インドシナ諸国と日本との経済関係強化に向けて

経済産業省 通商政策局アジア大洋州課長
岩田 泰

※本稿では、「インドシナ諸国」のことを「メコン諸国」と記載します。

メコン諸国の現状、最近の政府の取り組み紹介

メコン川流域に位置するメコン諸国は、日本企業が古くから活動しているタイに加え、豊富な天然資源・労働力を有するカンボジア、ラオス、ミャンマーおよびベトナムが 1990年代にアセアン加盟したこともあり、日本企業の熱い視線を浴びています。この地域の重要性を踏まえ、2009年より日メコン首脳会合と共に日メコン経済大臣会合が設置され、この地域で活動を行う日本とメコン諸国の産業界を巻き込み、官民を挙げた経済協力を本格的に開始しました。特に、2012年の首脳会合では「日メコン協力のための東京戦略2012」が採択されたことを受け、同年の経済大臣会合にて、優先的に取り組むソフト・ハードインフラ案件の実施主体やスケジュールを明確にした「メコン開発ロードマップ」が策定されました。結果として、ハードおよびソフトインフラの結合が進んだこともあり、2013年には日本からのメコン諸国への投資額は 13,476億円(注 1)と、中国への8,870億円(注 1)を大きく上回るまでとなり、日本にとって、メコン諸国は今や中国をしのぐ最重要投資先となっています。



また、2015年の経済大臣会合では、同年の首脳会合にて採択された「日・メコン協力のための新東京戦略 2015」の経済分野に関し、メコン諸国が生産・輸出拠点としてだけでなく、消費市場としても伸びてきている点、また、タイに進出した日系企業を中心に、「タイ+ 1」の動きが出現し、カンボジア、ラオス、ミャンマーが工業化の黎れい明めい期となっている点に着目し、各国が強みのある産業を中心に力を入れる一方で、互いの国を補完し、地域一体かつ持続的な発展を目指す「Specialization & Collaboration」というコンセプトを掲げた「メコン産業開発ビジョン」を策定しました。本ビジョンの実現により、中国、インド、ASEAN諸国と隣接するという地域特性から、これら周辺諸国の成長をも取り込みながら、アジア、さらには世界のバリューチェーンの中核となるという絵姿を示し、本地域において、2020年までの 5年間で約 200億ドル(同地域の GDPの2%相当)の押し上げを見込んでいます。この本地域における経済成長に必要なハード・ソフトを含む総合的な産業政策である同ビジョンを実現させるため、翌 2016年の同会合では、具体的な支援取り組みをまとめた「ワーク・プログラム」を策定し、2017年の会合では同ビジョンの進捗を確認し、状況を分析した上で各国に対する政策提言を行うことで、官民を挙げたさらなる経済発展の寄与に貢献する予定にしています。

(注1)日本銀行 対外・対内直接投資(地域別かつ業種別、暦年計):
http://www.boj.or.jp/statistics/br/bop/diri13cy.pdf

メコン諸国における具体的な取り組み(ハード面)


ティラワSEZ開発の覚書署名式
提供:Myanmar Japan Thilawa Development Ltd.(MJTD)

メコン諸国における近年の急速な経済発展は、海外直接投資が寄与しております。人口ボーナスの恩恵やインフラ整備を背景に、近年急速に拡大しました。しかし、多くのメコン諸国では、外資が活動するための産業インフラが十分には整備されておらず、発展のポテンシャルを活かしきれていません。この動きを支援するための日本政府の一つの取り組みとして、ミャンマーにおいて外資を中心とした産業集積を形成するための大規模工業団地プロジェクト「ティラワ経済特別区(SEZ)」をご紹介します。電力・水・交通などの基幹インフラが十分に整備されていないミャンマーにとって、産業集積を形成するためには、国際水準を満たす基幹インフラを備えた工業団地が必須です。「ティラワ経済特別区」は、ミャンマー「初」の経済特別区で、インフラのみならずワンストップサービスセンターの設置等によるソフト面のサービスも充実した工業団地として、既に、日本、米国、タイ、シンガポール等の企業 78社(2017年 1月現在)が予約契約を締結しております。ティラワ工業団地を出発点としてミャンマーの経済成長をけん引する産業集積が形成されていくことが期待されています。


