阪和興業が手掛ける水産品の海外輸出支援 ~阿部長商店との連携~

阪和興業株式会社
食品第一部 国際事業課 課長
松崎 康志

地域経済をけん引する阿部長商店と水産品輸出


阿部長商店は、宮城県気仙沼市を中心に、水産加工業の他、観光事業にも参画する地域経済をけん引する企業として知られます。2011年の東日本大震災発生時には、工場が津波で大きな被害に見舞われましたが、現在は震災前の操業水準に回復し、さらに国内市場だけでなく、海外市場への売り込みにも意欲的です。

当社と阿部長商店との関係は、東北近海で水揚げされる鯖(さば)の輸出の検討に当たり、阿部長商店の阿部社長が当社にご相談にこられた2005年ごろにさかのぼります。実は、ひと昔前には、鯖は、日本国内では主に輸入商品として見なされ、輸出商品とは考えられていませんでした。鯖の需要が旺盛なアフリカ諸国においても、脂の乗った欧州産の鯖が高価ではあるものの高級品として優位性があり、そこに日本産の鯖が入り込む余地はありませんでした。しかし、人口増と経済成長により、一般庶民の間にも鯖に対する需要が高まっているアフリカ諸国において、品質と価格に照らして日本産の鯖に対する評価が高まっています。

2011年に発生した東日本大震災発生後、放射能汚染を懸念する輸入国側の規制により鯖の輸出量は大きく減少しましたが、阿部長商店としては、新たな市場開拓の戦略として、青森、岩手、宮城県の水産各社と連携して「SANRIKUブランド」を立ち上げるなど、本格的な海外展開の検討を始めました。自前のブランドを育て、主体的に拡販したいという思いを強くお持ちではあるものの、輸出においては販売ネットワークを構築することが不可欠です。そこで、当社が持つ販売ネットワークを活かして海外での拡販のお手伝いをさせていただいているところです。

2.水産品の海外拡販における課題と商社の役割

ところで、水産品の輸出には、原料としての輸出と、加工品としての輸出に大別されます。原料としての輸出については、鯖の他、帆立(ほたて)、鰹(かつお)・鮪(まぐろ)類、鰯(いわし)が主な輸出品です。他方、加工品については、食の安全に関する規制が

各国によって異なり、とりわけ欧州では厳しい規格に適合させる必要があり、輸出のハードルは高いと考えられます。各国においてルールは異なりますが、まず原料から加工に至るまでの食の安全性を高める工程管理として国際的に推奨されているシステム(HACCP)に基づく工場であることの登録が必要です。

その際、使用可能な添加物規制にも対応する必要があります。また、環境保全に配慮した漁業方法による水産品であることを証明する「MSC認証」取得の他、漁獲までさかのぼった「トレーサビリティ」(漁獲から加工に至る流通過程における追跡可能性)を目的とした漁獲証明書の取得も必要になります。

そのため、水産業界団体である大日本水産会等が業界関係者向けに情報提供を行っている他、当社も関係各所との連携によるHACCP施設登録の取得、当社品質管理室との連携による、使用可能な添加物に関する情報共有の他、MSC認証、漁獲証明書の取得等のお手伝いをさせていただいています。

水産品の輸出において、こうしたさまざまな対策を各地の水産会社と一緒になって検討することも、商社が担う重要な仕事であると考えています。


阿部長商店本社工場

阿部長商店本社工場


気仙沼港での水揚げの様子

気仙沼港での水揚げの様子


3.水産品輸出支援を通じた地域経済活性化に向けて

現在は、東北を含め、各地の鯖の輸出の他、九州産の鰤(ぶり)、北海道・青森産の帆立の輸出についても、当社がお手伝いをさせていただいています。

日本国内では人口が減少傾向にあるのに対して、世界全体ではむしろ増加傾向にあります。地域で見ればアフリカ諸国において、宗教で見ればイスラム教徒の人口増が著しい状況が見てとれます。当社としては長期的な視野に立ち、こうした成長市場向けに水産品の市場開拓、輸出拡大を進めていきたいと考えています。

当社としては、日本の水産品が売れる市場を増やしていくことが、日本の漁業振興にもつながると捉え、世界各地で何が求められているのかというニーズを把握して、日本産の水産品の安全性・安心をPRしながら輸出拡大に寄与したいと考えています。

他方、環境配慮型の漁業や食の安全性を伴う工程システムの確立等、海外市場参入に向けたハードルは高くなっており、各地の水産会社にとっても、輸出関連業務の負担は増加しています。水産業は、各地の雇用創出、地域経済の成長に貢献する主要産業の一つであることから、各地の水産会社の輸出支援に協力することを通じて、地域経済活性化、ひいては地方創生に引き続き貢献したいと考えています。(聞き手:広報・調査グループ 石塚哲也)

株式会社阿部長商店

東北三陸地域で国内外向けに水産加工品を製造・出荷する他、観光事業にも力を入れるなど多角的な事業を展開中。東日本大震災発生時には、宿泊施設を開放し、宿泊客350 人に加え、600人もの被災者を受け入れたことでも知られる。

所在地宮城県気仙沼市内の脇2丁目133 番地3
設立1968年
資本金5,000万円
従業員数659人

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