丸紅の地方マーケティング支援

長野県 総務部長小林 透
長野県 信州マーケティング戦略担当参与
(丸紅株式会社より出向中)
杉本 隆宏

長野県 総務部長 小林 透


長野県 総務部長小林 透

長野県 総務部長
小林 透


1.長野県にとっての「地方創生」

長野県は、いわゆる日本アルプスをはじめとする自然に恵まれ、暮らしやすく、観光などで訪れても魅力的な土地です。住み心地の良さは、平均寿命にも表れており、平成27年の国勢調査でも、長野県は男性が81.75歳(全国2位)、女性が87.67歳(全国1位)と、全都道府県の中で常に上位にランクインしています。保健補導員の制度を全国で初めて取り入れたのは長野県須坂市ですが、こうした地域を支えるボランティア的な、県民同士の絆や助け合いの心が長寿を支え、生きがいづくりにつながっているのではないかと思います。

全国的に人口が減少傾向にありますが、その点では長野県も例外ではなく、中山間地域などにおいて人口流出・減少といった傾向が認められます。しかしながら、長野県は12年連続で、「移住したい都道府県」の1位にもランクインしていることからも、魅力ある地域と認められているものと思いますので、先ほど申し上げた、恵まれた自然を生かして、住んでもよく、また訪れてもよい県を「地方創生」のテーマとして、地域づくりや情報発信に取り組んでいきたいと考えています。

2.長野県の国内外とのさまざまなつながり

1998年に開催された長野冬季オリンピック・パラリンピックは、日本で初めてまさに地方都市が主体となって開催したオリンピックといわれています。また、オリンピックにおける「一校一国運動」、参加各国の選手などに対して、開催地の学校がいろいろなお手伝いをしながら交流を深めるという取り組みも、この時の長野県からスタートしたものです。長野県はスキーがとても盛んな土地で、雪質も良いため、この冬も海外から多数のスキーヤーが訪れています。また、長野県山ノ内町の地獄谷野猿公苑温泉で野生の猿が温泉に入る様子を見られる「スノーモンキー」も、外国人観光客を中心に大変な人気です。

このような海外とのつながりは、文化的・観光的な側面に限らず、経済活動においても見ることができます。長野県産というと野菜、果物など農作物のイメージが強いかもしれませんが、精密機械工業や電子産業が集積している土地でもあり、長野県から海外向けに輸出される電子、情報など製造業の輸出額は小さくありません。特にプリンター機器等は、輸出品の中でも大きなボリュームを占めています。

ひと昔前は、長野県は海に面していないため、産業立地上、海外とのつながりという面で不利な印象を与えていたかもしれませんが、現在は、北陸新幹線が開通し、高速交通網が整備されましたし、インターネットなど通信インフラの発展もあり、日本列島の中心に位置している地理的条件が強みとなり、首都圏のみならず、関西圏、名古屋圏、あるいは北陸圏のいずれの地域からも、長野県にアクセスしやすいというメリットが活かされる時代が訪れつつあるのではないかと思います。

また、2018年4月には、長野県立大学が開学する予定です。この大学は在学中の海外留学を必須とするなど、グローバル化に対応できる人材育成にも注力する予定ですので、今後の長野の国際交流を担う人材を育成できればと考えています。


地獄谷野猿公苑温泉に浸かる野生の猿

地獄谷野猿公苑温泉に浸かる野生の猿


冬の魅力を伝えるポスター

冬の魅力を伝えるポスター


3.地域経済活性化に向けた商社との連携

ものづくりは長野県経済を支える基盤でありますので、それをどのように拡大していくか、ということを考える上で、まずは市場で売れるものをいかに生み出していくかがポイントだと考えています。その上で、製造業に加え、例えば、レタス、リンゴ等の農作物やそれに関連した加工品をどうやって売っていくのか、県内産業を支援する行政としても頭を悩ませてきました。そうした中で、マーケットに精通し、第一線での経験豊富な方による助言も得ながら、さらなる付加価値を生み出すことや販路拡大の方策を練ることが必要であろうという考えに至りました。

今回、丸紅株式会社のご協力により商社マンとして第一線で活躍されている杉本氏を信州マーケティング戦略担当参与としてお迎えして、県産品マーケティングの在り方を検討することとなりました。それに加え、長野県では、東京・銀座に「銀座NAGANO しあわせ信州シェアスペース」というアンテナショップを併設した総合活動拠点を設置し、県産品の販売の他、各種イベントの実施や観光情報の提供、移住に関するご相談なども受け付けています。名古屋、大阪にもPR拠点としての事務所を設けていますが、こうした場所を今後どのように活かしていくか、そこでどのような商品を売り込むのがよいか、という観点からも、杉本氏の助言をいただいているところです。

