未来をカタチに 豊かな世界へ 日本貿易会 -Shaping the future toward a prosperous world-

日本貿易会会長(住友商事株式会社)
中村 邦晴

5月31日開催の定時総会で日本貿易会会長に就任した住友商事株式会社 中村邦晴会長に、抱負やキャッチフレーズに込めた思いなどを当会 河津司専務理事が聞きました。


第12代日本貿易会会長に就任されましたが、現在の心境と会長としての抱負をお聞かせください。


日本貿易会は、昨年(2017年)創立70周年を迎えた伝統ある団体で、会員商社の立場からみれば、商社の発展の歴史を共に歩んできた大切なパートナーです。日本の政財界においても、非常に大きな存在感を持っています。その会長をお引き受けすることは大変な名誉であり、同時に責任の重大さをひしひしと感じています。

住友商事の社長に就任した2012年から副会長として当会の活動に関わってきましたが、日銀総裁や経済産業大臣、東京都知事他、第一線でご活躍のリーダーに常任理事会にお越しいただいて意見交換ができる。そんな団体はなかなかありません。このステータスを生かし、経団連や経済同友会、日本商工会議所など他の経済団体とも広く連携して、商社業界の利益のみならず、日本経済の発展のために、精いっぱい努力していきたいと思っています。

日本貿易会の歴代会長は、活動方針を分かりやすいキャッチフレーズにしています。中村会長は新キャッチフレーズを「未来をカタチに 豊かな世界へ 日本貿易会」と定められましたが、今回の新キャッチフレーズに込められた思いはどのようなものですか。

グローバリゼーションの急速な進展は、世界経済の発展に大きく寄与してきましたが、一方で、地球規模の課題も少なからず生まれています。国連はこうした地球規模の課題を17にまとめて、2015年の国連総会で「持続可能な開発目標(SDGs)」として採択し、2030年までにこれらを解決しようと呼び掛けました。これは各国政府や援助機関任せではできず、解決をする役割は政府も、NGOも、そして企業も担っていかなければならないという考え方です。商社は、世界のあらゆる地域、あらゆる産業分野で活動していますので、産業界の先頭に立って、課題解決に貢献していくことができますし、その必要があると考えます。

こうした地球規模の課題を解決していくことで、まだ誰も見たことも経験したこともない未来を、目に見えるカタチで実現していきたい。一度に全てというわけにはなかなかいきませんが、一つでも、二つでもカタチにできれば、それが物質的な豊かさ、心の豊かさなど、いろいろな豊かさの実現につながります。そうした豊かな世界づくりに、日本貿易会として貢献していきたいという思いを込めました。

具体的には、どのような活動に特に力を入れていくお考えですか。




第一には、自由で公正な貿易・投資の環境を守り、発展させていくための活動です。商社の活動にとって重要なのは、人、物、金、情報であり、これを自由に交流させていくことが必要です。未来をカタチにする活動を進めるには、企業が縦横無尽に動き回れるルール、環境の整備が大前提です。最近、保護貿易主義や自国第一主義が台頭し、その大前提が揺らいでいるのは大きな問題です。

これまで世界が繁栄してきたのは、自由で公正な貿易や投資のルールがあり、それに基づいて、経済交流を拡大してきたことが基盤にあると思います。日本は貿易立国といわれ、今後は投資立国になっていくでしょうが、日本が引き続き繁栄し、世界の繁栄にもつながるような活動をぜひ推進していきたい。そうした環境づくりのための提言や働き掛けを積極的に実行していきたいと思います。

