国際物流の動向と商社の役割

流通経済大学 流通情報学部教授
林 克彦

1.はじめに

国際物流に関わる主体は、物流管理を行う荷主企業と、物流サービスを提供する船社、フォワーダー等の物流企業に大別される。グローバル展開する荷主企業にとって調達、生産、販売等に関わる物流を統合的に管理することは極めて重要な課題である。一方、迅速かつ低廉な国際物流サービスは、それ自体が重要なサービス分野であり、荷主企業のグローバル活動を支える重要な役割を果たしている。

以下では、国際物流の需給両面について、荷主企業のグローバル化とロジスティクス・マネジメント、コンテナ輸送、航空貨物輸送、フォワーダー等の動向を把握する。その中で国際物流に関係するさまざまな主体の役割について把握するが、需給両面に関係するユニークな存在である商社について期待される役割についても最後に触れることとする。

2.企業活動のグローバル化

近年、企業のグローバル化が急速に進展している。世界の貿易は拡大を続け、民間直接投資も増加基調にある。複数国で資産を保有する多国籍企業の数は、世界で8万2,000社、その子会社は81万社に及ぶという(UNCTAD、World Investment Report)。リーマン・ショックの影響によって、2009年に貿易額や直接投資が減少したが、その後の動向を見ると一時的な現象にとどまりそうである。

日本企業に限ってみても、2010年度末現在の多国籍企業の数は約4,200社(金融・保険・不動産を除く)、その海外現地法人の数は約1万7,700社に上る(経済産業省『海外事業活動基本調査』)。

日本の多国籍企業の進出先はアジアが中心である。その海外現地法人の立地分布を見ると、中国が全体の30%を占め、ASEAN4(マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン)が16%、NIEs3(シンガポール、台湾、韓国)が13%を占め、アジア地域が過半数を上回っている。海外現地法人の地域別売上高を見ても、アジア地域が最大であり、リーマン・ショックの影響も比較的小さかった。

企業活動のグローバル化は、世界貿易機構(WTO)によるモノとサービスの貿易自由化によって促進されてきた。最近ではWTOにおける多国間交渉が停滞する一方、2国間の自由貿易協定・経済連携協定(FTA/EPA)の締結が進んでいる。これらの協定に含まれる関税・非関税障壁の撤廃、直接投資の自由化等の措置を見越した企業のグローバル展開が進んでいる。

FTA交渉で先行するASEANでは、既にさまざまな企業展開が見られる。日本はASEAN諸国との2国間FTAに加えて、日ASEAN包括的経済連携(AJCEP)を締結している。日本企業は、これらの協定を活用し、ASEAN自由貿易協定(AFTA)による域内関税引き下げを見越して、ASEAN域内に水平分業体制の構築を進めている。

3.ロジスティクス・マネジメント

グローバル企業は、世界中の現地法人や他の企業との間で、原材料、部品、半製品、製品をやり取りしている。進出先で部品や原材料を調達し、現地で製品を販売する傾向を強めているが、国境を越えた調達、販売も重要である。

このような国境を越えた調達、生産、販売体制は、企業が世界中で最適な立地を選択した結果である。さらに、自動車、電気機械等の工程別、部品別に分業しやすい産業では、高度な水平分業体制が構築されている。世界中から品質水準を満たした上で最も低廉な部品を調達するグローバル・ソーシングが取り入れられている。生産面では、規模の経済が働く生産工程では集中的な生産拠点を設ける一方、最終的な仕様決定段階を消費地の近くに設け市場ニーズに適合させるなどの立地体制を築いている。

このようなグローバル体制を効率的に運用するためには、単純に輸送費用を削減するだけでなく、原材料、部品、仕掛品、製品の在庫を削減する必要がある。ここで重要となるのが輸送、保管等の個別活動を部分最適化するにとどまらず、調達・生産・販売を統合的に最適化しようとするロジスティクス・マネジメントである。

その代表的な取り組み例として、ロジスティクス・ネットワークの要である物流拠点の集約と機能の見直しが挙げられる。在庫削減では拠点集約化の効果が高いが、国境で分断された国際市場で効果を上げることは難しかった。しかし、近年は域内関税障壁の削減に対応して、シンガポールやバンコク、香港、上海等に国際調達拠点(IPO)や物流センターを設ける動きが加速している。また物流拠点の機能面では、IPOに代表される大量調達機能だけではなく、流通加工、クロスドック、VMI(Vendor Managed Inventory)等、さまざまな機能が導入され、効率化が図られている。

4.コンテナ港湾のハブ競争

荷主企業は、ロジスティクス・ネットワークのリンクである輸送機関を適切に使い分けることが重要な課題となっている。原材料、農産品等のバルク貨物を除く一般貨物の輸送では、コンテナ輸送が重要な役割を果たしている。

