層拡大させていきます。

2019年は日本では国際的な行事が相次いで開催される予定となっており、各国首脳はじめ多数の外国人が訪日する年になることは間違いありません。主要な行事だけでも、6月にG20サミット、8月に第7回アフリカ開発会議(TICAD7)、9−11月にかけてはラグビーワールドカップ2019日本大会、10月には新天皇の即位を国内外に伝える「即位礼正殿の儀」(即位の礼)が取り行われます。日本は、長期安定政権の下、社会が安定し、企業業績も堅調で、世界でも際立った存在になっています。2019年は日本がその存在感をより一層世界に示すことができる年となるように期待しています。

2019年も、日本貿易会は、わが国貿易および貿易業界の健全な発展のために、あらゆる機会を捉えて情報発信を行い、日本のみならず、世界の繁栄に貢献できるよう、積極的に活動していきますので、引き続き皆さまのご支援をよろしくお願いします。

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