第二には、キャッチフレーズの説明でも触れました、持続可能な社会の実現、地球規模の課題解決に貢献する活動です。この点では、今年(2018年)3月に「商社行動基準」を改定しましたが、そこに書かれている言葉が非常に重要です。まず、何のために商社は存在するのか、持続可能な社会の実現であると、まえがきに書いてあります。ここは大事にしたいと思っています。その上で、商社がSDGsの諸目標を念頭に置き、イノベーションやパートナーシップ構築などを通じて、その機能を発揮するとしています。ここで、忘れてならないのはコンプライアンスの問題です。商社は、世界の隅々まで事業活動を行っています。国や地域によってそれぞれ事情が異なりますが、コンプライアンスの順守、徹底が、事業活動を行っていく上で必要不可欠です。今回、会長に就任するに当たって、この「商社行動基準」を周知徹底していくことが、自分自身が果たすべき責任の一つだと考えています。

社会貢献という点では、日本貿易会はABIC(国際社会貢献センター)という、非常に重要な団体を設立し、サポートしています。多くの商社OB・OGがABICの活動メンバーとして、国際理解教育や職業講話の講師をしたり、在日外国人や留学生の支援をしたり、さまざまな分野で社会貢献活動に参加されているのは大変うれしいことです。最近は地方自治体から地元産品のプロモーションなどに必要な人材としてもニーズが高いと聞いていますし、JICA、JETROや外務省、経産省、厚労省などのお手伝いもしています。私はABICの会長にも就任しましたので、ABICの活動もさらに広げていきたいと思います。

商社の機能という話が出ましたが、今後の商社の役割については、どのようにお考えですか。

SDGsで示された目標に向けて、商社が果たせる役割、貢献には非常に大きなものがあると思いますし、その取り組み自体が商社にとってビジネスチャンスにもなります。

例えば、これからビジネスの世界は、いわゆるIoTやAIなどの登場により大変革がもたらされます。自動車ビジネスはその最たるものでしょう。コネクテッド、自動運転化、EV化、シェアビジネスなど、さまざまな動きがありますが、グーグルが自動運転に取り組み、テスラが電気自動車に取り組んだように、大きな変革は自動車産業の中からではなく、外から出てきています。

今までは自動車業界といったらここまでといった線引きができたものが、シェアビジネスでは金融業界と接点ができるなど、いろいろな産業、企業がクロスオーバーしてきています。こういうことが自動車のみならず、いろいろな産業で起こってきているのが、今の時代であり、これから迎えようとしている時代だと思います。かつ、その変化のスピードが大変速い。第4次産業革命という言葉が使われていますが、第1次、第2次、第3次の産業革命が要した時間よりもはるかに短い期間、かつて30年から50年かかった変化が、今では5年や10年でやってくる。それくらいのスピード感で進行しています。

クロスオーバーにより新たな産業が次から次へ生まれてこようとしている中、日本貿易会は、全ての産業と深いつながりを持っています。今後、商社は、異業種を結び付け、新たなビジネスを創出する機能を強化することで、活躍の場をいっそう広げていくことができると思います。

中村邦晴会長プロフィール

1950年8月28日生まれ、67歳
1974年4月に住友商事(株)入社、人事第二部に配属
1977年10月に自動車部
1982年6月に自動車第一部からロサンゼルスの自動車販売会社に出向
1984年7月-86年5月
および1992年3月-97年2月
自動車第五部からプエルトリコの自動車販売会社に出向
2005年4月に執行役員 経営企画部長
2009年4月に専務執行役員 資源・化学品事業部門長
2012年4月に代表取締役副社長、6月に代表取締役社長
2018年4月に代表取締役会長、6月に取締役会長(予定)