また、中山間地には小規模な農家が多く、これまでも直売所を通じた販売にも取り組んでいますが、一軒の農家で生産できる数は限られます。こうした農家の生産を集約させて、県民の皆さんや県内施設などに直接販売できる物流網を構築するようなことができればとも思っています。長野県庁内には、残念ながら実際の小売り、卸売りといった物流の実務に精通した人材は少なく、そうした分野についても、商社のノウハウをぜひ共有させていただければありがたいと考えています。

長野県 信州マーケティング戦略担当参与(丸紅株式会社より出向中) 杉本 隆宏


長野県 信州マーケティング戦略担当参与(丸紅株式会社より出向中)杉本 隆宏

長野県 信州マーケティング戦略担当参与
(丸紅株式会社より出向中)
杉本 隆宏


1.商社による地方マーケティング支援

私は丸紅に入社して25年になりますが、これまで繊維を7年、食品を16年、直近では穀物を2年、担当してきました。特に16年、食品流通の仕事に携わってきたのですが、2016年に長野県がマーケティングのアドバイザーを求めているという相談が当社にあり、そのお話を聞いた時、自分がこれまで経験してきたことを活かせる仕事でないかと考え、手を挙げました。

県庁での仕事は、直接、県産品の販売に従事するというよりも、県産品の拡販のためのいるところです。また、中山間地には小規模な農家が多く、これまでも直売所を通じた販売にも取り組んでいますが、一軒の農家で生産できる数は限られます。こうした農家の生産を集約させて、県民の皆さんや県内施設などに直接販売できる物流網を構築するようなことができればとも思っています。長野県庁内には、残念ながら実際の小売り、卸売りといった物流の実務に精通した人材は少なく、そうした分野についても、商社のノウハウをぜひ共有させていただければありがたいと考えています。プラットフォームをどのように構築するか、という仕組みづくりが中心です。商社、とりわけ丸紅のような総合商社の場合、通常、取り扱う商品のボリュームを求めがちですが、一方、県産品の拡販となると、少し事情が違います。また昨今の消費者ニーズはより細分化され、求められる商品も地域性が重視されており、店舗の仕入れにおいても、多様なニーズにいかに応えるかという課題を抱えていると考えています。その意味では、「こだわりや希少性をいかにお客さまに認めていただき、付加価値を理解いただきながら販売していくか」という視点が重要になるのが、県産品の拡販であろうと考えています。

2.長野県産品の国内外での拡販について


銀座NAGANO外観

銀座NAGANO外観


銀座NAGANO店内

銀座NAGANO店内


小林総務部長からもお話がありましたが、長野県は銀座に首都圏総合活動拠点を設け、そこからさまざまな情報発信を行っています。現在では、長野県内の約300社の事業者様より商品を供給いただき、常時約800種類に及ぶ商品を販売しています。長野県は、国内では、野菜、家禽(かきん)類、果樹類およびその加工品等を、首都圏をはじめとして各地に出荷していますが、他方、今後は輸出にも注力していくつもりです。

日本全国の食品輸出は全体で約8,000億円、2019年に1兆円を目指すといわれますが、そのうち、長野県からの輸出額は現状35億円程度と、まだまだ規模的には大きくありません。こうした状況を改善させるため、長野県は2022年までに輸出額を90億円にまで拡大させる目標を掲げています。そのため、アセアン諸国などにおいても展示会等のイベントに積極的に参加し、県産品の品質の良さなどの売り込みを行っています。

3.県産品拡販のための「仕組みづくり」に向けて

県産品拡販の活動は、商社の活動の原点とも呼べるものに似ています。つまり、ものを売るということを地道に行うために、そのサポート体制を整えること、つまり「仕組みづくり」が求められていると考えています。しかも、その仕組みは、短期的なものではなく、長期的に利用されるものである必要があります。日本全体の人口が減少傾向にある中、これまでのように大量の商品を販売するというよりも、こだわりの商品をいかに確実に販売するかということが大切になっており、県庁においても、さまざまな部局の方とチームを組みながら活動しています。

私の任期は2019年3月末までですが、長野県の魅力的な県産品の拡販に向け、また、「信州ブランド」の認知度向上に向けて、引き続き貢献できればと思っています。(聞き手:広報・調査グループ 石塚哲也)

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