貿易量の増大とともに、コンテナ輸送需要も急増を続けてきた。2009年は世界同時不況の影響で一時的に減少したが、2010年には増加に転じた。中でも中国をはじめとするアジア地域の港湾の取扱量は急増し、コンテナ取扱個数で上海、シンガポール、香港、深圳、釜山、寧波、広州、青島(2010年上位港)等のアジア主要港湾が世界の上位を占めるようになった(Containerization International)。喧伝(けんでん)されるように日本の港湾の相対的な地位は低下を続け、日本最大の東京港の取扱量は世界27位まで低下している。

一方、コンテナ船社は、主要国の規制緩和により定期船同盟が市場支配力を失ったため、激しい競争を繰り広げるようになった。その結果、世界の船社は少数のメガキャリアとグローバル・アライアンスに再編された。コスト削減のため、1万TEU(20フィートコンテナ換算個数)を超える超大型船の投入が続いている。このような大型船は大水深のハブ港湾にしか寄港できないため、主要港は競って港湾整備を進め、航路を誘致しようとしている。

一方、日本では集中的な港湾整備が遅れ、主要港ですら抜港が現実の問題となっている。日本企業のグローバル・ネットワークを維持するため、日本でもハブ港湾を維持していくことが課題となっている。

5.航空貨物輸送のインテグレーター化

輸送中の在庫を削減したり、品切れ損失を防いだりするため、高付加価値品では航空貨物輸送がしばしば利用される。また生鮮品、高級食品では、品質を保つためにも航空輸送が使われる。国際水平分業の拡大とともに高付加価値製品・部品が増え、貿易額に占める航空輸送の割合(航空化率)が高まる傾向にあり、先進国では数十%を占めるようになっている。

運賃が高い航空輸送は、景気によって左右されやすい面もある。リーマン・ショックでは、航空輸送をよく利用するハイテク産業が打撃を受けただけでなく、輸送コストを削減するためにコンテナ輸送への切り替えも行われた。日本発の混載航空貨物輸送量の動向を見ると、対前年同月比半減となる月があるほど打撃を受けた。

航空貨物輸送の産業構造について見ると、日本では、営業、集配等を行うフォワーダーと 空港間輸送を行う航空会社(キャリア)が分業していることが特徴である。欧米諸国では、両者の機能を統合したインテグレーター(FedEx、UPS、DHL、TNT)が小型貨物(スモールパッケージ、クーリエ)を中心に圧倒的な市場支配力を持っており、日本やアジアにも進出している。日本でも、全日本空輸が沖縄ハブを拠点にアジア域内で急送市場を開拓しようとしており、その動向が注目される。

6.フォワーダーの海外ネットワーク拡大

フォワーダーは、荷主企業の求めに応じて多種多様な物流サービスを提供している。あらゆる輸送機関の利用運送、異なる輸送機関を組み合わせた複合輸送、さらに通関、梱包、荷役、保管、集配、流通加工等、さまざまな付加サービスにより、総合的な物流サービスを提供している。特に国際物流では、通関処理をはじめ、貨物取り扱いや書類作成等でさまざまな専門的業務が必要であり、荷主企業の国際物流管理でフォワーダーが不可欠な存在となっている。

また、荷主企業のロジスティクス・ニーズの高度化やアウトソーシングの動きに対応して、3PL(サード・パーティ・ロジスティクス)サービスにも取り組んでいる。前述のクロスドック、VMIの実際のオペレーションは、フォワーダーに委託される場合が多い。

フォワーダーは、荷主企業の海外展開に合わせて、1980年代後半以降急速に海外に進出し始めた。最近では、顧客に追随するだけでなく自らネットワークを拡大する動きも盛んである。2010年現在、現地法人数546、合弁会社数298、駐在員事務所数253まで増加している。地域別には、アジア地域への立地が増加しており、中国のWTO加盟後に現地法人へ切り替える動きが顕著となった。海外現地での定期トラック輸送網の整備や物流センターの自営化、IPOの受託・運営等にも積極的に取り組んでいる。

7.商社に期待される役割

以上、国際物流の需給両面についてその動向と主体別の役割を見てきた。商社の中心機能である貿易や商取引からは、荷主の視点でグローバル規模でのロジスティクス・マネジメントが重要となる。商社は、世界中に多数の現地法人や拠点を持ち、その間の調達、販売に関わるロジスティクス・マネジメントに積極的に取り組んでいる。

さらに商社には、市場開拓や事業開発の機能があり、異なる企業を結び付ける役割がある。この側面からは、世界に広がる多段階のサプライチェーンを効率的に組み合わせ管理するグローバルSCMを促進する役割が期待される。これは、他の主体と比べて多様な機能とネットワークを持つ商社に、最も期待される役割であろう。

一方、商社の中には、自社の運輸部や物流部のサービスを外販し、フォワーディングを中心とした物流事業に参入するところも増えている。この場合でも、物流企業と同様な機能に加えて、商社ならではの貿易、情報調査、市場開拓、金融等の機能を組み合わせることにより、荷主企業の物流を超えた多様なニーズに対応することが期待されている。

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