感銘を受けた書籍

土光敏夫『経営の行動指針』

座右の銘

まことに日に新たに、日々新たに、また日に新たなり

趣味

旅行

中村会長の人となりについて当会若手職員の髙木美羽、岡﨑隆清が聞きました。




商社パーソンとしての経験の中で一番印象に残っていることは何ですか。


私にとってはプエルトリコでの駐在経験が、会社人生の中で一つの原点になっています。私は2回にわたって日本車の輸入代理店に出向し、2度目の時は社長を務めました。そんなに大きな市場ではありませんが、競争は厳しく、ディーラーや銀行、保険会社と協力して販売拡大に取り組んだのですが、いろいろ厳しいことも申し上げました。しかし常に地域への利益還元という視点は忘れなかったつもりです。5年間の駐在期間を終えて、社長交代のパーティーを行った時に、お付き合いをしていた会社の社長など何人かの人から、「あなたと仕事ができてものすごくハッピーだったよ」と言われたのです。その言葉が大変うれしかった。自分は仕事を通じて、こういう思いを持ってもらうことができる。仕事は、自分がハッピーになるだけでなく、他人もハッピーにする仕事でなければいけないんだということを、その時に感じました。

失敗の経験もありますか。

失敗は数え切れないくらいあります。初めての駐在で、米国の日本車輸入代理店に勤務しました。駐在して1年程度たった頃、日本車メーカーに発注する際、南に出す車はエアコン付き、北に出す車はエアコン無しというところを、5,000台ぐらいを逆にしてしまいました。

その間違いに気づいた瞬間、人間って弱いもので、最初に言い訳を考えたのです。しかし、言い訳をしても何の解決にもなりません。問題を解決するために、自分が間違ったことを正直に伝えました。そうしたら現地人マネジャーが、「分かった。心配するな。何とかするから」と対応してくれまして、こうやったらいいとアドバイスもしてもらえました。

正直に話せば、一緒になって対応を考えてくれる人がいます。物事で肝心なのは、自分が行った過去のことをどうするかではなく、これからどうやって解決するか、将来をどうするかです。自分の生き方として、何事も正々堂々とやろうと思ったのは、その時からです。

新入社員時代で思い出すことはありますか。

入社して配属となったのは人事部でした。私は商社に入社した限り、どうしても営業をやりたい、営業で海外に行きたいという希望を持っていましたが、まずは上司に認めてもらわなければ希望はかなわないと悟りました。それで、とにかく3年間は、日々の仕事をしっかりとやろうと決意しました。それからは、3年を一区切りとして仕事を捉え、1年目は慣れる、2年目はどれだけスムーズにできるか、3年目には、どうやったら改革できるかを目標にしました。

経営者として重視していることは何ですか。

現場をよく知ることです。現場をよく分かった上で判断しなければ、指示したことが失敗に終わってしまうことになりかねません。みんなが同じ方向を向いて、これで進むぞという形にならなければいけないと思うのです。

そして現場を知るために対話することを心掛けています。現場を訪問していろいろ話を聞きます。

例えば、現地人マネジャーには、国内のリーダーシップ研修後に、感想を聞いたりします。海外出張に行けば、事業会社のオフィスで、ナショナルスタッフと呼ばれている現地の人たちとも懇親します。5~6人を一つにしたグループに分け、彼らの話を聞いてコメントします。先日、日本に研修に来たねという話をすると非常に喜んでくれますが、逆に、この前、研修後に会ったじゃないかと言われたりすることもあります(笑)。

最後に、若手世代の商社パーソン、当会職員へ、メッセージをお願いいたします。

世の中の変化のスピードは大変速くなっています。そういう中でいろいろな意見がたくさん出てきて、何が正しいのか、よく分からないこともあると思います。私はその中で、バックボーン、軸、物差しといわれるような自分なりのしっかりとした考えを持つことが大事だと思っています。

それを持つには、いろいろな人とコミュニケーションをとることです。それは同世代であれば、同じ職場の中にもおられると思いますが、学生時代の友人ならば異なる産業に就職した人、上下関係であれば、社内外の人たちと交流を図り、その人の考え方や行動の基準となっているのは何なのかを見極めます。あとは本を読んで、自分の中で重要なことを学ぶこともできます。

私の場合は、何事も正々堂々とやらねばいけないということ、あとはフェアでなければいけない、自分たちの会社の経営理念や事業精神を守ることを軸としています。

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