ネアックルン橋(つばさ橋)

また、メコン諸国は陸続きであり、かつ、各国毎に生産要素が偏在して存在しているという特徴を活かして、各国間のコネクティビティを強化し、地域全体のサプライチェーンを構築することも産業発展のためには欠かせません。そのため、メコン諸国では幾つもの経済回廊整備が進められています。中でも、ベトナムのホーチミンからカンボジアのプノンペン、タイのバンコクを通り、ミャンマーのダウェーにつながる南部経済回廊は、日本企業にとっても関心の高い回廊です。しかし、メコン諸国を流れるメコン川が物流面で大きな障害となっていたことから、日本政府は 2015年に無償資金協力でカンボジア最大級となるネアックルン橋(愛称:つばさ橋)を整備し、南部経済回廊のコネクティビティを飛躍的に向上させました。つばさ橋は、カンボジアの500リエル札にも描かれており、南部経済回廊はメコン経済圏一帯の経済発展に貢献すると期待されています。

メコン諸国における具体的な取り組み(ソフト面)

ハード面の整備と合わせて、産業人材育成等のソフト面の支援を進めることも、経済発展を進める上では不可欠です。海外からの直接投資を増やすためにも、労働者のスキル向上による生産性や品質面の向上が必要だからです。2015年、安倍首相は「産業人材育成協力イニシアティブ」(注 2)を打ち出し、アジア地域において今後 3年間で 4万人の産業人材育成支援を実施することを表明しました。これに基づき日本政府は、企業の寄付講座開設、大学間の共同研究、日本の高専型教育の展開等や、産業人材の底上げのため、基礎教育の拡充、産業政策の策定を担う行政官の育成、第1次産業の担い手の育成等も実施しています。メコン諸国でも、タイの泰日工業大学におけるものづくり教育への協力や、ベトナム日本人材協力センター・ビジネス人材育成プロジェクトへの協力を通じた経営者人材の育成等を図っているところです。

また、日本企業は、これまで輸出拠点としての魅力を感じてメコン諸国に進出してきましたが、これからは急速に拡大する国内市場にもビジネスチャンスが生まれてきます。日本とアセアンとが協力して、この新たに生まれる国内市場を発展させるべく、経済産業省では 2016年から新産業育成の取り組みを進めております。2016年の日アセアン経済大臣会合では、世耕経済産業大臣が日本企業とアセアン企業とのアライアンスを進めるための「日 ASEANイノベーションネットワーク」の立ち上げを表明しました。現在、立ち上げに向けた準備を進めているところですが、タイでは先行的に「日タイイノベーションサポートネットワーク」が設立され、日タイ企業の連携円滑化に向けたサポートや、新産業連携・スタートアップ振興のためのタイ政府への政策提言とりまとめ等を行っているところです。今後、ファンドや金融機関も巻き込みながら、日本とアセアンのスタートアップ企業が共に成長する取り組みにしていきたいと考えています。

(注2)産業人材育成協力イ二シアティブ :
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000112832.pdf

おわりに

メコン諸国を含むアセアン地域は、2015年にアセアン経済共同体(AEC)を発足させ、アセアン域内物品、サービス、投資分野の自由化を進めています。AECの発足は、アセアンの経済成長をさらに進めると世界中から注目されており、人口減少時代に突入した日本にとっては、豊富な労働力を有するアセアンの成長を日本の発展にうまくつなげていく必要があると考えています。そのためには、さまざまな協力を有機的に実施していくことが重要です。メコン諸国が、各国の強みを伸ばしつつ相互に補完しあうことにより、持続的で底堅い経済成長を実現できるよう、二国間協力や日メコン協力の枠組みを活用しつつ、引き続き取り組んで参ります。

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